宮崎県

四季折々の美しさがある「坂元棚田」

2022.07.15

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、ふるさとLOVERS公式Instagram「旅写真コンテスト」にご応募くださったminori(@mino.photos)さんの100年先に残したいもの、宮崎県日南市の酒谷にある「坂元棚田」をご紹介します。

誰かに教えたい旅写真コンテストとは?

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「大切な人に教えたい」「100年先にまで残したい」。地元や旅先で見つけたとっておきの写真を、Instagram・Twitterでハッシュタグ「#ふるさとLOVERS」をつけて投稿してみませんか。「ふるさとLOVERS」では、「誰かに教えたい旅写真コンテスト」を主宰しています。投稿写真の中から選考の上、「ふるさとLOVERS賞」受賞者には賞品をプレゼント!ぜひご応募ください。

日本の棚田百選にも選ばれた「坂元棚田」

宮崎県日南市の最高峰である小松山のふもとに広がる坂元棚田は、一般的な棚田と異なり、長方形の水田がゆるやかな階段状になっています。田んぼの数はなんと110枚!2013年には国の重要文化的景観にも選定され、どこか懐かしく牧歌的な農山村の風景が広がります。

minori(@mino.photos )さんの投稿
minori(@mino.photos )さんの投稿

坂元棚田を「100年先に残したい」と、ふるさとLOVERS公式Instagram「旅写真コンテスト」に応募してくれたのはminori(@mino.photos )さん。「日本の棚田100選に選ばれている日南の坂元棚田です。今年も天気がいい日に見ることができて絶景でした」と撮影時の様子を伝えます。

そんな坂元棚田の魅力を、ふるさとLOVERS地域ナビゲーター長友が、坂元棚田を守り続ける方に取材しました。

坂元棚田をつくった集落の軌跡

お話を伺ったのは、坂元棚田保存会の会長・古澤家光(ふるさわいえみつ)さん。棚田がある酒谷集落で生まれ育ち、坂元棚田でお米をつくっている5人のうちのお一人です。

現在、棚田があるところは「茅場(かやば)」とよばれる、集落共有の屋根をふく茅(かや)を刈る野原でしたが、1928(昭和3)年から棚田の工事がスタート。5年もの歳月と多額の費用を費やし完成しました。「最初は専門の技術者に教えてもらいながら作っていたけれど、工事が進むにしたがって地元の人も見よう見まねで技術を習得して、地区の人たちが中心となり家族総出で工事をしていました」と古澤さん。

石積みはすべて現地の石を利用したもの。小さな自然石と大石を割ったものを垂直に近い斜面に高く積み上げる技は、難易度の高いものでした。

整然と積み上げられた石を間近でみると、並大抵の作業ではないことが見てとれます。

「石垣一つひとつ重ねて、よく作ったよね」と笑う古澤さん。様々な形の石を一つひとつ丁寧に積み上げられ、しっかりとした壁になっています。この石壁が階段状に棚田を形成していて、近くでみると圧巻です。力強さのなかに繊細さも感じられました。

細部まで工夫をこらした坂元棚田

坂元棚田は、高低差をうまく利用した階段状になっています。棚田が築かれたのは、馬耕(ばこう)農業の時代。田んぼ1枚あたりの面積が約5アールであること、畦道(あぜみち)の幅などはすべて機械ではなく馬耕の時代だったからこそ。

棚田の水路は階段状になっており、上側の田んぼに水が満たされると、次の段の田んぼに流れる仕組みです。古澤さんによると、小松山を水源にした水がきれいで冷たいこと、寒暖差があることが、坂元棚田で作られるお米の美味しさの秘訣なのだとか。

「坂元棚田から車で5分ほどのところに展望台があるので、行ってみましょう!」と古澤さん。急な山道をいくと、大きな展望台が見えてきました。

ここから眺める坂元棚田の美しいこと!周囲の山々は季節ごとに色が変わり、鳥のさえずりが聞こえます。

古澤さんによると、坂元棚田の見所は5月後半。田植えの時期、田んぼにはられた水が太陽の光に反射してきらきらと光ります。

写真提供/一般社団法人 日南市観光協会
写真提供/一般社団法人 日南市観光協会

そして、9月もたくさんのカメラマンが撮影にくる季節。黄金の稲穂と彼岸花の鮮やかな赤色のコントラストに魅了される人がたくさんいるのでするのだとか。この景色は、わたしもみてみたい!

未来に守り続けるために「坂元棚田オーナー制度」

坂元棚田が棚田百選に選ばれたのは、石垣の魅力だけではありません。九州でも早い段階から取り組んできた「坂元棚田オーナー制度」も高く評価されています。

オーナー制度とは、​消費者が生産者に事前に出資し、生産物を受け取る仕組み。​坂元棚田オーナー制度に参画すると、1家族年会費35000円で、稲刈りや収穫祭などのイベントに参加でき、収穫された精米が年間30kgも届きます。現在、オーナーさんの数は120名ほど。年会費のうち5000円は棚田保存協力金として積み立てられ、台風や老朽化で坂元棚田の修理が必要になったときに使用しています。

写真提供/日南市 農政課
写真提供/日南市 農政課

お米を送るとオーナーさんから「今年も美味しかった」と手紙が届くことも。オーナーさんと集落のみなさんが、お互いに笑顔になり、深いつながりを感じる仕組みなのです。

「ここの地区は高齢者ばっかりだけれど、何事でもまとまりがあるのが、自慢です。1人ひとりの力は小さいかもしれないけれど、お互いが気にかけあって、助けあって生きている。ここに住んでよかったと思えます」と古澤さんは話します。

100年先の未来にこの風景を残すためには?

90年もの間、人々の手と工夫で守られ続けてきた坂元棚田。古澤さんのお話から、並々ならぬ努力があったことを感じます。

「よく田んぼを守れますか?と聞かれることがあるんですが、田んぼを作るだけなら機械もあるし、難しいことではない。けれど、水路の管理や周囲の環境づくりなどがあります。水路の管理は危険を伴うものなので、2人で行かなくてはいけません。手伝いに帰ってきてくれる人たちやオーナーさんもいますが、主導できる人といったらわたしを入れて3人。田んぼを守ったとしても地区づくりをやっていかなくてはならないので、そうなると厳しいと言わざるをえない」と語る古澤さん。

100年先にもこの美しい坂元棚田の風景を残すために、一体わたしには何ができるだろうかと問われたような気がしました。坂元棚田を訪れ、美しさを伝えていくこと、そして、何度も訪れる関係性を築くことかなと感じました。「私も坂元棚田オーナーになりたいです!」と古澤さんにお伝えすると、「日南市役所の農政課に問い合わせをするといいよ」と教えてもらいました。次回は、オーナーになってまた古澤さんの元気なお姿と、季節によって表情をかえる坂元棚田に会いにいきます。

施設情報はこちら

施設名   坂元棚田

住所    宮崎県日南市酒谷甲 坂元棚田

電話番号 0987-31-1134(日南市観光協会)


※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

長友 まさ美

九州支部 地域ナビゲーター
長友 まさ美

人生の物語に耳を傾け、その方の可能性や魅力を引き出すことが大好き。旅好き、本好き、美味しいものが大好き。美しさと機能性を兼ね備えたもの、伝統工芸品、職人さんの一点物が大好物です。愛しいものを伝え、人生に彩りを添えられることを願って発信中。暮らしを味わい、楽しみつくす日々を生きています。