鹿児島県屋久島町

屋久島の自然を気軽に楽しむヤクスギランド

2022.02.25

この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。今回スポットをご紹介いただいたのは、屋久島で地元産の「たんかん」を使った加工品を生産、販売している屋久島ふれあい食品株式会社「屋久屋」の岩川功(いわかわ いさお)さんです。

ありのままの自然が残る屋久島の雄大な山々

屋久島は東北地方に位置する白神山地とともに、1993年に日本で初めて世界自然遺産リストに登録されました。島の周辺には熱帯魚が身を潜めるサンゴ礁や、ウミガメが産卵に訪れるきれいな砂浜があります。

そんな美しい海に囲まれた屋久島ですが、その最大の魅力はなんといっても手付かずの自然が残る雄大な山々。九州最高峰の宮之浦岳を筆頭に、標高1,000m以上の山が数多く存在しています。人の手がほとんど入っていない、ありのままの自然を目当てに日本だけでなく世界各地から多くの人が足を運ぶ島なのです。

屋久島らしい姿が残り続けますように

屋久島ふれあい食品株式会社「屋久屋」は、屋久島の発展と雇用拡大に貢献することを目的に2011年、設立されました。島内に本社と自社工場を構え、地元産の「たんかん」を使った果汁100%のジュースや果皮を使ったスイーツといったさまざま加工品を生産、販売しています。

屋久島出身で工場長を務める岩川功(いわかわ いさお)さんに、屋久島の100年先に残したいものについて伺うと「屋久島が屋久島らしい姿であってくれたら良い」という言葉が返ってきました。「屋久島の自然が残り続け、人々が暮らす集落が100年先も続いていってほしい」と岩川さんはその思いを語ります。そんな岩川さんに「屋久島の自然を楽しめるおすすめの場所はありますか?」と尋ねると「ヤクスギランドが良いですよ」と教えてもらいました。

屋久島の自然を気軽に楽しめるヤクスギランド

1000m級の険しい山々が連なっている姿から「洋上のアルプス」とも呼ばれる屋久島。足を運ぶ人の中には「屋久島の自然を楽しみたいけど体力に自信がない」と不安になってしまう人も少なくないと思います。そんな登山初心者や未経験の方におすすめなのが、屋久島の自然を気軽に楽しめる「ヤクスギランド」。岩川さんによると、屋久島の小学生がバス遠足で行くこともあるぐらい、屋久島で暮らす人々にとってなじみがある場所なんだそうです。

ヤクスギランドは屋久島空港から車で35分ほど、安房港(あんぼうこう)からは車で30分ほどの距離にあります。ヤクスギランドという名前から受けるイメージは軽やかですが、標高1000〜1300mと「縄文杉」やもののけの森と呼ばれる「白谷雲水峡(しらたにうんすいきょう)」とほぼ同じ高さに位置しています。

体力や装備に合わせて選べる5つのコース

ヤクスギランドの大きな特徴は、270haの広々とした森の中に5つのコースが設定されていることです。5つのコースは、時間にして30分、50分、80分、150分、210分。その内、30分と50分のコースは道が整備されているので、体力に自信のない方や屋久島の自然を気軽に味わいたい方、またお子さんと一緒に家族で楽しみたい方におすすめです。

天候の変化に備えてレインウェアはあった方が良いですが、登山靴などの特別な装備は必要ありません。80分以上のコースは、本格的な登山道になります。コースの途中に行き先を示す看板や目印があるものの、過去には遭難者が出たことも。それほど険しい道のりが待っているので、登山靴や行動食など、しっかりとした装備で挑みましょう。

約1.2km 50分コースの一部をご紹介

園内を案内してくれたのは「屋久島レクリエーションの森保護管理協議会」で主任を務める高橋紘栄(たかはし こうえい)さんです。普段はヤクスギランドの管理棟で森林の環境整備に使用する協力金を預かったり、森の中の点検や整備を行っています。ガイド業務については通常、島内の山岳ガイドや観光協会にお願いしているとのことですが、この日は特別に案内してもらいました。

