山梨県富士河口湖町
奥州ならではの風景「水田の中の散居集落」
2021.11.12
この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。
今回スポットをご紹介頂いたのは、奥州市で明治時代から店を営んでいる「米屋ふくち」の福地至さんです。
自然あふれる奥州市は県内屈指の米どころ
岩手県内でも有数の米どころとして知られる奥州市。ここで作られた「ひとめぼれ」は、米の「全国食味ランキング」で最高位の「特A」を過去20回以上も取得するほど、品質の高さに定評があります。また岩手県が「日本一美味しいお米を作ろう」と開発した岩手オリジナル品種「金色の風」は、豊かな粘りと噛むほどに極上の甘みが増す最高級米。これも奥州市を中心とする地域で生産されています。
水田の中に佇む散居集落の風景を残したい
奥州市で明治時代から店を営んでいる「米屋ふくち」では、「金色の風」はもちろん、「ひとめぼれ」や「ササニシキ」など、地域で収穫された良質な米を扱っています。店主の福地至(ふくち・いたる)さんは「少しでも新鮮なお米を食べてほしい」と、注文を受けてから精米するスタイルを貫いています。
そんな福地さんに奥州市の100年先に残したいものを伺うと「一面に広がる水田と、その中にポツンポツンと家が建つ散居集落の風景。この地域ならではのものなので、ずっと先の時代まで残すことができたら嬉しいです」と教えてくれました。
懐かしい風景が広がる日本三大散居集落
奥州市の胆沢平野に広がる散居集落は、その歴史と規模の大きさから富山県の砺波平野(となみへいや)や島根県の出雲平野とともに「日本三大散居集落」と呼ばれています。いずれも数百年という長い歴史を持ち、伝統的な文化や風習を生み出してきた日本の原風景です。中でも胆沢平野には国内最大級の面積を誇る胆沢扇状地があり、その特徴を生かした農業が古くから盛んに行われていました。
自然の力が生み出した豊かな水が湧く場所
扇状地とは川によって運ばれた土や砂が扇状に堆積した地形のことで、大小さまざまな小石を含み、水を通しやすいという特徴があります。そのため通常は水田よりも畑や果樹園として利用されることが多いのですが、胆沢扇状地は小石の層が浅く、いたる所から湧き水や井戸水を得ることができました。
その自然の恵みは古来から続くもので、胆沢平野で発見された弥生時代の遺跡からは、水田跡や稲の穂だけを摘み取るための石でできた包丁などが発見されています。
先人が苦労を重ねて作り上げた豊かな水田
また、米が経済の中心となった江戸時代に入ると、全国各地で新田開発ブームが到来します。胆沢平野も例外ではなく、米の生産力を上げるためにさらなる水を確保しようと、いたる所に川の水を引くための堰が作られました。現在のように重機があるわけもなく、岩を掘る作業は全て人の手によるもの。こうした先人たちの苦労は長い時間をかけて実を結び、豊かな水田の風景へとつながっていきました。そして水田の所々に家が建つ散居集落ができあがっていったのです。
ベテランガイドが語る散居集落の風景
今回、散居集落について教えていただいたのは、「いさわ散居ガイドの会」で会長を務めている鈴木公男(すずき・きみお)さんです。鈴木さんはガイドの会が発足した18年前から会長として活躍する大ベテランで、取材当日も実際に地域を案内していただきながらお話しを聞くことができました。
心地よい暮らしのために施された工夫
散居集落には各家にエグネ(居久根)と呼ばれる防風林と、キヅマ(木妻)という薪を組み合わせた塀のようなものが設置されています。エグネは家の北西に杉や栗、桐の木などを植えたもので、奥州市の西に位置する焼石岳(やけいしだけ)から吹き下ろす強風や雪を防ぐ役割を担っています。かつては成長の早い杉の木を50年ほど成長した時点で切り倒し、家の補修や建て替え用の柱として活用。伐採後は新しい木を植えて、次の世代のために備えたそうです。
今となっては懐かしいかつての日常風景
またキヅマは、エグネの下枝が欠けた部分を補う役目を果たすとともに、隣家との境界も示していました。よく乾燥した薪は燃料としても使用され、キヅマは薪の置き場所も兼ねていたようです。地元で生まれ育った鈴木さんは、「昔の家は今ほど高性能ではありませんし、隙間風もありました。そのためエグネやキヅマを作ることで、暮らしやすい環境を整えていたのです」と語ります。風の強い日は杉の葉が大量に散らばるのが常で、翌日になると近所の人たちみんなで「ああ、やんた(嫌だ)」と言いながら片付けるのが当たり前の風景でした。
自然と共存してきた先人たちの偉大な知恵
しかしここ数年、「管理が難しい」という理由から、エグネやキヅマを撤去する家が増えてきました。ただ撤去後に「急に風当たりが強くなって家の中が寒くなった」「いつもより夏の暑さがこたえる」といった声も上がっています。エグネやキヅマは風や雪を防ぐだけでなく、夏は木陰を作って周辺の温度を下げる役割も果たしていたのです。私はこのことを知り、昔の人の知恵はすごいと心底、驚いていまいました。
ベテランガイドが案内する散居集落の歴史
「いさわ散居ガイドの会」では、農村文化をめぐる「散居堪能コース」や、地域の主要な史跡や名所をめぐる「いさわまるごとコース」など、さまざまなツアーを用意しています。それ以外に要望に合わせたオリジナルコースをめぐることも可能で、胆沢地域の歴史や文化について、ベテランガイドが余すことなく丁寧に案内してくれます。
胆沢の町を知り尽くした鈴木さんイチオシの絶景スポットは、JR水沢駅から車で10分ほどの場所にある見分森公園の展望台。「胆沢平野に広がる散居集落を一望できます」という鈴木さんの言葉通り、展望台の階段を上りきった先には青々と茂った水田と、散居集落ならではの家々が広がっていました。
100年先の未来にも日本の原風景を伝えたい
鈴木さんは「時代の流れとともに生活スタイルが変わっていくのは仕方のないこと。それでもやはり、この風景は日本人の心のふるさととして失ってはならないものだと思います。私たちの活動で少しでも多くの人に散居集落の魅力を知っていただき、未来へとつなげていきたいです」と語ります。
私自身、今までじっくりと散居集落を見たことがありませんでしたが、“初めてなのにどこか懐かしい”という不思議な感覚を味わいました。そんな日本人の心の琴線に触れるような原風景が、100年先にも変わらずここにあること。それはとても豊かで、幸せな未来のように感じられました。
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施設名
見分森公園
住所
岩手県奥州市水沢字見分森55
電話番号(問い合わせ先)
0197-23-4779(見分森公園管理棟)
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施設名
胆沢まるごと案内所
住所
岩手県奥州市胆沢若柳字上土橋139
電話番号(お問い合わせ先・ガイド申し込み)
0197-46-0360
営業時間
9:00~16:30
休業日
水曜 年末 1月2月冬季休業
「いさわ散居ガイドの会」ガイド料金
午前・午後いずれか半日:2,000円/一日:4,000円
※開催希望日の一週間前までに予約申し込み
※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。
地域ナビゲーター
東北支部 ふるさとLOVERSナビゲーター
山口 由
2011年、東日本大震災をきっかけに横浜から盛岡へUターン。現在はフリーライターとして、お店や人材の紹介、学校案内、会社案内、町の広報誌など幅広く活動中。取材を通して出会うさまざまな人の思いや歴史を知り、「岩手ってすごいなぁ」と実感する日々を送っています。趣味は散歩と読書、長距離ドライブなど。