山梨県富士河口湖町
隣り合う人との会話がはじまる、福岡の屋台
2022.11.01
日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、福岡県福岡市にある業務用専門の酒販売店「岩田酒販株式会社」の広域営業部部長・三島啓助さんに、「福岡の屋台」をご紹介いただきました。
夕方になるとワクワク!100年先に残したい「福岡の屋台」
福岡の旅に欠かすことはできないのが「食」。もつ鍋、博多とんこつラーメン、明太子…。1度の旅では食べきれないほど魅力的なラインアップです。そんな福岡で、ぜひ訪れたいグルメスポット「屋台」を100年先に残したいと話すのは、福岡市にある業務用専門の酒販売店「岩田酒販株式会社」の広域営業部部長・三島啓助(みしまけいすけ)さん。仕事でもプライベートでも多くの飲食店を訪れる三島さんですが、なかでも屋台は思い入れのあるスポットです。
「こんなに多くの屋台が地域に根ざしていて、僕みたいなおじさんだけじゃなく、家族や女の子同士でも気軽に行ける地域はほかではなかなかないのでは。観光客はもちろん、地元の人にとっても欠かせない存在です。行きつけの屋台を持っている人も多いのではないでしょうか。若い頃は、夕方、屋台の組み立てが始まる様子を見ると、『今日の仕事ももう少しで終わるなぁ』とワクワクしていました(笑)」。
中洲・長浜、そして天神。特徴ある3つの屋台街
福岡市では、大きく分けて3つのエリアで屋台を楽しむことができます。まずは中洲エリア。東京・歌舞伎町、札幌・すすきのに並ぶ、日本三大歓楽街のひとつで、まちを流れる那珂川(なかがわ)沿いに屋台が並ぶ様子は、博多の夜を代表する風景です。観光ガイドブックでも多く紹介され、国内外の観光客で賑わっています。2つめは、長浜エリア。出店屋台は数軒と、他のエリアと比べると少ないですが、地元客の利用が多く、アットホームな雰囲気です。
そして最後は、九州一の繁華街・天神エリア。今回は、天神エリアで100軒以上の屋台をまとめる福岡市移動飲食業組合の組合長であり、「博多っ子純情屋台 喜柳(きりゅう)」の車長・迎敬之(むかえ たかゆき)さんに、福岡の屋台の魅力やその楽しみ方を教えてもらいました。
屋台廃止の流れを止めた、福岡の人々
そもそも、福岡の屋台の歴史は戦後からはじまりました。当時は闇市で仕入れた食材を販売する屋台が、福岡はもちろん日本各地にあったのです。しかし戦後の復興が進むうちに、衛生面や美観が問題視されるように。GHQの取り締まりも強化され、1949(昭和24)年には裁判所から「屋台全廃」が命令されたのです。
「そんななか福岡では、屋台の経営者たちが集まり組合を結成。当時の県議会議員らとともに、裁判などで屋台存続の意義を主張し、1955(昭和30)年には、厚生省(当時)の通達により全国的に屋台営業が可能になりました。当時、屋台に携わっていた人にとって、屋台の廃止は、自分たちの生活に直結する問題だったんです。そんな先人たちのおかげで、福岡は、全国で唯一残った大規模な屋台街となりました」。
小ぢんまりした客席で自然とはじまるコミュニケーション
夜は屋台街に変わる福岡のまちですが、当然、昼間に屋台の姿はありません。しかし、午後5時を過ぎると、1軒、また1軒と屋台の設営がはじまり、午後6時〜7時をめどに営業をスタート。深夜に営業を終え、明朝の午前4時までに屋台を撤収するのがルールです。
屋台の広さは幅5m、奥行き3m。指定されたサイズに調理スペースと客席、食材や備品などすべてを納めることが決まっています。さらに、調理スペースを囲むコの字型の客席に10人前後が座るため、お客さんとの距離は自然と近いものに。実はこの距離こそ、屋台の醍醐味です。
