自宅で生ハム一本を丸ごと楽しむ
レストランやバルに行くと、カウンター上に生ハムの足が丸ごと一本置いてある光景を目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。これを「生ハム原木」と呼びます。その豪華な光景から「お店だけで楽しめる特別なもの」と思うかもしれません。しかし、誰でも手軽に生ハム原木のオーナーになれるのが、今回紹介する返礼品です。
自ら仕込んだ生ハム原木を、自分でカッティングしながらワインなどのお酒とともに楽しむ時間はまさに至福の時です。ほどよい塩気に噛めば噛むほど広がるうま味。「自分で仕込んだ生ハムをつまみに、ぜいたくなおうち時間を楽しんでほしい」と話す有限会社伊豆沼農産の取締役佐藤裕美(ひろみ)さんに話を伺いました。
国内でも有数の米どころ・登米市
伊豆沼農産があるのは、宮城県北の内陸に位置する登米(とめ)市。広大な大地と豊かな水源を生かした米作りが盛んで、海運を利用して石巻港から江戸に多くの米を供給していたといわれています。「江戸に米がのぼる(登る)」ことから「登米」という地名が残ったと言われるほど歴史ある稲作地帯です。
今回お話を聞いた佐藤さんは秋田県出身。「東京の広告代理店で働いていたときに発生した東日本大震災で、消費する場所である都市部のもろさを思い知らされたんです」。それがきっかけとなり「食や農業の分野に関わりたい」と縁もなかった登米市に移住して早10年。「住めば住むほど豊かな場所だなと感じています。食べ物を自分たちで生み出すことができるというのは、何事にも変え難いとより一層思うようになりました」と登米市の魅力を語ります。
地域の農業・食と都市部のハブになる
そんな登米市と隣町・栗原市にまたがる伊豆沼のほとりにあるのが、有限会社伊豆沼農産。ラムサール条約登録湿地である伊豆沼は、夏にはハスの花が一面を埋め尽くし、冬には越冬する渡り鳥の住みかとなり、四季折々の自然の雄大さを感じさせてくれる場所です。
そんな地域を拠点に「農業を食業に変える」という理念を掲げ、伊豆沼農産が立ち上がったのは1988年。自分たちで育てた豚を、自分たちの施設で加工して商品を届けてきました。さらに手作りウインナー体験をはじめ、食文化や農業体験などができる農業と食の中核施設となっています。コロナ禍前には、年間3000名以上が食農体験に参加。コロナ禍でもオンラインでその取り組みを継続するなど「都市と地域」をつなぐ役割を果たしてきました。その功績が認められ、2021(令和3)年の「地産地消等優良活動表彰」食品産業部門で農林水産大臣賞を受賞しています。
モモ肉丸ごと一本の生ハムオーナーになれる
そんな伊豆沼農産が2015(平成27)年から始めた試みが、今回の返礼品である「生ハムのオーナー制」です。「伊豆沼農産の工房にお越しいただいて、豚の骨付きモモ肉丸ごと一本の血抜きと塩漬けという生ハム作りの大切な工程をお客さま自身に体験していただきます。仕込んだモモ肉は伊豆沼農産が預かり、生ハム専門の工房で約13ヶ月ほどかけて熟成。完成した原木一本の生ハムをお客さまのもとにお届けする仕組みです」と話す佐藤さん。
仕込むモモ肉は一本で約10kg。熟成期間を経た完成品は7?8kg(骨含む)の生ハムになるとのこと。さらに熟成期間中も問い合わせがあれば途中経過を報告するなど、仕込みから完成までの一部始終を楽しむことができます。
赤みが強く、うま味が凝縮する地元の良質な豚肉を使用
「生ハムの主な原材料は豚肉と塩。『お肉の漬物』と言われるほどシンプルな食べ物だからこそ、素材のおいしさが非常に大切」と話す佐藤さん。「国内で流通している生ハムのほとんどは輸入物です。伊豆沼農産の生ハムは、登米市で活躍する指定農場でこだわって飼育されている伊豆沼豚を使用しています」
「伊豆沼豚」は2019(令和元)年に登場したばかりの新しいブランド豚。そのこだわりは、豚が食べる飼料にあります。腸内環境を整える乳酸菌や、免疫力を高める海藻粉末、栄養を体に行き渡らせる鉄分などを独自の飼料に配合。子豚から出荷まで一貫して与えて、健康で安定した肉質を実現しています。こうして育った豚は「ジューシーな肉質が特徴で、臭みが少なく、赤みが鮮やかで柔らかな肉質が特徴です」と佐藤さん。「赤みが強い豚だからこそ、熟成してうま味もぎゅっと凝縮され、生ハムにぴったり」と太鼓判を押します。
地域に足を運ぶきっかけになるオーナー制
2015年から始まった生ハムオーナー制は、「いつかやってみたかった」「原木一本の生ハムは憧れだった」と佐藤さんの予想を上回るほどの好評の声が届いているそう。全国各地から生ハム好きの方々、飲食店オーナーなどさまざまな人が生ハムオーナーになっています。「なかには毎年のようにオーナーになってくれる人もいて非常にうれしいです。そして何よりも地域に足を運んでいただく機会ができて、消費者と地域、農村がつながるきっかけになっていることに価値を感じています」と目を細めます。
消費者が食の現場や農業について身近に感じてもらうために、まずは地域に足を運んでもらいたいという伊豆沼農産の想い、そして佐藤さん自身が移住のきっかけとなった想い。それが生ハムオーナー制で体現されているのです。
オリジナルの生ハムでぜいたくなおうち時間を
完成した生ハムは、冷蔵室での保管をお願いしているとのこと。しかし7?8kgもある原木ではかなり大きなスペースを必要となってしまいます。そのため生ハムオーナーとなることをためらってしまうことも…。「そんな方にはオプションでスライスしてパック詰めを行うサービスもあります。こちらは友人や家族に配ったりしている方も多いようです」と佐藤さんは話します。
家庭でホームパーティーで削ぎたてを楽しんだり、友人や家族にお裾分けしたり。世界に一つだけのオリジナル生ハムで少しぜいたくなおうち時間を楽しんでみませんか。
東北支部(宮城県登米市担当) / 浅野 拓也(あさの たくや)
宮城県南三陸町在住。埼玉県で生まれ育って、中東やアフリカを旅していたら、東北の港町に移り住んでいました。震災で多くを失った人たちが、前をむいてポジティブ歩みを進める姿のとりこに。そんなチャレンジャーたちの「しなやかな力強さ」をお伝えしていきたいです。
登米市は、私の住む港町南三陸町の内陸に位置し、里山の食の魅力が溢れる地域です。