山梨県富士河口湖町
笑顔を届け続ける「大曲の花火」
2021.03.13
この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。
今回スポットをご紹介頂いたのは、地元産の蜂蜜やバラを使った商品を販売する「ローズメイ」の 原田青さんです。
高品質な蜂蜜が採れる大仙市
秋田県大仙市で、地元産の蜂蜜やバラを使った商品を販売するローズメイ。秋田県は日本でも有数のトチノキの産地であることや、広大なアカシア群生地があることから、純度の高い蜂蜜を採ることができます。なかでも7~8月に販売される「新蜜」は、春から初夏にかけて開花するマロニエやアカシアの花から採れたフレッシュな蜂蜜。毎年、新蜜が売り出されるのを心待ちにしている常連客も多いそうです。
ローズメイの代表を務める原田青(はらだせい)さんに、大仙市の「100年先にも残したいもの」を伺うと、「大仙市といえば花火です。2020年は感染症対策で花火大会が延期になりましたが、ぜひ復活して100年先まで続けてほしいです」と、教えてくれました。また大仙市育ちの同社スタッフ高橋和美(たかはしかずみ)さんは、「子どものころ、家族みんなで河原に寝転がって花火を楽しんでいましたね」と続けます。空から降り注ぐ大輪の花は、子ども心にとても感動したのだとか。「『今年は少し風があるから、煙が残らず花火がキレイに見えるね』『大会提供前はトイレが混むから、早めに行っておいた方がいい』など、ちょっとした花火あるあるは、両親から私へ、そして私から今度は子どもたちにも代々受け継がれています」。
私も花火が大好きで、大人になった今も「どーん!」という音が鳴ると、思わず外へ出て眺めてしまいます。そんなワクワクする花火のお話しを聞くため、秋田県大仙市へと向かいました。
月に一度はまちのどこかで花火が上がる
「毎月花火が打ち上がるまち」として知られる大仙市は、夏だけでなく一年を通して花火を楽しむことができます。元旦のニューイヤー花火に始まり、桜の季節や七夕、盆踊りなどに合わせて打ち上げるほか、冬には大曲の花火-冬の章-「新作花火コレクション」も開催されます。時折、花火会社による試し打ちもあるそうで、花火の打ち上げが日常の風景になっているのです。一体、いつから花火が盛んになったのか。大仙市にある「花火伝統文化継承資料館 はなび・アム」の鈴木知哉(すずきともや)さんにお話しを伺いました。
大仙市出身で子どものころから花火が身近にあり、特別なものという感覚はなかったと語る鈴木さん。でもある時、ほかの土地の花火大会を見て、大仙市のレベルの高さを実感。「だから地元の花火大会には、あんなに人が集まるのか」と納得したそうです。
壁一面に掲示された年表を見ると、大仙市の花火のルーツは江戸時代までさかのぼります。言い伝えによると関ヶ原合戦のあと、常陸国(ひたちのくに、現在の茨城県)から秋田県へと国替えになった佐竹氏配下の火術家が国入りの途中で村娘と恋仲になり、そのまま隠れ住むようになったそうです。その村で火術家が作り始めた花火が現在に至っているとのこと。
現在、秋田県内には9つの花火会社がありますが、大仙市にある花火会社は全部で5つ。県内 の半数以上が大仙市に集中しています。
基本の花火から変わり種まで
花火の種類は大きく分けて3つあり、まず「割物(わりもの)」は丸く円を描く日本伝統の基本的な 花火です。そして「小割物」は光を放つ星とそれらに火をつけ飛ばす割火薬を大きな玉に仕込んで開花させるもの。打ち上がった花火が割れたあと、ワンテンポ遅れて小花が一斉に花開く華や かな花火です。
そして3つ目の「ポカ物」は、花火玉の中に星や細工を放出するものが詰まっている変わり種。星 を左右に噴出する「分砲(ぶんぽう)」(写真下)や、バンバンと音を出しながらギラギラと強い光を 放つ「花雷(はならい)」、色煙を出すパイプを吊った落下傘(写真上)などが仕込まれている昼用 の花火もこれに含まれます。
花火で使われる火薬は、花火玉を割るための「割火薬(わりかやく、もしくは割薬/わりやく)」と、上空で開花した際に光を放つ「星」の2種類を使います。星は直径2mmほどのセラミックの芯に、粉状の火薬を配合したものを水に溶いた「トロ」とよばれる泥状にしたものを付着させ、雪だるまのように大きくします。1日に1mmほどしか大きくできず、時間と根気が必要な作業です。その後、花火玉の形状の紙の器「玉皮(たまがわ)」に星と割火薬を規則正しく詰める「玉込め」を行い、左右の玉皮を貼り合わせて花火玉の完成となります。
花火は上空に上がると約1000倍の大きさで開花するため、少しでも星の位置がずれると花火全体の形が崩れてしまうのだそう。玉込めはベテランの花火師でも神経を研ぎ澄まして行う難しい作業です。
ちなみにこれは20号(二尺玉)。直径は約60cmで、重さはなんと60kg!成人男性の鈴木さんも、おいそれと持ち上げられないほどの大きさです。うーん、重い!
大仙市は「創造花火」発祥の地でもあります。創造花火とは、全国花火競技大会で長く大会委員長を務めた佐藤勲氏が発案したもので、「花火は丸いもの」という従来の概念にとらわれない創造性に富んだ花火のこと。三角や四角など形にこだわらず、全体の演出でリズム感や立体感を狙った常識やぶりの花火は、昭和38年の大会において全国で初めて打ち上げられました。観客は見たことのない新しい花火に魅了され、惜しみない拍手と歓声を送ったといいます。
花火を作るのは人の笑顔が見たいから
現在はコンピュータによる自動点火が主流になっていますが、創造花火が作られたころは花火師がストップウォッチを持って時間を計りながら一つ一つ点火していきました。
「花火が上がれば人は顔を上げる。うつむいている時も、花火を見れば前向きになれるかもしれない」。いつの世も、花火師たちはこうした思いを持って花火づくりに没頭してきました。花火が夜空を彩る時間は、わずか数秒ほど。その一瞬のために、彼らは技術を磨き花火玉に魂を込め続けてきたのです。手作りのため、二度と同じ花火は見られません。それでも100年先の人々が、今と変わらぬ笑顔で夜空を見上げていますように。大仙市の花火には、そんな願いが込められていました。
<今回の旅スポット>
施設名 花火伝統文化継承資料館 はなび・アム
住所 秋田県大仙市大曲大町7-19
電話番号 0187-73-7931
営業時間 9:00~16:00
休業日 月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始
※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。
地域ナビゲーター
東北支部 ふるさとLOVERSナビゲーター
山口 由
2011年、東日本大震災をきっかけに横浜から盛岡へUターン。現在はフリーライターとして、お店や人材の紹介、学校案内、会社案内、町の広報誌など幅広く活動中。取材を通して出会うさまざまな人の思いや歴史を知り、「岩手ってすごいなぁ」と実感する日々を送っています。趣味は散歩と読書、長距離ドライブなど。