和歌山県和歌山市

日本のアマルフィと謳われる雑賀崎の漁村

2021.02.27

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したもの」をご紹介するコーナー。今回は、近畿ナビゲーターの前田 有佳利さんご自身の「100年先に残したいもの」をご紹介します。その土地の魅力をより詳しくお伝えするために、雑賀崎の漁師である池田 佳祐さんと妻の美紀さんにも取材にご協力いただきました。

イタリアの世界遺産を彷彿とさせる景勝地

瀬戸内海国立公園の指定特別地域の一つである、和歌山県和歌山市の漁村・雑賀崎(さいかざき)。紀伊水道が一望でき、日本遺産「絶景の宝庫 和歌の浦」を構成する景勝地でもあります。

海沿いの山の斜面に家々が密集している景色をイタリアの世界遺産「アマルフィ海岸」になぞらえ、最近では「日本のアマルフィ」と呼ばれています。

そんな雑賀崎をご紹介させていただくのは、ふるさとLOVERS 近畿ナビゲーターの私・前田です。和歌山市に生まれ育ち、京都・大阪・東京を経て、7年前にUターン移住しました。当時は一時的な帰省のつもりでしたが、和歌山のおもしろさに魅了され、すっかり根が生えてしまいました。

和歌山を本拠地として全国200軒以上のゲストハウスを旅する編集者として活動する私が、「100年先に残したいもの」としてご紹介したいエリアの1つが、この雑賀崎です。

その土地のことはその土地で暮らす人に聞くのが一番! というわけで、より詳しく雑賀崎のことをお伝えするために、雑賀崎に住む素敵なご夫婦のもとにも訪れ、お話を聞かせていただきました。

雑賀崎で代々漁師を営む家系に生まれ、東京や大阪で働いたのち、Uターン移住して漁師になった池田佳祐さんと、その妻の美紀さんです。2021年4月には、雑賀崎を味わう宿「Fisherman’s Table & Stay 新七屋(しんちや)」をオープンされる予定なので、その宿についてもご紹介します。

江戸時代から受け継がれる漁業の歴史

異国情緒あふれる町並みが注目されがちな雑賀崎。私も県外から友人が訪れてきた際はアッと驚かせたくて雑賀崎に連れて行くことが多いのですが、この景色が人々を惹きつける理由、ひいては「100年先に残したいもの」として今回ご紹介したい理由は、この景色が生まれた背景にあります。

なんといっても雑賀崎の魅力は、数百年前から続く漁師町の暮らしが今も息づいていることです。江戸時代から昭和初期にかけて、雑賀崎の漁師たちは、日本各地をめぐる一本釣りの旅漁師として名を馳せていました。以下の写真に写っているような当時の旅漁師たちは「海のジプシー」と呼ばれ、東は千葉県から、西は長崎県の五島列島まで、約1カ月も船旅に出ていたそうです。

時代の変化とともに小型の底曳網(そこびきあみ)漁業が主流となり、少子高齢化から跡継ぎは減りつつありますが、現在も雑賀崎の経済の中心として漁業の歴史は脈々と受け継がれています。

旧正月のお祝いと約10年前にはじまった直接販売

チームワークが命となる旅漁師の文化が基盤にあるためか、雑賀崎の人たちは他の漁村より一段と助け合いや平等を大切にする気質が強いといわれています。

「例えば、怪我や家族の不幸ごとで誰かが漁に出られなくなったら、1人だけ損をしないようにと、その日は全員で漁を休みます。また天候が悪くなりやすく漁に出にくい旧正月の時期は漁を休み、皆で祝う風習があります」と佳祐さん。大漁旗がはためく上の写真は、佳祐さんの祖父の家で見つかった昔の旧正月の賑わいを写したものだそうです。

一般的な漁村と異なる特徴として、さらに特筆したいのは、約10年前にはじまった鮮魚の直接販売(通称・直売)です。10月スポーツの日〜5月中旬は15時から、そのほかは20時半から、漁師たちが獲れたての魚介類を各自自由に値付けして露店で販売しています。通年で開催されていますが、火曜・土曜・祝前日が休みなので、訪れる際は曜日にご注意を。

