京都府京都市

先人の工夫を美味しく継承する「西京漬」

2022.05.02

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、京都府京都市にある株式会社京都一の傳(でん)本店店長の川合剛史さんに、「西京漬」をおすすめいただきました。

海から遠い京都で生まれた魚食の文化

多彩な食材が各地から集まってきた京都市では、昔から食材を美味しく食べるための工夫が凝らされてきました。なかでも海に面していなかったことから魚の食べ方へのこだわりはひとしお。鱧(はも)の骨切りや鯖(さば)寿司など、調理法を工夫してきたのはご存知の通りです。

京都で長年親しまれてきた「西京漬」も、そんな工夫から生まれた味のひとつ。「京都の伝統的な魚の調理法である西京漬は、もともとは海が遠い京都の人たちが美味しく魚を食べようと考えて生まれた知恵だったのでしょう。それを受け継ぎ、今は魚を味わうひとつの料理法となっています」と話すのは、西京漬で有名な「京都一の傳」本店店長の川合剛史さんです。

保存食から魚を美味しく食べる調理法として発展

「西京味噌は今から200年前に宮中料理として作られたと言われています。米麹の割合が高く、甘酒のような香りと色が鮮やかなのが特徴です」と川合さん。

「西京漬は保存を目的として作られたとよく言われますが、それだけではないんです。今や、素材のうま味を引き出し、魚を美味しく食べるための調理法として知られています。西京味噌の豊かなうま味がじっくりと入り、まろやかな風味がつくり出される西京漬を後世の方々にも味わってほしいです」と話してくれました。

京都の食文化に欠かせない白味噌

西京漬で使われるのは、京都独特の白味噌。京風のお雑煮で知られるあの白味噌です。茶懐石や精進料理でも用いられ、京料理に欠かせない調味料。都が京都から東京に遷って、京都が“西の都”となったことから、西京味噌とも呼ばれるようになったとか。この味噌と酒や醤油などを合わせてつくった味噌床に、魚を漬け込んだのが西京漬です。

川合さんによると白味噌は「京都人のソウルフードのひとつ」。先にあげたお雑煮で使われるほか、酢味噌や田楽、お菓子の味噌餡など、いろいろな食材と合わせて、あらゆるシーンで登場するメジャーな京の味です。「なかでも西京漬は日常の食卓にも上りますし、給食に出たという人もいます。市内のさまざまなお店でも販売されていて、本当に身近な存在の食材です」。生活に密着した料理の美味しさを追求するのも、京都人の食へのこだわりを感じますね。

魚が味噌床のうま味を吸収

京都一の傳で作っている西京漬は「蔵みそ漬」といいます。その美味しさの秘密は、なんといっても白味噌をベースにした味噌床です。味噌床に使うのは、老舗味噌会社の西京味噌、酒どころ伏見の純米酒、木樽仕込みで2年熟成させた醬油といずれも信頼できる京都の伝統的な味。ここに切り分けた魚を2昼夜以上、じっくりと漬け込む「本漬け」で作られています。漬け込む魚もさわら、銀だらなどさまざま。季節や温度、魚の種類によっても漬け込み時間を調節しています。創業約100年の歴史を持つ京都一の傳が培った技術が生かされた商品です。

「味噌床に漬けこむことで、魚が味噌床のうまみをたっぷり吸ってくれます。季節や温度、魚の種類や形によって、適切な漬け込み時間を割り出して調整しているんですよ」と川合さん。さらに、着色料、保存料、うま味調味料といった添加物を使っていないのも創業以来のこだわり。安心して食べられることも美味しさの大切な要素と考えているからこそです。

洋風アレンジなどで味わい多彩に

京都一の傳で取り組んでいるのが、西京漬を含めた魚食の普及です。そのひとつとして「西京漬の日」を制定しました。2日間漬け込むことから、3月7日の「魚の日」の2日後、3月9日。この日前後にキャンペーン商品を打ち出したり、魚用のお皿とのセットを考案したり。魚食に親しみを感じ、取り入れてもらえるようにとの思いからです。

また、西京漬はフライパンやオーブンで香ばしく焼いていただくのが白ご飯との相性も良く、オーソドックスな食べ方ですが、西京漬そのものにうま味やコクがあるため、パスタやポテトサラダなど、洋風料理に取り入れても美味しいそう。京都一の傳でもさまざまなアレンジをホームページで紹介しており、西京漬の多様な食べ方を広げています。

魚食の習慣を絶やさないために

「最近では魚を食べるのはお寿司くらいというお子さんもおられます。生食の魚も美味しいですが、美味しい魚をより美味しくいただける西京漬を知ってほしいです。京都が大切に受け継いできた味噌や醤油、酒を使っていることも素晴らしいと思います。購入いただいたお客様から『こんな美味しい西京漬は初めて食べた』と言っていただくこともあります。多くの方に西京漬を知ってもらい、魚食の文化を残していきたい」と川合さんは話します。

西京漬に詰まった京都の食文化の豊かさとこだわりの深さ。美味しい西京漬とともに、その想いも受け継いでいきたい、そんな想いを強くしました。

地域ナビゲーター

文と編集の杜

近畿支部 企画・編集・ライティング
文と編集の杜

京都、二条城の近くに事務所を構える「文と編集の杜」。福岡県出身で、高知県、静岡県と全国を点々としてきた瓜生朋美が設立した編集・ライティング事務所です。関西を中心に、歴史、グルメ、インタビューと、幅広く取材・記事執筆を手掛け、地域のさまざまな魅力を発信中。