愛知県名古屋市『THE TOWER HOTEL NAGOYA』
暮らすように過ごす、尾道の旧邸宅の宿
2022.01.06
広島県尾道市 × せとうち 湊のやど
日本には旅の目的地になるホテルや、ふるさとに帰ったような気持ちになれる旅館があります。この記事では、人々の記憶に残る「とっておきの宿」をふるさとLOVERSナビゲーターが訪問し、その魅力をたっぷりとご紹介します。今回訪れたのは、まちに暮らすように過ごせ、土地の魅力を余すところなく体感できる広島県尾道市の宿「せとうち 湊のやど」です。
尾道水道を中心に港町や商都として繁栄、雅な面影を今に残す
尾道のまちと対岸の向島(むかいしま)に挟まれ、「海の川」といわれる尾道水道。かつて、水上の重要交通路として多くの商人に重宝されたため、尾道は港町や商都として栄えてきました。繫栄に伴い、まちには多くの寺社が建立され、財を得た豪商たちの邸宅が建ち並び、雅やかな箱庭的都市を作り出したのです。その面影はいたるところに今も息づいており、古寺へと続く石段坂やひっそりとした路地裏など、ノスタルジックな佇まいが多くの文化人に愛されています。
まちのシンボルともいうべき千光寺へと続く石段坂の途中にあるのが、尾道に古くから残る邸宅を改装した「せとうち 湊のやど」。「尾道の人の心に残る建物を次世代へつないでいきたい」と、2012年に開業しました。
坂の上の豪商邸宅をリノベーションした一棟貸しの宿
「せとうち 湊のやど」は、かつて出雲国松江藩の役人が常駐する出張所だった建物を改装した「出雲屋敷」と、豪商・島居(しまずい)氏に由来する邸宅をリノベーションした「島居邸洋館」の2棟からなり、どちらも一棟貸しの宿として人気を博しています。今回訪れたのは、レトロモダンな雰囲気が漂う「島居邸洋館」。改装を手がけたのは、広島県竹原市出身の建築家・桐谷昌寛さん。桐谷さんはもとの雰囲気をできる限り残しつつ、上質で洗練された空間にアップデート。牡蠣殻粉末を使った瀬戸漆喰というこの地方ならではの建築素材を取り入れ、内装には備後絣や備後畳表といった伝統工芸も用いています。
憧れの建物を宿として利用できる喜び
宿まで案内してくれたのは、支配人の小林紀子(こばやし のりこ)さん。敷地内にある姉妹宿「LOG」でチェックインを済ませて、和風庭園を抜け島居邸洋館に向かいます。
「以前から変わらずこの場所にある島居邸洋館は、地域の人たちにとって“坂の上にある大きなおうち”というイメージで印象に残っているようです。最近、この近くの幼稚園に通われていた方たちが年齢を重ねて還暦を迎え、島居邸洋館で同窓会をしてくださったんです。『あの頃、幼稚園に通う時、憧れの気持ちで見てたおうちに泊まれるなんてね』と、とても喜んでくださいました」。
島居氏のセンスが随所に散りばめられた内装も見どころ
島居氏は粋な人だったようで、玄関には、丸太の断面がアクセントとして用いられ、そのセンスに驚かされます。「バルコニーのアーチ型支柱や異国情緒のある円窓、大理石をふんだんに使った玄関まわりなど、当時のままです。艶のある立派な梁も残っており、貴重な建築様式を見たいと、設計事務所の方がチームで泊まりに来られたこともありますよ」と、小林さん。
体験プランと上質なしつらいで、宿での時間をグレードアップ
施設内の使い方を一通り案内してもらったら、あとは宿泊者の自由時間。1棟貸切なので、誰に気兼ねすることもなく自由に過ごせます。少人数での宿泊の場合は半棟貸しもOK。まずは事前に申し込んでいた体験セットで、煎茶を煎れることにしました。用意してくれていた煎茶は、せとうち 湊のやどと尾道市の老舗茶舗・今川玉香園がコラボしたお茶「湊舟」。豊かな香りに、ほっと心が癒やされます。体験プランはほかにもあり、写経セットや絵画セットを事前申し込みの上、有料で貸していただけます。
一服したら、お風呂で旅の疲れを癒やしましょう。施設内には2つの浴室があり、どちらも自由に使えます。(半棟貸しの場合は「望」の浴室のみ)私はガラス越しの植栽が美しい檜風呂をチョイス。昼間から静かに湯に浸れる、これだけで十分贅沢な時間です。知らない人と湯を共有しなくていいのは、一棟貸しの醍醐味。思い切り四肢を伸ばして、心ゆくまで寛げます。湯上がりはフカフカの今治タオルや麻混のルームウェアが用意してあり、火照った身体を冷ましながら気持ちよく過ごせます。
土地の恵みを取り入れた食事を、選べるスタイルで
食事はLOGのダイニングでいただけるほか、こちらの食事をお部屋にデリバリーしてもらうことも可能です。数々のメディアで活躍している料理家の細川亜衣さんが監修したご飯は、土地の恵みがたっぷり!ディナーは鍋料理を中心に地元の魚介や野菜を使った前菜も並びます。この日の鍋は、野菜たっぷりの鶏鍋。見るからに身体に良さそうな鍋はポカポカと身体を温め、思わずお酒も進みます。愛媛や岡山など近郊ワイナリーのワインも揃うので、一緒にオーダーしておくといいですよ。お腹一杯になってフワフワと酔いがまわったら、あとはベッドでぐっすり眠るだけ。
気持ち良い朝を迎えたら、テラスで朝食を摂るのも良さそうです。モーニングももちろんLOGからデリバリーできますし、施設内にはキッチンが設えてあるので自分で作ることもできます。歩いて10分ほどの商店街まで散歩して、地元の新鮮食材を見繕いブランチにするのもいいですね。チェックアウトは11時と比較的遅めに設定されているので、ゆっくりと午前を過ごせます。
数日滞在で瀬戸内の暮らしを体感、記憶に刻まれる旅を
尾道の中心部に位置し、観光にも最適な「せとうち 湊のやど」は、できるなら数日連泊したいところ。寺社や美術館を巡ったり、商店街で食べ歩きを楽しんだり、海沿いのカフェで寛いだりと、楽しみ方は数え切れません。小林さんのおすすめは商店街近くに位置する「シネマ尾道」。「市内唯一のミニシアターで、作品選びがとっても素敵です。尾道は数々の映画のロケ地にもなっている地域なので、そんな“映画のまち”に思いを馳せながら鑑賞するのもいいですね」。
坂を往来し、道行く人々と言葉を交わし、潮の香りを感じながら瀬戸内の日々に浸ってみる。そんな“暮らすように泊まる”体験が、「せとうち 湊のやど」でなら、きっとできるはずです。
施設情報はこちら
せとうち 湊のやど
広島県尾道市東土11-12
0848-24-6669(LOGレセプションデスク)
地域ナビゲーター
中国支部 広島県ライター
浅井 ゆかり
タウン誌をメインに、ジャンル問わず取材執筆(時々撮影)を手がけるフリーライターです。広島に嫁いで十数年になりますが、広島生まれ広島育ちの夫よりこのまちに詳しい自信あり! 取材に応じてくれる人、記事を手にしてくれる人へ、ちょっとした幸せや新鮮な驚きを届けられるようなプラスの言葉を紡いでいきたいです。