長崎県雲仙市
テレビ塔の想いを、アートで語り継ぐホテル
2023.05.10
愛知県名古屋市 × THE TOWER HOTEL NAGOYA
日本には旅の目的地になるホテルや、ふるさとに帰ったような気持ちになれる旅館があります。この記事では、人々の記憶に残る「とっておきの宿」をふるさとLOVERSナビゲーターが訪問し、その魅力をたっぷりとご紹介します。今回訪れたのは、愛知県名古屋市のシンボル・テレビ塔内に誕生したアートホテル「THE TOWER HOTEL NAGOYA」です。
テレビ塔を、数々のアーティストが表現
国の重要文化財となった名古屋のシンボル・テレビ塔。しかし、なぜ存在しているのか、何を伝えようとしているのか、そこまで知る人は多くありません。実は名古屋に住む私もその一人。だからこそ「THE TOWER HOTEL NAGOYA」での宿泊は、独創的なアートを通じて、名古屋そして東海地区の魅力を発見する、贅沢な機会になりました。
世界からも認められたアートホテル
「THE TOWER HOTEL NAGOYA」の全15室ある客室は、東海地区にゆかりのあるアーティストがそれぞれにプロデュース。テキスタイル、絵画、造形、映像、グラフィックなど、さまざまな表現手法で、自身の感性と遊び心を、部屋の隅々までを使って表現しています。独創的な感性が融合して誕生したこのホテルは、世界80カ国以上、520軒を超えるホテルが加盟するSLH(スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド)が選んだ10 MUST-VISIT BOUTIQUE HOTELS FOR ART LOVERSにも、日本国内で唯一選ばれています。
フロントで、昔の名古屋にタイムスリップ
テレビ塔の脇にあるエントランスからエレベーターでフロントへ。そこでまず、昔の名古屋を表現したアートがお出迎え。カウンターの後ろにある、存在感あふれるタイル画です。今は存在しない中日ビルと、屋上にあった移動式レストラン、そして名古屋の中心部である久屋大通で待ち合わせや休憩の場所になっていた噴水…。使われてるタイルは、東海地区のとある工場の片隅に置かれていたものだとか。このタイル画を見た人は「昔の名古屋はこうだったのかあ」と発見を楽しんだり、「そうそう、昔の名古屋はこうだった」と懐かしんだり…。ちなみに私は後者でした。
部屋に到着するまでに知った、テレビ塔の誕生秘話
宿泊する部屋まで案内してくださったのは、豊田涼子さん。THE TOWER HOTEL NAGOYAの構想から設計、建築、オープン、そして現在の運営まで、一貫して携わっている方です。ここでは、お伺いしたホテルの誕生秘話を少し…。
もともとテレビ塔は、第二次世界大戦後に「名古屋復興のシンボルをつくろう」と、名古屋市と民間企業が立ち上がり、つくったものだそうです。敗戦後、日本が辛いときに地域を鼓舞するために誕生したテレビ塔。「その後、アナログ放送からデジタル放送に代わり、電波塔としての役割を終えて経営が苦しくなり、テレビ塔の解体の話しが出ていたところ、名古屋の歴史文化アートの魅力を世界に発信するホテルにリノベーションしないかと弊社代表が提案しました」。そして時代を変え、コロナ禍の真っ只中にオープンしたのが、THE TOWER HOTEL NAGOYA。「どちらも社会が大変なときに誕生した、という点で、共通するものがあります。だからこそ、テレビ塔の存在価値や歴史を一人でも多くの方に知ってもらえると嬉しいんです」と話してくださいました。
アーティストが手掛ける、サプライズの部屋
今回、宿泊する部屋は、「L04」。愛知県生まれのアーティスト・鷲尾友公(わしお ともゆき)さんがプロデュースした部屋です。まず目を引いたのは、壁一面をキャンパスに見立てて描かれたシンボリックな絵画。女性の身体を山に見立てて描かれており、あたたかくて、ノスタルジックで、印象的。しかもこの絵、夜になると全く違う一面を見せてくれるのです。
「どんなことが起きるのだろう…」とワクワクしながら夜を迎えたとき、壁一面に広がったのは、全く違う光景でした。そのサプライズに、ただただ驚くばかり。ここですべてを伝えるのでは、ネタバレになってしまうのでヒントをひとつ。豊田さんから「L04は、カップルにすごく人気のお部屋なんです」と紹介していただいたのですが、なるほど、納得でした。
