山梨県富士河口湖町
新潟の宝物、郷土おやつ笹だんご
2021.12.14
日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、中部支部ナビゲーター・渡辺まりこさんご自身の「100年先に残したいもの」をご紹介します。それは、新潟県の銘菓「笹だんご」です。
親から子へ受け継がれてきた伝統的和菓子
新潟県の郷土菓子「笹だんご」。ヨモギを練り込んだ生地にあんこを入れて、笹の葉で包んでから蒸しあげる素朴なおやつです。かつて笹だんごは家庭でつくる軽食であり、毎年6月頃になると数百個もこしらえて、ご近所さんと分け合うのが定番でした。現在、笹だんごをつくる家庭はごく少数。手作りの郷土食から、お店で買うものへとその役割が変化しつつあります。
みなさん、こんにちは!秋田県出身、新潟県三条市に暮らして10年目になるライターの渡辺まりこです。新潟生活にどっぷり浸るうちに、県内にはさまざまな笹だんごがあることがわかりました。素朴な和菓子ですが、お店ごとに個性があるのもおもしろいです。なかでも、三条市下田地区の笹だんごは、風味も個性も一級品!初めて食べた時は、山草の濃い風味と香り、そして蒸したてのモチモチ食感に感動しました。この地域でしか食べられないとっておきの味を100年先にも残したい――そんな気持ちを込めて、今回はお気に入りの「下田の笹だんご」を紹介します。
大自然に包まれた新潟県三条市下田地域
新潟県の中央エリア、三条市の山間にある下田地区。高さ200m以上の岩壁がそそり立つ「八木ヶ鼻」がシンボルとなり周囲は見渡す限りの田園風景、清冽(せいれつ)な五十嵐川が流れる絶景が広がっています。“大自然に抱かれたまち”という言葉がしっくりくるような日本の原風景を感じられるまちです。
まるで自然と一体化するようにひっそりと佇んでいるのが、笹だんご専門店「ふーど工房 ゆうこ」。2009年にオープンしてから、“下田独自の笹だんご”を伝え続けることをモットーに営業を続けてきました。笹だんごのお店は数あれど、家庭的なやさしい甘さで食べ飽きず、絶品の味わいが人気となっています。
地元の‟パワフルかあちゃん”が真心込めて手作り
こちらが店主の五十嵐祐子さん。50歳を過ぎてから会社のリストラにあいながらも、それをバネに起業した努力家です。おしゃべり大好きな明るい性格で、その人柄の魅力に惹かれてリピート購入するお客さんも多いのだとか。県内はもとより東京や愛媛などにもイベント出店を果たし、下田の笹だんごのおいしさを広める活動に力を入れています。
「下田の笹だんごは、よそとはひと味違うんですよ」と五十嵐さん。ショップは工房を併設しており、部屋じゅうが笹のいい香りでいっぱい!今回は特別に、笹だんご作りの様子を見学させてもらいました。
山草植物「オヤマボクチ」が濃い風味を生む
「笹だんご生地の材料は、シンプルなんですよ。新潟産もち米、砂糖、塩、それから茹でてペーストにしたオヤマボクチ。これらを石臼でこねるんです」と教えてくれた五十嵐さん。通常は茹でたヨモギのペーストを使うことが多いそうですが、下田地区に自生する「オヤマボクチ」と呼ばれる山草植物を使用することが、下田の笹だんごの大きな特徴です。ちなみにオヤマボクチは、地元で「ごんぼっぱ」と呼ばれています。
「生地にオヤマボクチを練り込むと、しなやかな食感になるの。それに風味も香りも濃いんです」との言葉通り、下田地域に住む人たちは「オヤマボクチの笹だんごじゃないと物足りない」と感じている人も多いそう。毎年6月になると、地元の道の駅やホームセンターでもオヤマボクチが販売されるほど、地域の人にとっては身近な存在となっています。
山の恵みたっぷりの特製笹だんごの作り方
それでは、さっそく作り方を拝見!あらかじめ計量して丸めておいた生地であんこを包み、華麗な手さばきで形を整えていきます。
