静岡県熱海市

漁師町の人々をささえる港、網代漁港

2021.09.06

この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。
今回スポットをご紹介頂いたのは、静岡県熱海市網代でこだわりの削り節製造販売を営む「株式会社 丸藤」代表取締役社長・藤田昌弘(ふじたまさひろ)さんです。

自然が生み出した天然の良港

網代(あじろ)漁港は、静岡県熱海駅から南方へ車で15分ほど離れた場所に位置し、相模湾からの深海が湾内至近まで入り込む、伊豆東海岸随一の天然の良港とよばれています。

風を遮る地形によって波が穏やかな湾内は、大風や荒波を避けるため、近くにいる船が避難する港としても有名です。江戸時代には、江戸への海路の重要な地点である要衝として、各地を回る廻船で賑わっていました。

昔からの活気あふれる港を残していきたい

「100年先に残したいもの」として網代漁港を紹介してくれたのは、静岡県熱海市網代でこだわりの削り節製造販売を営む「株式会社 丸藤」代表取締役社長・藤田昌弘(ふじたまさひろ)さん。

網代漁港を100年先まで残したい理由について「昔も今も漁業が盛んで、『干物銀座』とよばれていたほど干物が有名。その活気は、漁師町にすむ人々の気質にも影響を与えてきました。近年、水揚げ量の低下や熱海市の人口減少などの課題もありますが、今後も漁師町をささえる港として、網代漁港をずっと残していきたいです」と語ってくれました。

漁港のプロフェッショナル

今回網代漁港についてご紹介いただくのは、網代漁業株式会社で流通販売を手がける菊間昌孝(きくままさたか)さんと、いとう漁業協同組合の網代支所長の根本雅典(ねもとまさのり)さん。

セリを担当する菊間さんは、この地で干物屋の息子として生まれ育ちました。根本さんは漁業協同組合の支所長として、漁港に関わる人々を見守り続けています。そんな漁港のプロフェッショナルともいえるお二人に、100年先まで残したい“網代港”の魅力をお伺いしました。

鮮度を保つ漁法 定置網漁

まず、菊間さんが紹介してくれたのは網代漁港の定置網漁。網代は相模湾から続く深海が、湾内至近まで入り込む恵まれた地形の漁場であり、穏やかな湾内は波浪や急潮流が和らげられるため、「定置網漁」が広く行われています。


「アジロ」とは定置網に使われる竹、葦などで編んだ網状の漁具のこと。網代の漁村としての歴史は古く、その名を冠する網代港は「定置網漁がおこなわれる漁場」としてその地位を確立してきました。

定置網漁では、障害物があるとより深部に移動する魚の習性を利用し、回遊する魚群を生きたまま捕獲します。網代では幼魚の放流も行い、水産資源を守りつつ品質と鮮度を保った計画的な漁業を目指しています。

この日は30センチ以上の大きなイカが捕れました。

鮮度の秘訣は選別機によるスピーディーな仕分け

せっかく定置網漁で生け捕りにした新鮮な魚も、その後の工程がいい加減では鮮度が落ちてしまいます。網代漁業株式会社は事業の一環として、海産物の大型選別機を導入し、指値(最低落札価格)を定めた販売を実施しています。選別機ではベルトコンベアで魚を自動選別していきますが、冷やした海水をかけながら行うため、真夏でも鮮度が落ちることがありません。

全体の作業も効率的になるため、漁業者の水揚げ量の増加に繋がります。販売が成立しなかった魚はネクトンLLP(網代港の定置網で獲れる新鮮な魚介類をより多くの方々に知ってもらう為に設立された有限責任事業組合)が引き取り網代港でとれた定置網物だけをブランド化して販売するなど、漁業者を守る取り組みも行われています。こうした画期的な仕組みが港全体を守っていくことにもつながっていくのですね。

網代漁港では、定置網漁で捕れた高品質な魚が選別機によってスピーディーに仕分けされ、セリにかけられます。そのため、鮮度を保ったままの高品質な魚が私達の手元に届くのです。

