秋田県仙北市

大自然に抱かれた歴史ある名湯「鶴の湯」

2022.07.01

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、ふるさとLOVERS公式Instagram「旅写真コンテスト」にご応募くださったEdelweissuisse(@edelweissuisse)さんの100年先に残したいもの、秋田県仙北市にある乳頭温泉郷「秘湯 鶴の湯温泉」をご紹介します。

誰かに教えたい旅写真コンテストとは?

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「大切な人に教えたい」「100年先にまで残したい」。地元や旅先で見つけたとっておきの写真を、Instagram・Twitterでハッシュタグ「#ふるさとLOVERS」をつけて投稿してみませんか。「ふるさとLOVERS」では、「誰かに教えたい旅写真コンテスト」を主宰しています。投稿写真の中から選考の上、「ふるさとLOVERS賞」受賞者には賞品をプレゼント!ぜひご応募ください。

情緒あふれる湯治場のたたずまい

写真提供/秘湯 鶴の湯温泉
写真提供/秘湯 鶴の湯温泉

秋田県の内陸南部に位置する仙北市には、日本一の深さを誇る美しい湖・田沢湖があります。湖のほとりから、田沢湖高原へ向かって車を走らせること約20分。ブナの原生林に囲まれた乳頭山麓に、源泉の異なる7つの温泉が点在する乳頭温泉郷にたどり着きます。

乳頭温泉郷の中でも最も古い歴史を持つのが、「秘湯 鶴の湯温泉」。湯治場としてにぎわっていた江戸時代の風情をそのまま残し、まるでタイムトリップしたようにゆったりとした時の流れを感じることができます。

Edelweissuisseさんの投稿
Edelweissuisseさんの投稿

今回、秘湯 鶴の湯温泉を「100年先に残したい」と、ふるさとLOVERS公式Instagram「旅写真コンテスト」に応募してくれたのはEdelweissuisse(@edelweissuisse)さん。「秘湯と呼ばれるのにふさわしい山奥にあり、乳白色の温泉が素晴らしかった」と話します。そんな秘湯 鶴の湯温泉について、ふるさとLOVERS地域ナビゲーター島田が取材してきました!

その昔、鶴が傷を癒して飛び立った

開湯したのは、この地が田沢村と呼ばれていた江戸時代半ば。貞享4(1688)年ごろから湯宿として経営していた記録が残っており、当時は地名から「田沢の湯」と呼ばれていました。宝永5(1708)年のある日、一羽の傷ついた鶴が湯浴みをし、傷を癒して飛び立っていったところを猟師の勘助が見つけ、「鶴の湯」と名付けたのが名称の始まりと伝えられています。それから300年以上、「鶴の湯温泉」の名で多くの湯治客や観光客に愛されてきました。その魅力のひとつが、四季折々の景色に映える乳白色の湯です。

こんこんと湧き出る、効能豊かな4つの源泉

鶴の湯温泉には、「白湯」「黒湯」「中の湯」「滝の湯」という4つのお湯があり、源泉も泉質も異なります。源泉から58度で湧くお湯は透明ですが、40度まで下がると湯中に含まれる石灰分が細かい結晶となって、きれいな乳白色に変化するのです。天気の良い日には石灰の粒子が光を反射して、とても幻想的な色合いになります。

湯の沢沿いに立ち並ぶ4つのお湯の中央に位置する混浴露天風呂は、地中から湧き出す乳白色の湯の美しさと秘湯情緒あふれる風景が人気を呼び、旅行ガイドブック『ブルーガイド』(実業之日本社)が選ぶ「温泉100選」で、人気露天風呂の部・第1位に輝いています。

「白湯」は別名・冷えの湯と呼ばれる酸性の温泉。湯上がりにほてらず、さっぱりするのが特徴です。対照的に、温(ぬく)たまりの湯と言われるのがアルカリ性の「黒湯」。体がポカポカと温まるため、子宝の湯とも言われています。「中の湯」は神経系統の症状改善によいといわれ、疲れた時に入ると夜ぐっすり眠ることができるそう。「滝の湯」はその名の通り打たせ湯で、打ち身や肩こりに悩む方に人気です。