続いて笹の葉4枚に生地をのせたら、「スゲ」と呼ばれるツル植物でくるりと巻いていきます。五十嵐さんの手元をよく観察しても、いったいどんな風に巻いたのかわからないくらいスピーディー。美しく正確な仕上がりに圧倒されてしまいまいた。「私は小学生の頃から、家で笹だんご縛りをやってきましたからね。1時間で100個仕込めますよ!」と五十嵐さんは豪快に笑います。
こうして仕上げた笹だんごを蒸篭に入れ、十数分間蒸し上げたら完成!ホッカホカの蒸気があたり一面に漂い、笹の香りがふわりと鼻をくすぐります。
新潟流・笹だんごの正しい食べ方
さぁ、できたて熱々の笹だんご、さっそくいただいてみましょう。「その前にちょっと待った!新潟流の食べ方を知っていますか?」と五十嵐さん。どうやら笹だんごには“正式な食べ方”があるようです。
「スゲを取ったら、笹の葉を割いてバナナの皮みたいにむくんです。そしてパクっと食べれば、ほら、手が汚れないでしょ?」とのアドバイス通り、試してみるとたしかに食べやすい!できたての笹だんごはモチモチで、オヤマボクチの山草の風味が口いっぱいに広がります。あんこは甘さひかえめで、意外にもコーヒーや牛乳との相性がぴったりです。食べる手が止まらず、あっという間にぺろりとたいらげてしまいました。
あんこだけじゃない!甘いものから惣菜入りまで種類豊富
笹だんごの定番といえばあんこですが、「ふーど工房 ゆうこ」では、きんぴらごぼう、サツマイモ、甘味噌などの変わり種も定番として用意。期間限定の、地元の栗を煮て、栗あんにしたものも人気だとか。
こだわりは無添加で体にやさしいこと。実は、7年前に胃がん手術を経験したという五十嵐さん。それ以来、おいしくて体にいいものを届けたいという思いがいっそう強まったそう。「どんなに注文が多くても、出来たてにこだわりたいから朝早くに起きて作るのよ。作り手の気持ちひとつで味が変わるんです。だからお客さんが喜んでいる姿を想像しながら作っているんですよ」と語り、シンプルな材料と工程だからこそ、愛情を込めることを大切にしていると教えてくれました。
五十嵐さんにとって、下田の笹だんごは後世に伝えていきたい大切な郷土食。手作りのおいしさを伝えたいと、粉からこねて作る笹だんごワークショップも不定期で開催しています。蒸したてアツアツの香りと味は格別!作る工程も楽しく、笹だんごに愛着を持つ人たちがじわじわと増えているようです。
地域の文化が色濃く残る、後世に伝えたい郷土食
新潟県内で笹だんごが作られる地域は広く、各地で独自の製法や縛り方のこだわりがあります。具材の種類もさまざまで、なすの油いため、アラメ(海藻)の煮物、マスの塩焼きなど、バリエーションも豊富。各地を巡り、笹だんごを食べ比べてみるのもおもしろそうです。
新潟を代表するご当地和菓子として、100年先も笹だんごは愛されているはず。日常の郷土食からお店で買うおやつへと変化はしましたが、「笹だんごのおいしさを伝えたい」という作り手たちのバトンはつながれていくことでしょう。山の香りがたっぷりと詰まった笹だんごは、後世に残したい大切な新潟の宝物です。
施設情報はこちら
施設名
ふーど工房 ゆうこ
住所
新潟県三条市曲谷708-1
電話番号
0256-46-0358/090-4724-7415
営業時間
9:00〜16:00(要予約)
定休日
月曜
※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。
地域ナビゲーター
中部支部 地域密着フォトライター
渡辺 まりこ
秋田県出身、岩手県で大学生活を送り、現在は新潟県三条市在住。主人が“金物 のまち”を代表する職業の包丁職人ということから、地場産品に興味が芽生え、 ローカルのおもしろさを日々発信中。フリーライターとして活動しながら発酵教室も主宰しています。