新潟県
富士五湖に浮かぶ唯一の島「うの島」と祭り
2023.06.06
日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、山梨県富士河口湖町にある一般財団法人富士河口湖町ふるさと振興財団の加藤香さんに、うの島とそのお祭りを紹介いただきました。
河口湖に浮かぶ小さな島のこと
富士山の北側にある5つの湖、富士五湖。数千年前の度重なる富士山の噴火によって形成されたとされる富士五湖は、いずれも湧き水の湖であり、その美しさと周辺の豊かな自然環境が世界中の人々を魅了しています。
なかでも河口湖は、古くから多くの観光客が訪れる場所。晴れた日には湖越しに優美な富士山を臨む景勝地。湖畔沿いにはホテルやお土産屋さんが並び、富士山を眺めながら町歩きを楽しむ人たちの姿が目につきます。また、富士五湖の中で島があるのは河口湖だけ。河口湖には、「うの島」とよばれる無人島が存在します。
うの島と、島にある「うの島神社」で行われる例大祭を「100年先に残したい」と話すのは一般財団法人富士河口湖町ふるさと振興財団の加藤香さん。実は加藤さんのお母さまがうの島に強い思い入れがあるそうで、その魅力を加藤さんが代弁してくださりました。
「お祭りの日のみ大石地区から船が往来し、多くの人が島へ渡ります。お祭りは、普段は渡ることが難しい島に、立ち入ることができる希少な機会。地元の人々がとても楽しみにしていたのだそうです」。地元の人々に愛され続けるうの島と例大祭の魅力を取材しました。
湖のある町と、湖に浮かぶ島の歴史
富士五湖唯一の島である「うの島」は周囲350mほどの小さな無人島。河口湖のほとりにある大石公園からからその姿を見れば、湖の中にそびえる小さな山のようにも見えます。普段はほとんど人が立ち入ることのない小さな島には、歴史深い小さな神社が一つ。その祠(ほこら)は、河口湖の湖畔からも目視でその存在を確認することができます。
うの島について教えてくれるのは、大石観光協会の梶原雅人さん。梶原さんは大石公園のすぐ近隣にある「民宿やまと」を営んでいるほか、うの島神社のお祭りにも深く関わっています。うの島は、現在でこそ無人島ですが、かつては人が住んでいたそうです。島には「うの島神社」という神社があり、河口湖の水難除けや周辺地域の豊作を願う雨乞いの祈願所であったと伝えられています。
島の歴史は長く、縄文・弥生時代から中世までの遺跡がある島としても有名。今でも島の一部を掘ると、土器の破片が発見されるも。かつて人々が暮らしていた形跡が残っているのです。
地元の人々が大切に守る、島の祭り
うの島神社は、豊玉姫(トヨタマヒメ)を弁天様としてお祀りしており、毎年4月25日にはうの島大祭と呼ばれる例大祭が行われます。この日、大石地区の小学校はすべてお休みに。今も昔も、子どもたちが楽しみにする地域行事の一つです。
お祭りは、陸側の大石浅間神社で神事を済ませた後、祭りの関係者である宮司や稚児、大石太鼓の演奏者などが舟で島にわたり、「稚児の舞(地域の人々の健康と幸せ、そして少女たちが健康に成人して良い人生を歩んでほしいと願いを込めた舞)」を奉納します。
この日島に渡ることができるのは、お祭りの関係者だけではありません。近くの漁師さんたちが自前の舟を出して「うの島」へ渡りたい人を乗せてくれるので、島へ渡ることができる貴重な機会を求めて、今ではお祭りに合わせて全国から観光客が訪れます。
神事の後に奉納される稚児の舞は大正のはじめから1941(昭和16)年頃まで続けられてきましたが、戦争で一時中断。その後、1982(昭和57)年に郷土の伝統文化を継承しようと有志が集い、「大石太鼓と稚児の舞保存会」を結成し、今日まで活動を続けています。梶原さんは「大石太鼓保存会」の事務局も担っており、毎年地元の小学校で踊り手の稚児の希望者を募るなど、伝統の継承に努めています。
「舞は御幣(ごへい)の舞と、扇(おうぎ)の舞、そして剣(つるぎ)の舞の3種があり、過去に踊ってくれた先輩たちが先生となって約2週間ほど練習します。笛や小太鼓などのお囃子も地域の人たちによる生演奏です。少子高齢化が進む田舎町ですから、踊り手の子どもは減り、太鼓などを演奏するメンバーもどんどん高齢化。それでも地域の人々が楽しみにしている一日ですから、守っていかなければいけないと思っています」。
こうした保存会の取り組みはその功績が認められ、2007(平成19)年には神社庁より祭り保護の取り組みに対して表彰を受けました。
人々に愛され続ける伝統行事が息づくまち
地元の人々が愛し、守り、大切にし続けている祭りは、規模が大きく派手なものばかりではありません。うの島神社のお祭りは、地域の子どもたちに特別な一日を与えてくれるお祭りであり、自分が親になったら今度は子どもたちに楽しんでほしいと願う伝統行事。
「子どもの頃、その火だけ渡し船で島に渡れることがとても嬉しかった」と話す加藤さんのお母さまのように、大人になっても忘れることがない大切なお祭りなのでしょう。富士山の絶景とともに在るのは、地域の人たちが大切に守り次代へ残そうとする伝統のあり方。自然の美しさと町の伝統、人の温かさに触れる旅を、ぜひ味わってみてください。
施設情報はこちら
施設名 河口湖自然生活館
所在地 山梨県南都留郡富士河口湖町大石2585
営業時間 ショップ 9:00~18:00 ※10月~2月は17:30まで
カフェ 9:00~17:00(LO 16:30)
※10月~2月は16:30まで(LO 16:00)
ジャム作り体験(1日7回)最終受付16:00 ※現在お休み中
入園料 無料
公式サイト http://www.fkchannel.jp/naturelivingcenter/
※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします
地域ナビゲーター
中部支部 コピーライター
小栗 詩織
岐阜県出身、山梨県甲府市在住。フリーランスのコピーライターです。お酒と山登りと海と温泉が好き。フルマラソン完走4回(自己ベスト4時間16分)。一児の母。