沖縄県南城市

壮大な城壁が残る文化遺産「糸数城跡」

2021.08.17

この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。
今回スポットをご紹介頂いたのは、南城市に移住し、県産食材でチーズ作りを行う「チーズガイ」を営むジョン・デイビス(John Davis)さんです。

自然豊かな南城市の丘陵上にある糸数城跡

沖縄本島南部・東海岸側に位置する南城市は、大きく伸びたサトウキビや昔ながらの赤瓦屋根、高い建物が少ないことから海や空が一望できる美しい景観など、沖縄らしい原風景が残る町です。

今回「100年先に残したいもの」としてご紹介する「糸数城跡(いとかずじょうあと)」は、南城市の玉城字糸数(たまぐすくあざいとかず)の竹之口原(たけのくちばる)・屋敷原(やしきばる)という地域にあり、標高約180mの丘陵上に築かれています。

南城市が大好きなジョンさん絶賛のスポット

「100年先に残したいスポット」として糸数城跡を教えてくれたのは、南城市に移住して10年以上経つ、イギリス出身のジョン・デイビス(John Davis)さん。ジョンさんは南城市の地の恵みに魅了され、北海道で出会った妻の貞子さんとともに移住したのち、県産食材を使用したオリジナリティあふれるチーズ作りを行っています。

ジョンさんは南城市に移住後、南城市のあらゆる魅力を探してまわったそうですが、中でも糸数城跡は、はじめて訪れた際にとても感動したそう。糸数城跡を知って以来、散歩コースとして日常的に足を運ぶのはもちろん、県外から友人が訪れた際には必ず案内しているのだとか。

「まるでマチュピチュのような壮大な城壁や敷地がありながら、あまり手がつけられていない、観光地化されていないところが魅力です。敷地の広大さから、多くの人が住んでいたんだろうなと思いを馳せるのも楽しいですし、高台からの絶景も素晴らしいです」と教えてくれました。

約4万9806平米を超える面積を有する壮大な城跡

糸数城跡は、南城市の西側の断崖上に築かれた大型の城塞型の古城。1972年に国の史跡として指定され、約4万9806平米を超える面積を有しています。

正式な築城年数は明らかになっていませんが、伝説によると玉城按司(あじ/琉球諸島に存在した称号および位階)が三男(糸数按司)に命じて築かせたことから、おそらく三山時代初期の13~14世紀ごろだといわれています。

記事では糸数城跡散策用の駐車場「グスクロード東屋駐車場」からの散策ルートをご紹介します。

元々城下町として栄えた「蔵屋敷跡」

まず駐車場に到着し、敷地内に一歩足を踏み入れると、広い敷地一面に敷き詰められた草原が広がります。まるで牛が放牧されていそうなほど広大な敷地ですが、「蔵屋敷跡」と名付けられたこの敷地にはその昔、多くの人々が暮らす集落があったそうです。

今はこんなにのどかな場所ですが、かつては城下町として賑わっていたと思うと感慨深い気分になりました。

蔵屋敷跡の表札から奥へ50mほど進むと、「佐南(さなん)グムイ」の表札があります。

「グムイ」とは沖縄の方言で「ため池」という意味。当時集落で暮らしていた人々がこの場所に、畑や生活の水を確保していました。

さらに奥へ進むと「根石(にいし)グスク」の表札が登場します。

根石グスクは、この先にある糸数グスクの北側約100mの場所にあり、ここはグスクの築城の際に、糸数按司が根城(ねじろ/本拠とする城)として使っていたといわれており、また糸数グスク築城以前のグスクであることから「元のグスク」とも称されています。

根石グスクの表札の隣には「根石城」と書かれた拝所(うがんじゅ/沖縄の方言で「神を拝む場所」)があります。

根石城は「ニーシウガン」とも呼称され、地域では一番最初にこの場所で拝み(うがみ/沖縄の言葉で祈願、願、祈祷)を行うのだそうです。沖縄にはこのように拝所や「御嶽(うたき)」と呼ばれる地域の祭祀などで拝みをする場所がいたるところに点在します。

