山梨県富士河口湖町
江戸末期からの味わいが残る、ひがし茶屋街
2023.03.16
日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、石川県金沢市にある中田屋の大海紗也佳さんに、ひがし茶屋街をおすすめいただきました。
古い町並みが残る、加賀藩の城下町・金沢
金沢市街の現在の地図と江戸時代の古地図を見比べると、まちの区画や街路が、現在とそれほど変わりがないことに気付きます。戦災をまぬがれたことで古い町並みがそのまま残った、というのがその理由。加賀藩の城下町だった頃の面影に、そこかしこで出合うことができます。
今回紹介する「ひがし茶屋街」もそのひとつ。1820(文政3)年に加賀藩公認の茶屋街として誕生したまちで、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。お茶屋とは、お座敷に芸妓(げいぎ)をよんで唄や踊りなどの芸を鑑賞したり、飲食をしたりする社交場のこと。金沢の茶屋街では芸妓はもちろん、お客にも教養が求められ、格式の高い遊興の場として発展してきました。
お茶屋の歴史や文化を伝える、ふるさとの風景
「私が小さい頃は、今のように整備された町並みではなかったし、観光客もほとんど見かけませんでした。家が近所だったので、通りでバドミントンをして遊んでいましたね」と話してくれたのは、銘菓きんつばで知られる「中田屋(なかたや)」社員の大海紗也佳(おおみ さやか)さん。
大海さんにとって、幼い頃からなじんだひがし茶屋街の風景は、ふるさとそのもの。「町並みがきれいになって有名観光地になりましたが、お茶屋の文化が変わることはありません。100年先も、その先もずっと、この風景が残ってほしいですね」と、まちへの思いを話してくれました。
日中は観光客で賑わい、夜は大人の社交場に
江戸末期、ひがし茶屋街には120軒ほどのお茶屋があったそうですが、時代とともにお茶屋が次々に廃業。失われつつある景観と賑わいを取り戻すべく、平成に入って修景事業がスタートしました。
こちら(上画像)はひがし茶屋街にある「中田屋」の店舗。同社の大海さんによれば「もとは八百屋さん」だったとか。古い町家は伝統的な景観をそのままに、こうした和菓子店やカフェ、ギャラリーなどに生まれ変わり、まちに再び活気が戻ったのです。
今も5軒のお茶屋が営業するひがし茶屋街では、夕暮れ時になるとガス灯がともり、どこからともなく三味線の音がもれ聞こえてくることも。まちに品格とあでやかさが漂うのは、金沢芸妓が洗練された芸でお客をもてなす社交場としての顔があるからでしょう。
ボランティアガイドと歩く、雪の茶屋街
取材に訪れた日は、あいにくの雪。金沢に古くから伝わる「弁当忘れても傘忘れるな」という言葉の通り、このまちは雨や雪が多く、空模様がころころと変わります。
「雪景色も金沢らしくて、いいがいね(いいわよね)」と笑顔で迎えてくれたのは、ボランティアガイド「まいどさん」の中麗子(なか れいこ)さん。雪が降りしきるひがし茶屋街を、中さんの案内でめぐることにしました。
もてなしの場である茶屋建築の特徴とは
「お茶屋の建物には特徴があります。2階が客間なので、天井を高く造ってあるんですよ」と中さんが示す先に、ひがし茶屋街の検番がありました。検番とは、茶屋街の事務所のこと。芸妓さんのお稽古場でもあります。
検番の建物は茶屋建築の典型。なるほど、1階より2階部分が高く、ちょっぴり頭でっかちな印象を受けます。「2階の客間は贅をこらした造りになっています。ひがし茶屋街には、茶屋建築の内部を見学できる施設が3カ所ありますから、ぜひ立ち寄ってみてください」と中さん。
“木虫籠(きむすこ)”とよばれる、目の細かい格子も特徴のひとつ。「格子の断面が台形になっているんです」と中さんが教えてくれました。屋内側を細く、外側を太くすることで、外から見えづらく、中からは見えやすくしているのだとか。大人の社交場らしい、絶妙な目隠しというわけです。
格子越しに通りを眺めながら一服できるカフェもありますよ。ひそやかな雰囲気の中でのティータイム、なんだか素敵ですよね。
路地裏には、隠れ家的なバーや古い商店も
冒頭の画像にもあるメインストリートをはずれると、観光客の姿はまばらに。路地をたどって、通りの裏手にまわります。狭い路地って、なんだかワクワクしますよね。この先に何があるのか、探検気分で中さんの後に続きます。
「ひがし茶屋街には一番丁、二番丁、三番丁の3つの通りがあって、現在のメインストリートは二番丁。通りそれぞれに雰囲気が異なります」と中さん。こちらの三番丁には、あでやかな紅殻(べんがら)格子の和菓子店やギャラリーが奥ゆかしくたたずんでいます。
ここは茶屋街の端にある観音通り。「通りの先に加賀藩前田家の祈祷所だった観音院があって、その門前通りとして整備されました」と中さんが教えてくれました。老舗米穀店や三味線専門店といった商店が立ち並び、昔ながらの金沢の暮らしが垣間見えるよう。顔の見える近所付き合いが、今も大切にされています。
観音通りにある「ひがし茶屋休憩館」は、かつて質屋だった建物。ボランティアガイド「まいどさん」が常駐しており、散策拠点としても便利なスポットです。
「このまちの歴史や文化を次世代につなぎたい」
自身も近所に住むという中さんに、まちへの思いを尋ねてみました。「古い町並みを受け継いでいくことは、簡単なことではありません。メンテナンスは大変だし、高齢化がすすんで空き家も増えていますから。大切なのは“つなぐ”っていうことかな。建物や暮らし、文化を、こつこつと次の世代につないでいくこと」。観光地としての華やかさの背景には、住民の地道な取り組みがあるのです。
案内してくれた中さんとは、ここでお別れ。雪の中、どうもありがとうございました!
ひがし茶屋街とともに訪れたい、浅野川
そうそう、紹介者の大海さんは、こんなことも話していましたよ。「ひがし茶屋街のすぐそばを流れる浅野川も、金沢らしい風景のひとつ。5月の鯉のぼり流しや、6月の灯籠流しなど、季節ごとの行事も素敵なんです」。茶屋街散策とあわせて、浅野川にも立ち寄ってみましょう。
雪化粧をした浅野川は、まるで水墨画の世界。しんしんと降る雪の向こうにアーチを描く浅野川大橋は、大海さんが「絵になる風景」と教えてくれたスポット。灯籠流しなどの行事も、この界隈で行われます。
人々の思いを、未来へつないでいく
金沢随一の観光地・ひがし茶屋街を訪ねた今回の旅。紹介者の大海さんが話してくれた「この風景がずっと残ってほしい」の言葉と同じく、そこには「歴史的な町並みや文化を次世代につなぎたい」という人々の思いがありました。茶屋街開設から約200年。時代を経ても変わることのない浅野川の流れのように、きっとこのまちも、そこに暮らす人々の思いも、未来に受け継がれていくに違いありません。
施設情報はこちら
施設名
ひがし茶屋街
住所
石川県金沢市東山
電話番号
076-232-5555(金沢市観光協会)
※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。
地域ナビゲーター
中部支部 地域ナビゲーター
森井 真規子
石川県小松市在住のライター。航空自衛隊、海外生活を経て故郷にUターン。金沢のライター事務所で修業を積み、2005年からフリーランスで活動しています。出会う人やモノ、コトのストーリーを丁寧にすくいあげ、分かりやすい言葉で伝えることを心がけています。