山梨県富士河口湖町
白く輝く和歌浦の「わかしらす」
2022.07.29
日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、和歌山県和歌山市にある株式会社紀州高下水産の高下昭人さんに、「わかしらす」をおすすめいただきました。
歌人の憧れ、風光明媚な和歌の浦
「和歌の浦」として万葉の時代から歌枕として親しまれ、歌人たちの憧れの地であった和歌山県和歌山市北部にある和歌浦。潮の満ち引きによって日々姿を変える干潟は関西最大級とも言われ、近隣の橋や小高い丘から眺める風景は、悠久の昔から変わらず人々の心を和ませてくれます。
干物屋・紀州高下水産も絶賛する「わかしらす」
そんな風光明媚な和歌浦の名産品の一つが「わかしらす」です。わかしらすを「100年先に残したいもの」として推薦してくださったのは、同じく和歌浦で「紀州備長炭干し」という独特の製法で干物を製造販売する、株式会社紀州高下水産の高下昭人(たかしたあきと)さん。
「わかしらすはとにかくおいしいのでぜひ一度食べていただきたいです。おいしさは全国でもトップクラスではないでしょうか。しらすは店によって味が違いますが、どこもシンプル。シンプルだからこそこだわっているのがよく分かります」と、高下さん。水産加工のプロフェッショナルである高下さんが推薦するわかしらすとは、一体どんなしらすなのでしょうか。
しらすは昔ながらの名産品
今回、高下さんが紹介してくださったのは、わかしらすの老舗「やぶ新」。明るく笑顔が素敵なおかみさん、藪江津子(やぶえつこ)さんにお話を伺いました。古くは江戸時代からしらす漁がさかんな和歌浦で、やぶ新は1947(昭和22)年にしらす漁の網元として創業。2008(平成20)年にわかしらす協議会を立ち上げ、それまで名前のなかった「和歌浦のしらす」「若くて元気なしらす」を「わかしらす」としてブランド化しました。以後伝統や品質を守り続けています。
「今はもうありませんが、昔はうちの店の隣にもしらす屋があって、堤防の上に無造作にしらすを干していた風景が思い出深いです」という高下さんのお話からも、昔から和歌浦がしらすの産地であったことが伺えます。
旬は春と秋の2回
わかしらすの旬は3〜5月頃と9〜10月頃と言われています。しらすはイワシなどの稚魚なので、卵が孵化する時期しか獲れません。取り尽くさないよう取り決めを守りながら漁をします。
出漁は朝5時。3隻の漁船が一団となってしらす漁が行われます。和歌浦近くにある双子島の沖合で、船で引いた網を広げながらしらすを捕獲します。
とれたての生しらすは宝石のような輝き
網上げされて真水で洗っただけのとれたてのしらすはいわゆる「生しらす」と呼ばれ、まだ火を通していないので透明感があり、ツヤツヤ、キラキラしています。今回特別に、朝上がったばかりの生しらすを試食させていただきました。
ツルツルとした食感なのに弾力があり、生でしか味わえない甘みが口の中に広がります。ポン酢でいただくと生臭さもなく、ちょっとしたおつまみのような感覚でつるりと食べられるのも特徴的。生で食べられるのは目の前の漁港からすぐに運んでいるからだそう。鮮度が命のしらすを、移動距離ほぼゼロで加工できるのはやぶ新の強みです。輸送も冷蔵もされていない、本物の生の味だと感じました。
釜茹ですると真っ白なしらすに
やぶ新で取り扱うしらすは生しらす、釜揚げしらす、干ししらす、佃煮の4種類。生しらす以外はこの大きな釜で茹でてから次の工程に入ります。釜の中で沸騰した塩水にしらすを入れると、透明だったしらすがみるみるうちに白くなっていきました。この時の塩加減で味が変わるそうで、藪さん曰く「うちのはちょっと薄味かな」とのこと。
他の店では自動釜で茹でることが多いそうですが、やぶ新ではその日出荷する分だけを茹でるため、今も手作業で行っているそうです。ザルを浸けて左右に揺らしながらしらすをすくう作業は簡単そうに見えますが、実際は重いし熱気がこもるのでかなりの重労働なのだとか。水分を切って風に当てて冷ましたものが「釜揚げしらす」です。
うまみと歯応えが出る干ししらす
釜茹でしたしらすに風を当てながら2〜3時間天日干ししたものが「干ししらす」です。釜揚げしらすはふわふわで素材そのものの味を堪能できますが、干ししらすはうまみがぎゅっと濃縮され、しっかりした歯応えも出ます。食べ比べてみて風味が全然違うことが分かりました。料理によって使い分けるとよさそうです。
わかしらすの魅力の1つはその白さ。ミネラルが豊富で、全国でも透明度が高いと言われる和歌浦湾で育ったしらすは、茹でると本当に白く輝きます。店前で白いしらすを干している風景は美しい光景でした。
おすすめの食べ方はしらす丼
藪さんにわかしらすのおすすめの食べ方を伺ったところ、「やっぱりしらす丼かな」と教えてくれました。やぶ新のしらす丼は、漁港内で土日に開かれる「おっとっと広場」という市場で食べられます。
丼の手前が釜揚げしらす、奥が生しらす、左の小鉢はしらすの佃煮。しらす尽くしの贅沢なセットです。刻んだ大葉&和歌山産の大きな梅干しとしらすは相性抜群! 釜揚げしらすと生しらすを混ぜながらいただくとご飯が進みます。しらす自体は薄味なので、ポン酢をかけるとちょうどいいですよ。
歌枕のように語り継がれる名産品に
この辺りではめずらしい、しらすの6次産業を展開するやぶ新。取材中も地元の人が次々と直売所にしらすを買いに来られました。冷凍のしらすが苦手だからわざわざここに買いにくるという人も。電話やインターネットから入る注文の多くは県外からで、その日獲れた新鮮なものを出荷しています。
高下さんがおっしゃっていた通り、シンプルで味わい深いわかしらす。伝統を受け継いでくれる人がいるからこそ、わかしらすの歴史も続いていきます。風光明媚な和歌浦の景色を堪能した後にいただくしらす丼は格別。歌枕として歌い継がれる美しい景色のように、わかしらすも100年先まで残ってほしいと思いました。
施設情報はこちら
施設名
やぶ新
住所
和歌山県和歌山市新和歌浦1-1
電話番号
090-3281-1149
営業時間
8:00~16:00 ※来店前にご連絡ください。
休業日
水曜
※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。
地域ナビゲーター
近畿支部 地域ナビゲーター
小山 志織
紀南在住。県外の大学卒業後、和歌山にUターン。和歌山を拠点にしつつ旅するライター&エッセイストとして旅で得た経験などを元に執筆活動をしている。地域の情報発信にも関心があり、県内の取材に出かけることが多い。書くことが好きで、自分自身が地域の魅力を知りたい!という気持ちで取材執筆しています。