管理棟を抜けると、5つのコース共通の入り口となる「ときめきの径」が出迎えてくれます。こちらは全ての来園者が最初に足を踏み入れる、ヤクスギランドの玄関口です。順路に沿って進むと、そこからは一気に屋久島の深い森の中。まだそれほど歩いていないのに、風景とともに空気まで変わるのが全身に感じられます。

新鮮な空気を胸一杯に吸い込みながら進んでいくと、現れたのは「くぐり栂(つが)」。迫力ある巨木がトンネルのようになっていました。

木々の力強さに圧倒されて、しばし森全体を見上げていると「木だけじゃなくて、苔も屋久島の魅力なんですよ」と高橋さんが声をかけてくれました。

なんでも日本には1600種類ほどの苔が存在していて、その内600種類ほどが屋久島で確認できるのだそうです。触ってみると水々しくて、ふかふかした感触。人工物では感じられない、屋久島の自然ならではの手触りに心まで癒されました。

さらに森の奥に進んでいくと、入り口付近に比べて木々のたくましさが増していることに気づきます。

苔に覆われながらも真っ直ぐに伸び続ける木や、ほかの木に巻き付かれながらも懸命に天を目指す大木など、園に息づく一本一本の木々から、何百年、何千年と続いている屋久島の歴史が伝わってくるようでした。

高橋さんが感じる屋久島の魅力

森の中を案内してもらいながら、屋久島の森の魅力について質問すると「屋久島は緑が本当に美しいんですよ」と高橋さん。屋久島出身の高橋さんは高校卒業後、関東で過ごしたそうですが、都会の“コンクリートジャングル”に耐えられず屋久島へのUターンを決意したそうです。

ヤクスギランドの仕事は自然を相手にすることが多いため、時には倒木で道が塞がったり、歩道が埋まるほどの雪が降ったりと厳しい場面も少なくありません。それでも訪れる人が安全で快適で楽しく過ごせるようにと日々、森の環境整備に汗を流しています。「事故なく一日が終わるとホッとしますね」と話す表情からは、屋久島の自然に対する親しみと、お客さんへの誠実な思いが感じられました。

自然と人が共存し続ける屋久島であってほしい

ヤクスギランドは体力に自信がない人から本格的な登山を楽しみたい人まで、それぞれの興味や経験に合わせて屋久島の自然を楽しむことができる場所です。私自身、はじめは慣れない森の中を歩くことが不安でした。しかも当日は生憎の雨で、正直「ツイていない」とも。

しかし実際に森の中を歩いてみると、憂鬱に思っていた雨は街で感じる激しさとはまるで違い、雨粒のひとつひとつが森の木々や生き物たちを生かしているんだ、と全身で感じることができました。こんな風に島外から足を運ぶ私たちが屋久島の森を楽しめるのは、森を整備し大切に守ってきた屋久島の人々のおかげです。

ヤクスギランドを紹介してくれた岩川さんは「自然と人が共存し続けられる島であってほしい」と屋久島の未来に思いを馳せます。「まあ、100年後の未来に私は生きていないだろうけど」と笑いながらも、その表情にはふるさとを思う優しい思いが滲み出ていました。

施設情報はこちら

施設名
ヤクスギランド

住所
鹿児島県熊毛郡屋久島町安房太忠嶽国有林内

電話番号
0997-46-4015(ヤクスギランド管理棟)

営業時間
管理人対応可能時間 8:30~16:30 ※この時間以外でも入園は可能

休業日
年中開放 ※冬季は雪のため通行止めの場合あり
(森泉1階にある売店は現在2021年12月時点休業中)

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

福島 花咲里

九州支部 地域ナビゲーター
福島 花咲里

生まれも育ちも鹿児島県。現在は南九州市頴娃町(えい町)を拠点に、フリーランスのブロガー、ライターとして活動しています。2016年11月より個人ブログ「ONESELF Lab|ワンセルフラボ」の運営を開始し「わたしと町の研究所」をコンセプトに、日々の田舎暮らしを記録。ケの日に寄り添った文章表現が得意です。