さらに奥へ進むと、石門が現れます。

この石門が正門とされており、以前は上に櫓(やぐら)がのる「櫓門」だったそうですが、現在は石門だけが残っています。ちなみに琉球歴史ドラマ「尚巴志(しょうはし)」のロケ地にも使用されました。

糸数城跡の石積みは、野面積み(のづらづみ/自然石をそのまま積み上げる方法)と切石積み(きりいしづみ/正方形や長方形に切り出した石を積み上げる方法)の両方が用いられています。しかし、石門から南と北に伸びる石垣「フェー(南)のアザナ」と「ニシ(北)のアザナ」は、野面積みと布積み(石と石の継ぎ目が横に一直線になるように積む方法)が掛け合わされた「混合城壁」であることが大きな特徴として知られています。

南部の城跡で最も高いグスク

特に、ニシ(北)のアザナは南部で一番高い城壁を持ったグスクといわれており、城壁の上からは10km以上先にある県庁や首里城を見ることができるほどだそうです。(※城壁に登ることはできません)

こちらの写真は、石門を抜け、反対側から見たニシ(北)のアザナ。外側と内側で石積みが違っているのも特徴的です。

また、ニシ(北)のアザナの城壁外には、もともと井戸だった場所があり「グスクガー」と呼称されています。

自然溢れる敷地内の中、ここだけが異様に神秘的な雰囲気を漂わせており、どこからともなく大地の呼吸が聴こえてきそう。もともと井戸だった場所はここを含めて3か所あるそうですが、ジョンさんが「井戸だった場所が、まるで生きているように神秘的」と言っていたのは、おそらくここだろうと思いました。

そして石門を背にして歩みを進めると、荒野のようなむき出しの自然が目の前に広がります。

まさに手つかずの自然。ひらひらと舞う蝶や元気に飛ぶ虫など、生き物たちがのびのびと暮らす場所はやはり、人間にとっても心地いいのだと思いました。散策するだけで呼吸が深くなるような、清々しい空間でした。

広い敷地をどんどん進むと、糸数城跡の表札に辿り着きます。

糸数城跡内には「チナウチ」と呼ばれる拝所があり、低い石垣で楕円形に囲まれています。中央部分にある高い岩は「糸数城之嶽(ぐすくのたき)」と呼ばれ、その前にある広場は「糸数城之殿(ぐすくのとぅん)」と呼称されます。この糸数城之殿で礼拝が行われていたそうです。

拝みを終えたら、最後にニシ(北)のアザナ近くの高台からの見晴らしを楽しみましょう。

ここは太平洋の海や、南城市から車で行ける離島「奥武島(おうじま)」、沖縄を代表する聖地「斎場御嶽(せーふぁーうたき)」などが一望できる絶景スポット。太平洋に沈む夕陽も見ることができるそうですよ。

歴史好きも城好きも、自然を感じたい人も

糸数城跡は、その城壁の壮大さや一風変わった造りから、城好きからも愛されているスポットです。歴史を重ねてきたからこその風情や、それに関連する気配のようなものにも魅力を感じます。そしてなにより、沖縄の自然の恵みを真に浴びた心地よさが抜群です。

取材をしたこの日は、たくさんの蝶が自然めがけて集まってきており、虫取りを楽しむご夫妻も見かけました。敷地内は約30分で散策できるので、歴史や城壁はもちろん、自然の心地よさを感じに足を運ぶだけでも、十分に価値があるスポットです。

施設情報

スポット名
糸数城跡

住所
沖縄県南城市玉城字糸数竹之口原

電話番号
なし

営業時間
なし

休業日
なし

入場料
無料

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

三好 優実

沖縄支部 沖縄ライター
三好 優実

沖縄県那覇市在住。香川県で生まれ育ったのち、大阪や東京で仕事中心の生活を満喫していましたが、沖縄旅行で「人」の魅力にはまり、仕事をあっさり手放して移住。1年くらいで別の土地に行こうと思いきや、早6年が経過しました。ライター歴は5年。