自家製味噌で味わう名物「山の芋鍋」

写真提供/秘湯 鶴の湯温泉
写真提供/秘湯 鶴の湯温泉

鶴の湯温泉のもうひとつの魅力が、名物「山の芋鍋」。100年先に残したいものを推薦したEdelweissuisseさんも「この鍋のおいしさが忘れられない」とInstagramの投稿文に書いていました。

地元産の山の芋をすりおろして一口サイズの団子状に丸め、豚肉や野菜と一緒に自家製の味噌で煮込んだ郷土料理です。山の芋は、強い粘りと、まろやかな風味を持つ秋田県の特産品。長芋よりとろみも風味も濃く、すりおろしている時に手についてもかゆくならないのが特徴です。とろとろもちもちした山の芋と、豚肉から出たダシが絶妙に調和し、オリジナル味噌の濃厚な味わいが体に染みわたります。

宿で提供される「A定食」は、山の芋鍋にイワナの塩焼き、各種小鉢がついて1,800円。地元で養殖しているイワナは、冷たい湧水で育つため身が引き締まって天然に近い味わいです。シンプルな塩焼きは、イワナの魅力を最大限に引き出した贅沢な一品。小鉢には、春は山菜、秋はキノコなどが添えられ、秘境の山の幸を思いっきり堪能することができます。囲炉裏が切られた素朴な部屋で味わう温かい鍋料理は絶品です(囲炉裏のある部屋と、ない部屋があります)。

秋田藩主も訪れた名湯

寛永15(1638)年には、秋田藩主・佐竹義隆公も湯治に訪れたとの記録が残されています。当時、警護の武士が待機していた建物は、350年前のかやぶき長屋の姿をそのまま維持しており、今でも宿泊や休憩に使われているのだそう。屋根は数十年ごとにふき替えをする必要があるため、秋に刈り取ったススキを一冬干したあと、茅手(かやで)と呼ばれる職人によって昔ながらの方法で作業が行われます。このように丁寧に人の手をかけることで、歴史ある秘湯の風情が守られているのです。

「湯めぐり号」で乳頭温泉郷を巡るもよし

乳頭温泉組合では、温泉郷の7湯を巡るバスを1日に5便、運行しています。屋根に風呂桶を乗せ、ブナのような緑色をした車体が目を引くこのバスに乗って、湯巡りするのも楽しみのひとつ。人里離れた秘境の大自然を満喫しながら、バスに揺られてみるのも良いでしょう。売店で「湯巡り帖」を購入することもできます。

シンプルな不便を心ゆくまで楽しんで

今回、案内をしてくださったのは鶴の湯温泉・代表取締役会長の佐藤和志さん。15代目となる佐藤さんは、昔ながらの素朴なたたずまいと風情をそのまま残すことに力を入れてきました。「砂利道をごとごと走ってたどり着いたランプの宿で、川のせせらぎに耳をすませ、ブナの森に囲まれて乳白色の温泉にゆったりとつかる、そんな日常から離れた時間をたっぷりと味わってほしいと思っています。テレビもラジオもカラオケもありませんが、この不便さをぜひ楽しんでいただけたら」と話します。

昔ながらの姿を残すということは、人の手をかけて維持していくということでもあります。15代にわたって湯守が引き継いできた名湯は、この先も大切に受け継がれ、湯治場の情緒あふれる風情を次代に残していくにちがいありません。

施設情報はこちら

施設名
秘湯 鶴の湯温泉

住所
秋田県仙北市田沢湖田沢先達沢(国有林50)

電話番号
0187-46-2139

営業時間
日帰り入浴は10:00〜15:00

休業日
無休(日帰り入浴は月曜日露天風呂入浴不可)

料金
入浴料 600円
宿泊料 9,830円〜19,950円(消費税・入湯料込み)

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

島田 真紀子

東北支部 フリーライター
島田 真紀子

秋田県大館市在住。(有)無明舎出版勤務を経て、フリーライターとしてWEBや雑誌の記事を書いています。秋田県を中心に、観光や食、子育て、話題のスポットなどについて発信。全国の皆さまに秋田の魅力を知っていただき、「秋田面白そう!行ってみたいな!」と思っていただけたら嬉しいです。