兵庫県神戸市

神戸の成長を見守る、誇りのランドマーク

2022.05.25

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、兵庫県神戸市にある石田洋服店の石田原 弘さんに、神戸ポートタワーをおすすめいただきました。

兵庫県が誇る、全国六大都市の一角・神戸市

写真提供/神戸市
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六甲山、摩耶山などの名峰や、美しい景観の海といった自然資源に恵まれ、人口・経済規模ともに兵庫県最大を誇る都市である神戸市。1868年の神戸港開港以来、西洋文化の入り口として急発展し、日本を代表する港町となりました。まちには西洋文化を取り入れた独自の食文化や建築様式が根付き、歩いてみると今なおその影響を認めることができます。

「神戸ポートタワーのない神戸なんて、考えられない」

港から始まったまちの成長を見守り続けたのが、歴史あるランドマーク・神戸ポートタワー。「神戸ポートタワーがない神戸など考えられない」と話してくれたのは、神戸のまちをイメージしたテキスタイル「神戸タータン」を生み出した、石田洋服店の石田原 弘(いしだはら ひろし)さん。

石田原さんをはじめ、市民の多くが「神戸ポートタワーがない景色を想像できない」と口にするほど、神戸ポートタワーは市民にとっての誇りであり、神戸を神戸たらしめている”象徴”でもあります。

港を一望できるタワーを、ここ神戸にも

写真提供/神戸市
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しかし気になるのは、なぜ神戸ポートタワーがここまで市民に愛され、市民の誇り・象徴としての立場を築いたのか、その経緯です。今回は神戸ポートタワーを管理している神戸市港湾局の澤田里美(さわだ さとみ)さんに、気になる神戸ポートタワーの歴史を伺いました。

「神戸ポートタワーが起工されたのは1962年。神戸開港90周年事業として、当時の神戸市長であり一般社団法人神戸港振興協会の会長であった原口忠次郎(はらぐち ちゅうじろう)さんが先頭に立って計画を進めました。原口さんはオランダのロッテルダム港を視察した際に、港を一望におさめることができるタワー『ユーロマスト』を見て大変感銘を受け、『神戸港にもこれに勝る魅力あるタワーを建設したい』との強い思いで計画を進めたそうです」。

独特の構造と形状を持った「鉄塔の美女」の誕生

写真提供/神戸市
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神戸港を見るための観光タワーとして計画がスタートした神戸ポートタワー。設計段階から「世界にも類を見ないユニークなデザイン」かつ「神戸市民のシンボルとなり、他都市のタワーに負けないもの」で、「できれば世界的な価値があり、美しい神戸のまちにマッチしたもの」という厳しい要望の中で、さまざまな試行錯誤が行われたそうです。

「その結果、和楽器の『鼓(つづみ)』を長くしたような外観(双曲面構造)が特徴的な世界初のパイプ構造の建造物となり、その独特の構造と形状から『鉄塔の美女』と称されています」。

写真提供/神戸市
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世界に誇りうる斬新なデザインの神戸ポートタワーの総工費は約4億5千万円。タワーとしては全国で初めての溢光照明(投光器を用いて均一に照明する方式)による夜間ライトアップを行い、自然とのコントラストが美しい昼間とは別の表情を見せてくれます。塔の頂上周囲には「PORT OF KOBE」のネオンサインが煌々と輝き、名実ともに神戸のランドマークとしての立場を確立しました。

港の成長を見守り続けた神戸ポートタワー

写真提供/神戸市
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1963年の開業当初は、人工島「ポートアイランド」も神戸空港もなく、現在では市民の憩いの場となっている海際公園の「メリケンパーク」もまだ埋め立てられておらず、海面には多くの船が停泊していたそうです。その後、日本経済の発展と共に港も急発展。コンテナ貨物取扱量世界一位を記録するといった、目覚ましい成長を見せました。

写真提供/神戸市
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港の風景に変化が訪れたのはその頃。港湾物流のコンテナ化により、神戸港の荷役の舞台が沖合へ展開されたことにより、旧来の港湾物流エリアの風景は変化し、港湾機能だけにとどまらない、新しい港の可能性が模索されはじめます。