「距離が近いため、自然と会話が生まれるんです。はじめてあったお客さん同士、性別も世代も問わず、いつの間にか会話が弾んでいる。地元の常連さんが、観光のお客さんにおすすめの観光地を教えたり、観光客同士で情報交換をしたり。屋台を訪れたら、そんな出会いやおしゃべりを楽しんで欲しいですね」と迎さんは話します。
またひとりで来店しても、屋台の店主やスタッフが積極的に声がけしてくれることがほとんど。「無口な大将の店なら、そばにいる女将さんやスタッフさんがおしゃべりで、バランスが取れているんです(笑)。女性ひとりでも気軽に屋台を楽しんでほしいですね」
迎さんが営む「喜柳」でも、食事を楽しむお客さんはもちろん、席空きを待つ列に並んだお客さんにも、スタッフが積極的に声をかけています。「今日はどこからきたの?」「屋台ははじめて?」「ビールはどのメーカーが好き?」。そんな小さな会話が、いつの間にか店内のお客さんをまきこんでにぎやかな笑い声に変わっている、なんとも温かい光景が屋台の魅力です。
バリエーション豊富な屋台グルメ
もちろん、料理もお楽しみのひとつ。天神エリアでは、ラーメンやおでんを出す昔ながらの屋台はもちろん、フレンチやふぐ料理、コーヒーなど、従来の屋台のイメージをくつがえす”専門屋台”も見られます。
「喜柳」の特徴は、屋台とは思えない豊富なメニュー。定番はもちろん、店オリジナルや季節メニューなどおよそ100種ほどがそろいます。今回は看板メニュー「モチモチぎょうざ」と博多屋台発祥の「焼きラーメン」をチョイスして、まずはビールでカンパ〜イ!
目の前で調理される様子を眺めながら、会話を楽しんでいるとあっという間にぎょうざが登場。丸く焼いたぎょうざの皮は、薄く焼いたお餅のように、モチッとした食感で、口いっぱいに肉汁がじわり。熱々のぎょうざを頬張って、ビールで流し込む。夏のじとりとした空気を忘れる爽快感です。
餃子を食べ終えたタイミングを見計らうかのように提供されたのは、「焼きラーメン」。茹でたラーメンに、豚骨スープを絡めて焼いた福岡屋台発祥のグルメです。喜柳では、福岡生まれのラーメン専用小麦「ラー麦」を使ったラーメンを使用。とんこつスープのうま味は感じられながらも、あっさりと食べられる仕上がりです。
安全安心で、地域に愛される屋台文化を
「屋台と聞くと、衛生面を心配したり、ぼったくりに合うんじゃないかと不安になったりする方もいます。そんな不安を払拭すべく、天神エリアの屋台では必ずメニュー表を用意し、明瞭会計に。また9割の屋台に上下水道が設置されています。刺身といった生ものの提供も行っていませんし、福岡市の担当者が毎日見回るなどして、安心して利用できるよう環境づくりにつとめています」と迎さんは話します。
「小さな造りの屋台で知らない人、隣り合う人との会話がはじまる。そんな安全・安心で、地域の人に愛される屋台の文化を、みんなで継承していける環境がこれからも続いていったらいいですね」と推薦者の三島さん。その言葉に応えるように、迎さんら屋台に関わる人々は心地よい環境づくりに力を入れています。今日も、夕暮れどきに福岡のまちにあらわれる屋台たち。夏はうちわを仰ぎながら、冬は身を寄せ合いながら、おなかも心も満たされる屋台文化を紡いでいます。
店舗情報
店名
博多っ子純情屋台 喜柳
住所
福岡県福岡市中央区天神1(大丸福岡天神店本館東側の歩道)
TEL
090-9721-7061
定休日
不定休
営業時間
18:30ごろ〜翌2:00
地域ナビゲーター
九州支部 紙とWEBの編集ライター
戸田 千文
愛媛県出身、広島、東京での暮らしを経て、福岡で暮らすフリー編集ライターです。各地を転々としたおかげで、ローカルのおいしいモノ・楽しいコトに興味深々!
食いしん坊代表として、特にご当地グルメと地酒は無限の可能性を秘めていると感じます(笑)。首都圏と地方を結ぶ架け橋となるような仕事をしたいと奮闘中です。