山梨県富士河口湖町
水運で栄えた伏見港・みなとまち伏見めぐり
2022.01.27
日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)に聞いた「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、京都市伏見区で酒房を営む株式会社油長の奥田浩二さんに、「伏見港及びみなとまち伏見」をおすすめいただきました。
豊臣秀吉の築城に伴い、港が整備される
京都市南部に位置する伏見区。祇園から電車で20分ほどと、京都市中心部からそう離れていないにもかかわらず、古都・京都の雰囲気とは少し違った独特の風情が漂うまちです。
伏見の原型を作ったのは豊臣秀吉。秀吉が伏見に城を築いた際、必要な建築資材を運搬するために伏見港を開きました。伏見近辺には宇治川が流れ、木津川、桂川と合流して淀川となり、大阪湾に注いでいます。伏見は京都と大阪の中継地だったのです。さらに陸路で奈良や近江へも行くことができる交通の要衝の役割も。水路・陸路ともに重要な位置にあるからこそ、秀吉が城を築いたのも頷けます。
内陸河川で唯一の「みなとオアシス」に登録
秀吉亡き後、徳川家康によってまちづくりは引き継がれ、発展した伏見。現代にも城下町、港町の面影を感じることができます。そんな伏見の歴史と風情を100年先に残したいと話すのは、伏見大手筋商店街で酒房「油長」を営む奥田浩二さんです。
「伏見は幕末の動乱期によく名前が出てくるのでそのイメージが強いのですが、伏見はみなとまちでもあるんです。その象徴として伏見港が2021年4月に『みなとオアシス』に登録されました。これを機に水運で栄えた時代を思い起こさせるような取り組みを行い、100年後には港町にふさわしい姿がよみがえると素敵だと思います」
大阪からの積み荷が伏見に集まる
NPO法人伏見観光協会事務局長・中川雄介さんによると、「みなとオアシス」とは、国土交通省の制度で「みなと」を核とし、住民参加で地域振興の取り組みが行われている施設を登録するものです。伏見は全国で148箇所目の登録地で、2021年時点、内陸河川港湾として全国唯一なのだそう。
現在は干拓されて存在していませんが、伏見城の築城当時には、南方に巨椋池(おぐらいけ)という大きな池がありました。秀吉はこの巨椋池に流れ込んでいた宇治川を切り離して伏見城の外堀とし、さらに内陸部にも物資運搬に利用できる水路を整備しました。これが現在の濠川(ほりかわ/別名:宇治川派流)です。
伏見港があるのは濠川と宇治川の合流点。当時は大阪から船で物資が運ばれてきて、この伏見港で陸揚げされ、街道を通って京の都まで運ばれていました。
宿場町、酒造りのまちとしても賑わいをみせる
伏見には別の顔も。ひとつは宿場町としての顔です。参勤交代で西国から江戸に向かう大名は大阪から船に乗って伏見港へ。ここから先は陸路、東海道を進みます。伏見には大名が宿泊する本陣や脇本陣があり、船宿が立ち並び、宿場町としても繁栄したのです。
さらにもうひとつ、伏見で外せないのが酒造りです。伏見は良質な伏流水が地中にあり、酒造りが古くから行われてきました。今も通りを歩けば、古い酒蔵や酒造場を多く見ることができ、歴史ある酒蔵が操業を続けています。
十石舟に乗って水上から伏見を体感
秀吉に始まり、江戸時代を通じて繁栄した伏見の水上輸送ですが、明治に鉄道が登場すると徐々に衰退。昭和に入り、1962年には伏見でも舟運は幕を下ろしました。
しかし、今も港町・伏見の魅力を体感できるのが、酒蔵と水辺が美しいコースを巡る遊覧船体験「十石舟(じっこくぶね)の旅」。月桂冠大倉記念館の裏手にある乗船場から船に乗り、濠川を進んで伏見港の先にある三栖閘門(みすこうもん/水門)を通り、三栖閘門資料館を見学、再び船で戻ってくる50分ほどの体験です。
十石舟は、通常定員20名の小型船で、船頭のガイドでゆっくりと進みます。船が出発して最初に流れるBGMは、酒蔵で職人たちが歌う酒造り唄。力強い歌声に、酒のまち伏見の活気を感じていると、目の前の石垣の上に、100年以上前に建てられた月桂冠の酒蔵(現在は月桂冠大倉記念館)が見えて、早くも伏見らしさ全開です。
やがて川幅が広くなりますが、そこが伏見港のあった場所。現在は伏見港公園として市民の憩いの場所になっています。今でも広く感じますが、埋め立てられ、かつての3分の1ほどに縮小しているそう。ここに大阪からたくさんの船がひしめき合うように停泊していたのですね。
舟運を支えた三栖閘門について資料館で学ぶ
そして赤い水門が見えてくると、そこが「三栖閘門」。水位の異なる宇治川と濠川を船が行き来できるように、また、この地域は洪水が多かったことから治水の観点からも設けられた水門です。手前の門だけを開けて船が入ってから閉め、それから奥側の門を開けると、水位が違うふたつの川を行き来できる仕組みです。昭和初期、1929年に完成しましたが、舟運の終了と上流にダムができたことなどからその後、役割を終えました。
船は水門をくぐって船着き場へ。船を降り、三栖閘門資料館に入館し、三栖閘門と伏見港、そして伏見の歴史に関するパネルや模型を見学します。その後、再び船で来たルートを戻ります。
船だからこそ見える、みなとまちの景色を
「十石舟の運航が始まったのは1996年。当初は春、秋とかの期間運航でしたが、その後3月下旬から12月上旬までとなりました。春、桜の季節には両岸をピンクに染める美しい景色がみられますよ」と中川さん。通りを歩いて見るのも素敵ですが、伏見の歴史とともにある水路を行く十石舟にのって見上げる景色も格別でした。「伏見で生まれ育って、よく知っているはずの景色が、十石舟から見るといつもとは違って見えます」といった油長の奥田さんの言葉にも納得です。
水辺で揺れる柳の葉を眺め、風を感じながら伏見の魅力を実感する十石舟の旅。秀吉、家康と天下人が基盤をつくり、水運で発展した伏見の歴史とともに、これからも受け継いでいってほしい風景です。
施設概要
施設名
NPO法人伏見観光協会
住所
京都市伏見区本材木町668-3 月桂冠酒蔵オフィス1・2号室
電話番号 075-623-1030
料 金
大人1200円(中学生以上)・子ども600円(小学生以下)
※身体・知的・精神障がい者割引:5割引
※料金は変更になる場合があります。
出航時間、運航時期などは公式サイトをご確認ください。
https://kyoto-fushimi.or.jp/ship/
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地域ナビゲーター
近畿支部 企画・編集・ライティング
文と編集の杜
京都、二条城の近くに事務所を構える「文と編集の杜」。福岡県出身で、高知県、静岡県と全国を点々としてきた瓜生朋美が設立した編集・ライティング事務所です。関西を中心に、歴史、グルメ、インタビューと、幅広く取材・記事執筆を手掛け、地域のさまざまな魅力を発信中。