「港湾機能だけでなく、ゆたかな海岸景観を楽しめる観光スポットや、お買い物を楽しめる商業施設の整備が進みました。その結果、さまざまな人が集い、憩い、楽しむことができる環境ができあがったのです」

未曾有の大災害。その時、神戸の誇りに灯がともる

写真提供/神戸市
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神戸ポートタワーの歴史の中で避けては通れないのが、1995年1月17日に起こった「阪神・淡路大震災」。未曾有の大災害に見舞われた神戸市では甚大な被害が発生し、港口である神戸港も例外ではありませんでした。電気、ガス、水道などのインフラは供給停止に陥り、市民生活に甚大なダメージを与えます。

写真提供/神戸市
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「多くの建物が倒壊する中、神戸ポートタワーはなんとか震災に耐え、その姿を留めていました。被災市民を勇気づけるため、震災翌月の2月14日から21日まで神戸ポートタワーの夜間ライトアップを再開。当時のことを知る市民からは『よく耐えてくれた』『ポートタワーが残ってくれて良かった』と、今でもそういった話を耳にします」。

神戸港はこの後、わずか2年余りで復興を成し遂げます。神戸ポートタワーはその間、悲嘆にくれる市民たちに力を与え、再起するその様子をあたたかく見守っていました。

大好きな神戸を”残す”ためのリニューアル

写真提供/神戸市
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神戸の歴史を見つめ続けてきた神戸ポートタワーが、開業60周年である2023年度を目処に、老朽化対策や耐震補強のための改修・リニューアルが行われます。

リニューアルでは、地上100mで潮風を感じながら、眼下に広がる港を一望できるよう、屋上部分に展望施設を新設。タワー頂上付近を360度歩くことができ、港を見下ろせる構造になるそうです。また、低層部エリアにも屋外に出られるテラスを新たに整備されます。(※写真は完成イメージです)

写真提供/神戸市
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「新しく作り変えるのではなく、神戸の誇りであり、象徴であり続けた神戸ポートタワーをいかに残していくかを重要視しました。形を変えるのではなく、大好きな神戸の風景を残していくためのリニューアルです。もちろん、新しい楽しみ方ができるような工夫も随所にありますので、ぜひ楽しみに待っていてほしいです」

これが私たちの住むまち、神戸だ。

写真提供/神戸市
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「今の職場に配属された時は本当に嬉しかったです。神戸ポートタワーに関わる仕事ができる、それはとても誇らしいことでした」と、澤田さんは話します。この場所を紹介してくれた石田原さんも「専任教員を務める市内の大学でも、学生とともに『神戸ポートタワー閉鎖期間中の神戸の活性化策』や『リニューアル後の神戸ポートタワーへの誘致策』を一緒に考えています」と笑顔で教えてくれました。

港とまちの成長を見守り、市民とともに歩んできたランドマーク「神戸ポートタワー」は、さまざまな歴史を経て、今や市民にとってなくてはならない原風景として心に刻み込まれています。取材を通し、初めて神戸に訪れた日のことを思い出しました。神戸生まれ神戸育ちの友人に連れられ、夜の神戸港に立ち寄った日のことです。彼女は眼前に広がる黒々とした海と煌々と輝く神戸ポートタワーを望み、誇らしそうに言いました。「これが私の暮らすまち『神戸』だ」と。奇しくも私はこの取材を通し、その言葉に込められた神戸人としての誇りのルーツを知ることができました。

<施設情報>

施設名
神戸ポートタワー

住所
兵庫県神戸市中央区波止場町5-5

電話番号
078-391-6751
(※休館中は電話は休止されています)

営業時間
改修工事のため休業中(2023年度リニューアルオープン予定)

定休日
同上

URL
http://www.kobe-port-tower.com/ 

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

中野 広夢

近畿支部 地域ナビゲーター
中野 広夢

兵庫県加古川市在住。コワーキングスペースのスタッフ、ローカルメディアの編集長として、日々地域の魅力を発掘、発信している。執筆で大事にしていることは「流行り廃りの激しい時代に左右されず、地域の歴史に遺るような耐久力のある記事を書く」こと。