福井県あわら市

信仰の名残と歴史ロマンあふれる吉崎御坊跡

2021.02.22

この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。
今回スポットをご紹介頂いたのは、福井県あわら市で伝統工芸を取り入れた商品開発を行うデザイン会社「ハートブレーン」の小川秀夫さんです。

人口あたりの寺院が日本一多い福井県

福井県は、日本で最も信徒数の多い浄土真宗が盛んなのをご存知でしょうか。人口あたりの寺院数が日本一の県としても有名です(「タウンページデータベース」2016年より)。そんな福井県で最初に浄土真宗が伝わった場所が、あわら市にある国指定史跡の「吉崎御坊跡(よしざきごぼうあと)」。東西約150m、南北約130m、面積約2haの台地で、北陸に浄土真宗を広めた蓮如上人(れんにょじょうにん)ゆかりの史跡が見られる場所です。

あわら市といえば、140年の歴史がある「あわら温泉」を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし、野菜や果物生産が盛んな丘陵地、越前加賀国定公園に指定されている海岸線や北潟湖(きたがたこ)など、実は自然に囲まれた場所でもあります。

豊かな風景に溶け込んだ、あわら市の景勝地「吉崎御坊跡」を「100年先にも残したい場所」と教えてくれたのは、地元で伝統工芸を取り入れた商品開発をしているデザイン会社「ハートブレーン」の小川秀夫さんです。「福井の信仰心の象徴であり、あわらの豊かな自然を感じられる場所として、吉崎御坊跡の魅力が多くの人に伝わってほしい」と語ります。

偉大な宗教家・蓮如上人が開いた「吉崎御坊」

あわら市の北部、石川県加賀市との県境にある「吉崎」地域には、「御山(おやま)」という名で親しまれている千歳山があります。1471(文明3)年、浄土真宗の僧・蓮如上人が、北陸地域に布教を広めるための拠点として、御山に「吉崎御坊」を開きました。

当時は度重なる戦の混乱から、民衆に不安が広まっていた時代。この地で蓮如は民衆にわかりやすく教えを説いたため、北陸はもとより奥羽からも多くの門徒が集まるようになります。「吉崎御坊」には宿坊が軒をつらね、なんと年間50万人もの門徒が訪れる一大宗教都市へと発展していったのです。

ガイドさんと一緒なら「吉崎御坊跡」めぐりがもっと楽しくなる!

蓮如上人の教えは広まっていったものの、代わりに権力に対抗する動きが活発に。蓮如上人は一向一揆の抗争を避けるため京都へ帰京し、その後、吉崎御坊は戦国大名朝倉氏によって破却されてしまいます。時代を経て現在、「吉崎御坊跡」は蓮如上人ゆかりの地として、さまざまな史跡が残る観光名所となりました。

そんな蓮如上人の軌跡や吉崎御坊跡の魅力を楽しく伝えてくださるのが、一般社団法人 蓮如の里吉崎の末富攻(すえとみ おさむ・右)さんと七郎丸喜好(しちろうまる きよし・左)さんです。今回は一緒にめぐりながら、当時の歴史背景や地元に伝わる逸話などを紹介していただきました。

絶大な影響力を持っていた蓮如上人

まずは吉崎御坊跡で最も目を引く蓮如上人像から。彫刻家の高村光雲によってつくられた三大名像の一つで、台座が7m、銅像は5mという巨大なものです。蓮如上人は85歳の生涯を終えるまで各地をめぐりながら布教活動に専念し、足の裏はワラジの跡がくっきりついていたといわれています。なんと5人の妻と25人の子どもを持ち、最後の子どもは蓮如上人が84歳の時に生まれたそう。実は子どもたちが布教戦略の一翼を担っていたとも言われています。

現在も吉崎の地域では「蓮如忌(れんにょき)」と呼ばれる盛大な法要が、毎年4月23日から5月2日の間に執り行われ、多くの参拝者が訪れています。340年以上の歴史を誇る一大行事はまず、4月17日から4月23日にかけて、門徒衆が蓮如上人の御影を京都から吉崎東別院まで歩いて運ぶ「御下向(ごげこう)」から始まり、蓮如忌を終えたのち、5月2日に吉崎東別院を出立し、5月9日に京都に帰る「御上洛(ごじょうらく)」で締めくくります。御下向と御上洛を合わせて「御影道中」(ごえいどうちゅう)と呼び、この壮大な行事がいまもなお続いているのです。時代を超えても蓮如上人の影響力は絶大です!

吉崎御坊跡に伝わる不思議な話

吉崎御坊跡には不思議な話がいくつも残されています。その一つが蓮如上人像の近くにある「お腰掛けの石」の話。室町時代に吉崎御坊本堂西側の庭に添えられていた庭石で、蓮如上人はこの石に腰掛けて日本海を眺めていたそう。今でも蓮如上人の温もりが残り、降雪時もこの石の雪だけすぐに溶けるといわれています。

このほかにも「鹿の話」や「爪だけが赤い赤手蟹の話」、吉崎御坊へ参詣する若嫁を姑が鬼の面を付けて脅かした「嫁脅し肉付きの面」の話など、吉崎に地域に伝わる話は盛りだくさん!ぜひガイドさんに聞いてみてください。

北潟湖と日本海をのぞむ絶景

「吉崎御坊跡一のすばらしい眺め」とガイドの末富さんに教えていただいたのは、御山から「鹿島の森」を見下ろすビュースポット。「鹿島の森」は吉崎御坊から石川県加賀市方面に見える陸続きの小島。北陸の雪深い地域にあるにもかかわらず亜熱帯植物の原生林が生茂る貴重な森です。湖に浮かぶ森、さらにその向こうには日本海が見え、1年を通して美しい景色を眺めることができます。

蓮如上人も吉崎御坊を去る際、小舟でこの湖を渡っていた時に夕陽に照らされた御山を振り返り、「夜もすがら たたく船端吉崎の 鹿島続きの山ぞ恋しき」という句を残したそう。
蓮如上人も眺めたであろうこの景色を、時代を超えて見ているかと思うと何だか感慨深いですね。

四季折々の楽しみ方ができる吉崎御坊跡

四季折々の姿を見せる吉崎御坊跡ですが、最近では桜が満開になる場所としても知られています。毎年春の時期は多くの花見客でにぎわうそう。またガイドツアーでは蓮如上人ゆかりの寺に拝観したり、地元で伝わる伝承料理をいただいたりなど、さらに深く濃い体験ができると評判です。

ぜひ吉崎御坊跡に訪れ、脈々と受け継がれてきた蓮如上人の教えや歴史の奥深さを感じてみてください。

施設情報はこちら

施設名
吉崎御坊跡

住所
福井県あわら市吉崎

電話番号
090-8099-7870(一般社団法人蓮如の里吉崎)

休業日
無休

ガイドツアー開催日
毎月第2・第4日曜(基本)
12月・1月・3月のみ第1・第3日曜での開催となります。

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

石原 藍

中部支部 ローカルライター
石原 藍

大阪、東京、名古屋と都市部での暮らしを経て、福井に移住。地域コミュニティやものづくり、観光をテーマに Web や書籍、広報物の執筆を手がけています。「興味のあることは何でもやり、面白そうな人にはどこにでも会いに行く」をモットーに、自然にやさしく、自分にとっても心地よい生き方、働き方を模索しています。