山梨県富士河口湖町
自然と人が共存する玄界灘・博多湾の風景
2022.08.02
日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、福岡県福岡市に拠点を置き、おしゃれなバック型コンポストを開発した「ローカルフードサイクリング株式会社」のたいら由以子さんに「玄界灘・博多湾の風景」をご紹介いただきました。
福岡の食文化を支え、癒やしと楽しみを与えてくれる海
福岡市をはじめ、九州北西部に広がる玄界灘は、世界有数の漁場。玄界灘に面する博多漁港はもちろん、福岡のおとなり・佐賀県の唐津市、呼子町などでは多くの魚介が水揚げされています。また福岡・佐賀・長崎に渡る玄界灘の海岸や沿岸の島々は、国定公園に指定され、太陽を浴びてキラキラと光る水面や美しいサンセットを楽しむドライブは、福岡県民はもとより観光客にも人気。玄界灘は、福岡市民にとって食文化を支えるだけでなく、癒やしや楽しみを与えてくれる存在なのです。
人と自然が共存する景色を100年先に残したい
そんな玄界灘の風景を「100年先に残したい」と話すのが、福岡市にあるローカルフードサイクリング株式会社で代表取締役を務めるたいら由以子さんです。ローカルフードサイクリングでは、「たのしい循環生活」をモットーに、マンションのベランダで使えるバック型コンポストを開発。台所を起点にした食循環を作る取り組みに力を入れています。そんなたいらさんが、広い玄界灘のなかでも特に思い入れが深い景色があると教えてくれました。
「人工島である福岡アイランドシティから福岡市東区にある立花山を望むと、玄界灘の美しい海と、人々が暮らすまち、そしてその向こうに立花山を望むことができるんです。これはまさに私たちが目指している、都会と自然(美しい海)が共存している姿。今の暮らしや環境を守っていくためにも、美しい玄界灘・博多湾を含むこの景色を100年先にも残したいです」
アオサの堆肥化で美しい海を守る
観光で玄界灘や博多湾を楽しむなら、水族館「マリンワールド海の中道」で生き物と触れ合ったり、志賀島のレンタサイクルを利用して海辺でサイクリング&ピクニックをしたり、もしくは、福岡タワーから望む夕日でロマンチックに過ごしたり夜には玄界灘の海の幸を堪能したり…。「玄界灘」「博多湾」といっても、その楽しみ方はさまざまにあります。
そんな魅力あふれる玄界灘・博多湾の美しい景色を残すために、ローカルフードサイクリングが行ったのが「アオサの堆肥化」です。「実は、海藻であるアオサが博多湾で大量発生しているんです。これは私たちの生活排水が原因といわれています」とたいらさん。アオサの大量発生は、干潟の生態系を壊し、ときにアサリの半数以上が死滅することもあるのだといいます。しかし、水を含むアオサは焼却処分するにも多額の費用がかかるのがネック。
そこで、たいらさんをはじめ、ローカルフードサイクリングのメンバーは、地元・福岡市の九州産業大学の学生とともに博多湾からアオサを回収。コンポストによって堆肥化する取り組みを行いました。出来上がった堆肥を使って、学生たちが玉ねぎや唐辛子を栽培し、ゆずごしょうやドレッシングなどに加工して販売。やっかいものだったアオサから、新たな恵みを生み出したのです。
舞台は先進的モデル都市、人工島にある「コミュニティガーデン」
堆肥作りの舞台になったのは、アオサを集める干潟からほど近い福岡アイランドシティ。博多湾にある人工島で、島の南北はそれぞれ橋が架かり、福岡市の中心・天神へはバスで20分ほどです。島内は高層マンションが並ぶ居住区の「まちづくりエリア」と埠頭用地・港湾関連用地として使用される「みなとづくりエリア」の2つに分かれ、将来をリードする先進的モデル都市として、環境に配慮したまちづくりが行われています。
この福岡アイランドシティの一角にあるのが、島内の居住者らが利用できる「コミュニティガーデン」。アオサを堆肥化したコンポストもここにあります。
アオサだけでなく、住民らが生ゴミを持ち寄り堆肥化
こちらが、コミュニティガーデンにある大きなコンポスト。アオサをコンポストに加えて定期的に大きなシャベルなどでかき混ぜることで、微生物による分解が進み、ゆっくりと堆肥が育っていきます。
もちろん、コンポストで堆肥化できるのはアオサだけではありません。コミュニティガーデンでは、福岡アイランドシティに暮らす住民が自宅で出た生ゴミを持ち寄り、コンポストに加えることで堆肥化。出来上がった堆肥は、野菜や花を育てるために使われています。貸し農園となっているコミュニティガーデンでは、この堆肥を使い、オーガニック栽培で野菜を育てているのです。
たいらさんに、コンポストを見せてもらうと、中にはふっくらと柔らかな堆肥が。そっと手を近づけると、ほのかな熱を感じることができます。「アオサもコンポストに加えて、定期的に混ぜていると、湯気が出てくることもあるんです」とたいらさん。
実はこの熱の正体は、生ゴミを分解する微生物の体温。その姿は目に見えないながらも一生懸命働く姿を頭の中でイメージして、なんだか愛おしさを感じます。
「一緒に活動した学生の皆さんは、最初『臭いが気になる』『虫が嫌』など、ネガティブな言葉がたくさん出てくるんです。でも徐々に取り組む姿勢が変わってくる。堆肥ができて、畑を耕し、収穫した野菜を食べてみるととってもおいしくて…そんな一連の体験が気持ちの変化をもたらしてくれるんだと思います。なぜこの取り組みが必要なのか、大事なのか。学生時代はもちろんですが、卒業後、社会人として働きだしてから環境や地域について考え、アオサの堆肥化の経験がいかに大切だったのか、改めて実感することもあるようです」
循環の仕組みを作って、100年先にも美しい海を
たいらさんが残したい、と教えてくれた景色には、山と海、そして私たちが暮らすまちが含まれています。実は美しい海を保つために必要なのが、遠く離れた山の美しさ。山から川を伝って海へ、たくさんの栄養が流れてくることで、生態系が保たれています。
「いくらエコな暮らしが環境にいいからといって、今から江戸時代に戻ることはできません。だからこそ、”循環”の仕組みを暮らすこととつなげる必要があると考えています。ちょっとのことですが、意識して過ごすことで日々が豊かに感じられる”手触りのある暮らし”ができてくるんじゃないかな」と話す、たいらさん。コミュニティガーデンを中心に、共感の輪が広がり、美しい景色を未来に残すための循環が生まれています。たいらさんたちが守る景色やそこで獲れる新鮮な魚介類をぜひ福岡で、体感してみてはいかがでしょう。
スポット情報
施設名
コミュニティガーデン
住所
福岡市東区香椎照葉1-4
問い合わせ
TEL092-405-5217(NPO法人循環生活研究所内 小さな循環いい暮らし事業実行委員会)
地域ナビゲーター
九州支部 紙とWEBの編集ライター
戸田 千文
愛媛県出身、広島、東京での暮らしを経て、福岡で暮らすフリー編集ライターです。各地を転々としたおかげで、ローカルのおいしいモノ・楽しいコトに興味深々!
食いしん坊代表として、特にご当地グルメと地酒は無限の可能性を秘めていると感じます(笑)。首都圏と地方を結ぶ架け橋となるような仕事をしたいと奮闘中です。