雑賀崎の暮らしを垣間見る、細い路地

漁業の文化はもちろんのこと、町歩きも楽しい雑賀崎。山の斜面に密集して建ち並ぶ家々の間をすり抜ける迷路のように、細い路地が張りめぐらされています。

江戸時代の天保年間に造られたとされる古い井戸や、屋外に造られた魚の洗い場など、路地を歩きながら周囲を注意深く見ていると、雑賀崎の暮らしやその変遷を垣間見ることができます。

雑賀崎には青石と呼ばれる紀州特産の青みを帯びた結晶片岩が豊富にあることから、家の石垣や庭先などに青石がふんだんに使用されています。この日は晴天だったので、青石の上で猫が気持ちよさそうに日向ぼっこをしていました。雑賀崎の町歩きでは、気ままにくつろぐ猫たちとよく遭遇します。

美紀さんは、雑賀崎の人たちの人柄について「初対面ではシャイな印象の人が多いですが、一度仲良くなるとみんな優しくて。個性的で素敵な人ばかりです。家と家の距離が近い分、人と人の関係性も濃くて、魚や野菜の物々交換が今も頻繁に行われているんですよ」と教えてくれました。

海と空を赤く染める夕陽が絶景の雑賀崎灯台

細い路地をのぼった先に待っているのが、雑賀崎灯台です。無人の小さな灯台で、眼下には江戸時代に紀州藩の見張り番所が置かれたとされる「番所(ばんどころ)庭園」があり、眼前には紀伊水道が広がり、天候により淡路島や四国まで一望することができます。

市内でも有数の夕日展望の名所として知られ、特に秋と春の彼岸の中日の夕陽は、まるで花が降るように光輝いて美しいことから、その現象を「ハナフリ」と呼んだ言い伝えも一部に残っています。

海鮮料理と磯遊び。雑賀崎の魅力を体感する宿

こういった雑賀崎の魅力をもっと多くの人に知ってほしいと、池田夫妻がまもなくオープンする宿が「Fisherman’s Table & Stay 新七屋」です。

歩いて約65歩の距離にある2軒の古民家を改装し、レセプション・ダイニング・ラウンジの機能を持った「母屋」と、1日1組限定の宿泊施設「離れ」として運営されます。宿泊者は近海で獲れた新鮮な魚介類(アシアカエビなど)を用いた料理を注文することができ、オプションで磯遊びツアーや海辺のピクニック、漁船クルージングなどを楽しむこともできるそうです。

将来的には食堂も開き、飲食店で働いた経験を持つ美紀さんが中心となって料理を提供するつもりだといいます。「雑賀崎には独居で孤食のご高齢の方が増えているので、地域の人たちも訪れることができる場所をつくりたいと思っています」と美紀さん。

佳祐さんは「100年後も雑賀崎の漁師が獲ったおいしい魚を多くの人たちにお届けしたい。そのためにも、少子高齢化によって減少しつつある文化を『なんとか維持しよう』ではなく『もっと地域の担い手を増やして一緒に元気にしよう』という気持ちで活動したいと思っています。その入り口として、ぜひ宿をきっかけに雑賀崎の魅力を体験していただきたいですね」と語ってくださいました。

数百年前から続く漁業の歴史が色濃く残り、先人たちの築いた文化と自然との共存を大切にしながら、さらなる進化に挑み続けているからこそ、人々を惹きつける雑賀崎。宿の完成はもちろん、より一層濃い歴史が積み重ねられるであろうこの土地の100年先の姿が楽しみでなりません。

施設情報はこちら

施設名
Fisherman’s Table & Stay 新七屋

住所
和歌山県和歌山市雑賀崎1546

電話番号
未定

営業時間
未定

休業日
未定

※新型コロナウイルスの感染防止のため、オープン後まもなくの期間は、和歌山県民や近隣県に住む友人・知人など、宿泊の受け入れを制限させていただく可能性がございます。

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

前田 有佳利

近畿支部 ゲストハウスを旅する編集者
前田 有佳利

全国200軒以上のゲストハウスを旅する編集者。WEB「ゲストハウス情報マガジンFootPrints」代表。書籍『ゲストハウスガイド100 -Japan Hostel & Guesthouse Guide-』著者。和歌山市在住。理想の商店街をつくる2日間のマーケットイベント「Arcade」や「和歌山移住計画」のメンバー。