
山梨県富士河口湖町
2023.05.01
日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、中国支部ナビゲーター・浅井ゆかりさんご自身が「100年先に残したいもの」をセレクト。広島県尾道市、JR尾道駅裏に位置する空き家再生施設「三軒家アパートメント」をご紹介します。
尾道市三軒家町に位置する「三軒家アパートメント」は、NPO法人「尾道空き家再生プロジェクト」が手がけている空き家再生施設。風呂なし1Kが10部屋あった昭和のアパートをリノベーションし、うち3部屋で異なるショップを運営するほか、7部屋をテナントとして貸し出しています。入居している店は、カフェ、古着屋、古本屋、レコード店に卓球場などさまざま。中央にある中庭は、入居者たちや来訪者がくつろぐフリースペースになっています。
みなさん、こんにちは!ふるさとLOVERS中国支部ナビゲーターの浅井ゆかりです。普段は広島のタウン誌を中心に、ライターとして地域に根付いた情報発信を行なっています。
かつて港町として栄えた広島県尾道市は、文化と歴史が息づく情緒あふれるまち。その独特な佇まいに魅せられて越してくる移住者も多く、新旧混在した魅力があります。“尾道らしい”と表現したくなる建物はいくつもありますが、中でも私のお気に入りは昭和のアパートを現代によみがえらせた「三軒家アパートメント」。尾道を訪れるとつい足を運びたくなる、温かさと懐かしさに満ちた空間です。
NPO法人「尾道空き家再生プロジェクト」は、代表の豊田雅子さんが、尾道に眠る数々の空き家をもっと活用できればと立ち上げた団体です。もともと尾道の出身で、大阪でツアーコンダクターをしていた豊田さんは、母親の病を機に郷里へ戻ることに。その後地元の人と結婚し、生活の拠点を築く中で個性的な空き家と出合い、「民宿みたいなことをしてみたい」と、空き家再生を手がけるようになったそうです。
尾道本土と対岸の向島(むかいしま)を隔て、利便性の高い交通路として商人に重宝されてきた尾道水道が走る尾道市。中世の開港以来、瀬戸内随一の良港があるまちとして繁栄してきました。人、もの、財が集積し、富をなした豪商たちは、その財を寺の建立やまちの整備に惜しみなく投資してきたのです。町屋やお屋敷、洋風建築などが今でも多く残るのはこのためです。
しかしながら、坂道の多い尾道は暮らしを営むには不便な面があり、これらの素晴らしい建物は人の手で慈しまれることなく、朽ちていったものもあります。そんな課題を憂えた豊田さんは、次々と空き家を再生し、一棟貸しの宿「尾道ガウディハウス」、ゲストハウス「みはらし亭」「あなごのねどこ」などに活用してきました。今ではこれらの施設を目当てに県外から訪れる人もいるほどです。
今回ご紹介する「三軒家アパートメント」は、JR尾道駅から徒歩3分の好立地にあり、ビジターがふらりと訪れるのに最適な複合施設。カフェで食事やお茶をいただいたり、古着屋やレコード店で買い物を楽しめたりします。
童心にかえって卓球場で汗を流すのも、ほかにない思い出になりそう。作家さんのアトリエもあるので、色々な作品を見せてもらうのも刺激になります
こちらはNPO法人が営む雑貨店。これまでの空き家再生で行き場のなくなった雑貨や古道具、仕入れた品をセンス良く並べています。中には「これ、子どもの頃使ってた!」なんて思わせられる雑貨も見つかり、思わず胸がときめきます。
中庭では多肉植物の販売もしているので、好みの器を見つけたら合わせて買うのもおすすめ。植物用の鉢でなくとも、キッチン雑貨や生活雑貨をミックスして自分だけの一鉢が作れます。手入れしすぎていない、のびのびとした植物の表情が愛らしいです。
そして古本屋は、本好きにはたまらない空間。純文学や歴史小説、詩集やエッセイなどさまざまなジャンルの本が揃っていて、背表紙を眺めるだけでワクワクします。カバーがないものも多いですが、それもまたご愛敬。ぴたりとくる一冊を手にすると、何だか心が満たされてくるのを感じます。
アトリエは残念ながら作家さんが不在でしたが、こんなに素敵なギャラリースペースを見つけました。ピンク色に塗られた壁には、花や生き物をモチーフにした作品が飾られていて、ついうっとりと見入ってしまいます。
ここで店を開く古着店のオーナーは、「賃料がすごく安いので、気軽に自分のやりたいことにチャレンジできています。地元の人と旅行客両方が店に寄ってくれ、いろんな人との出会いが楽しいです」と話してくれました。店頭には味のあるヴィンテージやユーズド品が並び、宝探し気分で買い物できます。価格も良心的なので、地元の学生がお小遣いを持ってショッピングに来ることもあるのだとか。
NPO法人のメンバーは、「代表は移住してきた駆け出しのアーティストさんやものづくりをする若い人たちが集える拠点を、という思いでここを立ち上げました。尾道に居を構えて文化を発信し、地元の人・移住者たちが相互に良い影響を受けながら、新しい何かが生まれることを期待しています」と話します。
さらに尾道には、移住してきた人を心から歓迎する風土があり、それがまた新しい人を呼び寄せる要因になっているのだそう。「移住者の悩みとしてよく聞くのが、その土地にうまく馴染めないということ。ここは排他的な雰囲気が一切ないので、居心地が良いんだと思います」。尾道という土地と同様に、三軒家アパートメントもまた、多様な人が集って交流を持ち、独自の文化を紡いでいます。
週末や祝日には、中庭を使ってマルシェやフリーマーケットを開催。のんびりとした空気感が、休日を豊かにしてくれます。近所に住むおじいちゃんが「コーヒー淹れてもらえる?」なんて言いながら自転車に乗ってきたり、仲良しの親子連れが週末に読みたい一冊を求めて楽しそうに本を見繕っていたりするのも、微笑ましい光景です。
「個の時代」と呼ばれて久しいですが、三軒家アパートメントには、古き良き人と人とのつながりが残っている気がしてなりません。そして、思いのままに自分を表現する、自由な生き方も。どうかこの先もこの場所が変わらぬまま在り続け、尾道を愛する人たちの心のよすがになってほしいと願います。
撮影:福角智江
施設情報はこちら
施設名
三軒家アパートメント
住所
広島県尾道市三軒家町3-26
電話番号
090-2809-2938(尾道空き家再生プロジェクト)
営業時間・定休日
店により異なる
※施設に関する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。
中国支部 広島県ライター
浅井 ゆかり
タウン誌をメインに、ジャンル問わず取材執筆(時々撮影)を手がけるフリーライターです。広島に嫁いで十数年になりますが、広島生まれ広島育ちの夫よりこのまちに詳しい自信あり! 取材に応じてくれる人、記事を手にしてくれる人へ、ちょっとした幸せや新鮮な驚きを届けられるようなプラスの言葉を紡いでいきたいです。