鉄骨に込められたメッセージ
L04の室内で印象的なのが、もうひとつあります。部屋の真ん中にある、下から上に貫くかたちで存在する黒くて大きな鉄骨です。実はこれ、今もテレビ塔を支えている“生きた鉄骨”。最初は「なぜ?」と思ったのですが、豊田さんの話を伺うと、その存在に、大きなメッセージがあることに気づかされました。
テレビ塔を建設するにあたり、当時の人たちは、命綱なしで高い場所に上がり、一つひとつのリベット(ふたつの金属に開く穴を重ね合わせたところに打ち込み、つなぎ合わせる工具)を打ち込み続けたそうです。数100度にもなる高温のリベットを、地上から上に投げて、それをキャッチして力強く叩き打ち込んでいく。一見、命を賭けた無謀な行動に見えるのですが、当時の人たちはそこまでしてでも復興の想いを表現したかった。…そんな話を伺い改めて鉄骨を見ると、一つひとつのリベットに込められた想いがひしひしと伝わってきました。
アートを知らないからこそできた、奇跡のアートホテル
「ちょっと名古屋を散策しようかな…」と思い、フロントへ。ロビーに到着すると、さまざまなアート作品が改めて目に入ってきました。このひとつのスペースに、4名のアーティストが手掛けた作品が混在しているそう。ここまで大胆な展示方法に、思わず驚きました。
美術館などでアート作品を展示するときは、白い壁でスクエアな空間に、その人だけの作品が置かれています。本人の感性やメッセージを最大限に引き出すのが目的ですが、THE TOWER HOTEL NAGOYAは、そんな常識をいとも簡単に打ち破り、しかもアートとして見事に昇華させています。改めて豊田さんに伺ったところ「いい意味で素人の私たちだからこそ、できた奇跡かもしれません」。
お客さまが命名した“記憶に残る朝食”
一晩、アーティストのアートを独占する贅沢を堪能しつつ、朝を迎えました。ちょっとくつろいで向かったのは、レストラン会場。実は、THE TOWER HOTEL NAGOYAは、朝食がすごく有名。とある宿泊客が思わず感動してインターネットに書き込んだことがきっかけに、“記憶に残る朝食”と呼ばれるようになったのです。
レストラン会場に入ると、オープンキッチンで、コックの方々が腕を振るう姿を間近で堪能できます。そして、目の前に並んだ朝食は…まさにその名の通り“記憶に残る朝食”でした。食器は、東海地区にゆかりのある陶芸家の作品を使用。ここにもアートホテルとしてのこだわりが凝縮されています。食材も、新鮮でおいしいことはもちろん、SDGsの観点に基づき、地場の農家から直接仕入れるなどして、輸送に伴う環境負荷の軽減までにも配慮。見ておもしろく、食べておいしく、社会にもやさしい。朝から、自分の人生に新しくてやさしい驚きを加えることができました。
チェックアウトするときには、「また泊まりたい!」という気持ちが強くなっていました。これもTHE TOWER HOTEL NAGOYAの魅力なのですが、全15室ともに、今の空間がアーティスト次第でどんどん変わっていく、とのことです。次、L04に宿泊したとき、どんな部屋になっているのだろう。想像するだけで、次の宿泊が楽しみで仕方ありません。
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施設名
THE TOWER HOTEL NAGOYA
住所
〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦3-6-15先
電話番号
052-953-4450
※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。
地域ナビゲーター
中部地方 ライター
小林 宏輔
さまざまな広告の企画・制作に携わっています。動物が好きで、なかでも海の生き物が大好き。出張では、その地にある水族館や海洋博物館に行くことをひそかな楽しみにしています。仕事場でも、趣味を兼ねて、世界各国の海水・淡水フグやヘビを飼っています。