捕獲量は毎日少なくても500kg。1番多い日で75tという記録もあります。(なんと青いコンテナ90個分もの魚があがったことも。)
季節によって種類も変わりますが、獲れる海産物は主にヒラゴ、アジ、マイワシ、カマス、アオリイカなどがあります。

空が明るくなり始めた朝6時40分ころ、綺麗に並べられた黄色のバケツのまわりに目利きのプロである海の男たちが集まってきます。目を光らせながら魚を品定めしている表情は、真剣そのもの。

港の夜明けを告げるセリの鐘の音

朝7時になると、「カランカラン」と大きな鐘の音とともにセリがスタート!セリでは、1kg当たりの値段をいくらにするのかを決めていきます。「さんまる」「ごまる」といった勢いのいいかけ声で次々と値段が決まり、仲買人さんは自分たちの印のついたシートをケースに入れていきます。

ツメのついた棒をバケツに引っかけ、買われたものが次々と移動していきます。すぐそばに待機していたトラックに乗せられてあっという間に売れていきました。何とその間15分。

スピード感あふれる売買と、魚を待っている人々の元へすぐに届けたいという思いが、網代漁港で獲れたての魚の品質への信用にもつながっているのでしょう。高級な干物で有名な熱海では、鮮魚から作る干物にこだわり、その日獲れた魚がその日のうちに干物として仕上がり店先に並びます。江戸時代には将軍や大名、明治以降は政治家や文豪など名だたる著名人に熱海の干物は愛されてきました。網代港は、熱海ブランドを支えるのにも一役買っているのです。

筏釣りの後は、郷土料理をいただく

港から少し離れたところに筏(いかだ)があり、高級魚である鯛やハマチを養殖して出荷しています。港での釣りは禁止ですが、船で筏まで行けば釣りを楽しむこともできますよ。

そして港の魅力といえば、何といっても新鮮な魚。港で買付を行っていた桜井さんに、網代の魚を使ったおすすめの郷土料理を伺ってみました。

「この辺で多く捕れる、イカとアジをたたいて醤油をかけた"たたきなます"や、イカの目玉を使った味噌汁など、とっても美味しい郷土料理がたくさんあるよ」イカの目玉の味噌汁は目玉から紫の汁が出てくるそうで、新鮮なイカだからこそ味わえる一品だとか。とっても気になりますよね!

網代にある料理屋さんでは、どこも地物の魚を使った美味しい郷土料理がいただけます。普段味わう機会が少ない網代港ならではの料理を楽しめるのも、魅力の一つです。

100年先も残したい港の風景

「港だから当たり前ですが、毎日魚の顔が見れることが嬉しい」と教えてくれたのは、いとう漁業協同組合網代支所長の根本さん。長年にわたり網代港を見守り続けて、常に港の未来について考えているとおっしゃっていました。「地域、組合、生産者が三位一体となり同じ方向をむいて漁業を続けていきたい」と願うそのまなざしは、窓から見える広く凪いだ港へとむいています。

恵まれた地形、穏やかな波と気候によって安定した漁ができる網代港では、伝統的な漁法を活かしながらも従来のやり方に甘んじることなく、サスティナブルな漁を実現しています。その漁業に携わる方々のたゆまぬ努力が、今日も網代の人々の生活と地域のブランドを守っているのだと実感しました。

施設情報はこちら

網代漁業株式会社
静岡県熱海市網代100-7
0557-68-0126
17:00~22:00
無休

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

村田姉妹

中部支部 地域ナビゲーター
村田姉妹

静岡県静岡市出身の正真正銘の静岡女子。2人とも何度か静岡を離れるものの、2020年、静岡の魅力に引っ張られるように、戻ってまいりました。物事の本質を探るべくどこまでもストイックに、をモットーに富士登山は1合目から。飲み物は基本、水とお茶。事業者さまに寄り添い、離れていたからこそわかる静岡の魅力を感謝の気持ちを持って発信していきます。