かつて北前船で栄えた港町・橋立(はしたて)
石川県加賀市の橋立地区は、江戸時代から明治時代にかけて北前船主の集落として栄えたまち。北前船とは日本海回りで北海道と大阪を往復した商船のことで、航海のたびに莫大な利益を上げました。多くの船主が暮らした橋立は繁栄を極め、「日本一の富豪村」といわれたそうです。
赤瓦葺きの北前船主屋敷が点々と残る橋立は、現在は石川県有数の漁港を抱える港町となりました。一年を通して日本海の幸が水揚げされ、その顔ぶれは季節ごとに多種多様。寒風が吹きすさぶ頃になると、冬の味覚の王者「加能(かのう)ガニ」がお目見えします。
冬の日本海からお届け!うま味をたたえた加能ガニ
こちらが返礼品の「加能ガニ」。ご覧ください、この堂々たる姿!加能ガニとは石川県内で水揚げされた雄のズワイガニのことで、毎年11月6日から翌年3月20日までが漁期と定められています。脚に付けられた水色のタグが加能ガニの証。なかでも橋立産は、プロの料理人も一目置く品質の高さで知られています。
橋立漁港のすぐそばで、獲れたての天然魚介を商う
今回の返礼品をお届けする「マルヤ水産」は、鮮魚や水産加工品の販売と、底引き網漁船の運営を手がける水産会社。橋立漁港の目の前に構える鮮魚店では、鮮度と味にこだわった地元産の天然魚介を販売しています。
加能ガニ漁が解禁されて間もなく、マルヤ水産の鮮魚店を訪ねました。店内はカニ目当てのお客で大賑わい。店員さんとのやり取りを楽しみながら、熱心に品定めをしています。
店内にある水槽の中には、生きたカニがいっぱい!今回の返礼品でもある1kgサイズは、地元に住む私もめったにお目にかかれない大きさです。目を丸くしながら水槽をのぞく私に「確かに1kgを超えると迫力がありますよね」と代表取締役の湯谷誠(ゆうやまこと)さん。湯谷さんに、橋立産の加能ガニがなぜおいしいのか尋ねました。
カニにとって恵まれた生息環境。しかも日帰り漁で新鮮!
「漁場は橋立沖30~50kmにいくつかあります。夜中に港を出て、カニを獲って帰港するのがその日の夕方。すぐに選別して18時半のセリにかけるので鮮度は抜群です」。
さらに漁場の環境にも恵まれているのだとか。「ズワイガニって通常、海底の泥の中に棲んでるんですよ。ところが橋立の漁場は海底が泥じゃなくて砂地なんです。茹でると分かるんですが、お湯に浮かんでくるアクの汚れが少なくて、きれいなんですよね」と湯谷さん。さらに興味深い話が続きます。
「ズワイガニの産地当てクイズをしたら、橋立産はすぐ分かります」。え~!? 同じ種類のカニなのに、どこがどう違うんでしょうか。「橋立産は他産地より深いところに棲んでいるので脚が長いんです。体の色はやや赤みがかっていて、茹でると艶が出ます。味も全然違いますよ」。良質な餌が豊富にあるためか、身に脂があり濃厚な味わいなのだそう。
橋立のプライドをかけた厳しい選別
湯谷さんが港を案内してくれました。こちらがマルヤ水産が運営する底引き網漁船「宝勝丸(ほうしょうまる)」。カニ漁は日本海が荒れる冬に行われます。「漁に出られる日は限られてるんで、やっぱり良いカニを持って帰りたいわけですよ。一方でセリに間に合うように帰港しなきゃいけない。船から無線で『ギリギリまで粘るよ』と連絡が入ると、僕らも『よっしゃ、帰ってきたら総出で手伝うから任せとけ』って。カニの時期は気合が入りますね」。
船が港に戻るとすぐに、セリに備えて選別がスタート。橋立漁港のカニの選別は、とても厳しいことで有名です。「大きさでまず12段階に分けます。それから脚の数、身の入り、傷など状態によって選別して、最終的には100種類くらいに分けますね」。
なぜ、それほどまでに選別にこだわるのでしょうか。「橋立には、セリ落とした魚を直接消費者に販売する業者が多いんです。市場を通さないから、お客さんの顔が直接見える。だから魚はもちろんですが、カニも納得できるものしか扱いません」。海の幸が豊富な土地柄だけに、目も舌も肥えたお客さんばかり。品質の良さは「橋立のプライド」の表れでもあるのです。
セリが始まる時間が近づくと、港は緊張感と熱気に包まれます。「みんな一番良いカニがほしいから、それはもう熾烈(しれつ)な争いですよ。ライバルたちに負けるわけにいかない。だからいろいろ戦略を練りますね、あの手この手で」と湯谷さんは笑います。
おいしさを極めたいから、茹で時間も分刻み
セリ落としたカニはすぐに茹でるのではなく、いけすに数日間入れておく必要があります。「水揚げしたばかりのカニは、砂を噛んでるんですよ。だからいけすで砂を吐かせます」。
砂や泥を完全に吐かせたら、いよいよカニを茹でる作業です。「いきなりお湯に入れると脚が取れるので、まず真水で締めます。茹で時間は重さごとに分単位で変えています」。
ぐらぐらと煮え立つお湯から上がった加能ガニは鮮やかな赤色に染まり、湯気とともにふんわりと潮の香りを漂わせています。
茹で上がったら、味噌がこぼれないように甲羅を下にして並べます。仰向けになって、ゆっくりと熱を冷ますカニたち。「お腹の殻が透けて、身が見えるでしょ?ほら、身がぎっしり詰まってるの、分かります?」と湯谷さん。分かります、分かります!どのカニもみっちりと身が入っています。
こうしてさっきまで生きていた加能ガニは、茹で上げたその日のうちに皆さんのもとへと発送されます。
「良いものしか扱わない」という心意気
かつて北前船で栄えた橋立には、今も海で生きる“北前魂”が息づいています。湯谷さんの「橋立のプライド」という言葉はまさに“北前魂”そのもの。カニの漁場が近いという地の利だけに頼るのではなく、厳しい選別、セリの真剣勝負、加工技術など、おいしさの追求に一切の妥協はありません。
品質に絶対の自信あり!「橋立産」のタグが目印
カニの解禁日が近づくと、冬のごちそうを心待ちにする地元の人々はそわそわし始めます。鮮魚店の店先を埋め尽くす赤いカニは、冬を告げる風物詩。カニがなければ北陸の冬は始まりません。
そんな地元でも、とりわけ定評がある橋立産加能ガニ。皆さんにもぜひ味わっていただきたい、期間限定の極上グルメです。さばき方が分からない方も大丈夫。写真入りで説明したしおりを添えてあるので、身はすみずみまで、味噌も残さず存分に楽しめますよ!
中部支部(石川県加賀市担当) / 森井 真規子(もりい まきこ)
石川県小松市在住のライター。航空自衛隊、海外生活を経て故郷にUターン。金沢のライター事務所で修業を積み、2005年からフリーランスで活動しています。出会う人やモノ、コトのストーリーを丁寧にすくいあげ、分かりやすい言葉で伝えることを心がけています。
かつて北前船主が暮らした加賀市橋立の町並みは、重要伝統的建造物群保存地区に選定されており、歴史散策が楽しい界隈です。