愛知県名古屋市『THE TOWER HOTEL NAGOYA』
由布院の風景をまとう、森の離れの山荘へ
2022.06.01
大分県由布市 × 山荘わらび野
日本には旅の目的地になるホテルや、ふるさとに帰ったような気持ちになる旅館があります。この記事では、人々の記憶に残る「とっておきの宿」をふるさとLOVERSナビゲーターが訪問し、その魅力をたっぷりとご紹介します。今回訪れたのは、「湯布院の風景を纏(まと)う」をコンセプトとする離れ宿、大分県由布市の「山荘わらび野」です。
憧れの由布院に身をあずけて
「いつか行ってみたいんだよね」と、県外の友人たちがたびたび口にする「由布院(ゆふいん)」。由布院のある大分県由布市は、穏やかな里山風景が広がる温泉地として知られています。特に由布院温泉は、源泉数、湧出量ともに全国2位を誇り、また美しい自然を兼ね備えた土地であることから市全体が国民保養温泉地に指定。大分県の自慢の場所でもある由布院の数々の温泉宿の中から選んだのは、“森の山荘”です。
東九州自動車道の最寄りの湯布院ICに近づくと、出迎えてくれるのは「由布岳」と、その麓に広がる由布院盆地。ICから5分ほど車を走らせると今日の目的地、背の高い雑木林に囲まれた「山荘わらび野」の屋号が見えてきました。
和風旅館からスタイリッシュな離れの宿へ
山荘わらび野は1988年に創業。風情ある和風旅館として親しまれてきましたが、2016年の熊本地震で被害を受け、かつての建物を全て取り壊すことに。2019年に新たなスタイルで再出発しました。
フロントのあるレセプション棟の外観は以前和風旅館だったことがまるで想像できない、モダンな佇まいが印象的です。扉の奥はシックな色合いのスペースで、窓からは森の中に点在する離れが見えます。約3500坪の広大な敷地には、独立した7つの宿泊棟に13の客室。洗練された雰囲気に、どんな部屋が待っているのだろうと好奇心が膨らむばかりです。
フロントから客室へと導くのは、廊下ではなく庭の小道。森の中に一定の間隔を保って並ぶ石造りの客室棟は一見無機質なビジュアルなのに、自然の中に溶け込んで見えるから不思議です。近づいて見ると、外壁には木目の模様。杉の木の特殊型枠によってその質感が施されています。「由布院の風景を纏(まと)う宿」というコンセプトに基づいた、まさに由布院の自然との調和を計算し尽くした演出に、心がグッとつかまれました。
一軒家で暮らすように過ごす、日常のような非日常
案内されたメゾネットスタイリッシュスイートへ。落ち着いたトーンの室内に、一面の窓からは庭が眺められ、内と外が一体化しているような開放的な空間が広がります。ベッドルームの隣には小さなキッチンが備え付けられていて、その奥には源泉かけ流しの半露天のような温泉が宿泊棟全室に付いているという贅沢さ。スタイリッシュな印象でありながら、なぜかホッとするアットホームな間取りに心が緩みます。
フロア全面には、大分県の日田市から取り寄せた「日田石」が敷かれ、居心地の良さは足元からも伝わってきます。しっとりとした感触で、はだしで歩くのが一番気持ちいい。冬は床暖房でエアコンも必要ないほどで、夏はひんやりと涼しく快適です。
テーブルにはウェルカムスイーツのカヌレが用意されていました。わらび野が営む、由布院で人気のカヌレ専門店「CARANDONEL(カランドネル)」のもの。ソファに腰かけ一口ほおばると、外側はカリっとほろ苦く、中はもっちりとした上品な味わいに気持ちもほぐれ、なんだか自宅でくつろぐような安心感に包まれました。
森の中の露天風呂にいやされて
光が差し込む階段の先に何があるのだろう、と2階へ上がってみると、そこにはなんと露天風呂が!今回の客室には1階と2階で趣の異なる温泉が独り占めできるのです。これぞ贅沢の極み。居てもたってもいられず露天風呂に入ることにしました。
泉質はアルカリ性単純温泉で、とろりとした質感が肌を潤してくれるいわゆる美肌の湯。由布岳を眺めながら心地よい風に当たり、ふーっと脱力すれば、疲れとか悩みとか、何もかもさっぱりと流してくれます。夜は降り注ぐような満天の星を眺められ、長湯してしまうのは間違いありませんね。あぁ、幸せ。
大分県産の旬の素材を和の創作料理で
夕食はクラシックが流れるレストラン棟で。大分県産の素材をふんだんに取り入れた、和をベースにした創作料理をコースでいただきます。A4等級以上の豊後牛「おおいた和牛」や、関アジ・関サバで知られる佐賀関(さがのせき)漁港直送の海鮮など、月ごとに旬の食材が取り入れられ、その時期で一番おいしい食べ方でもてなしてくれます。
うま味が口いっぱいに広がる、とろけるような豊後牛と、鮮度抜群の海の幸、シャキシャキの新鮮野菜など、大分県の味覚をフルにいただいて、食べるごとに言葉にならない感動が押し寄せてきます。このまま時間が止まってしまえばいいのに。
もう一つの「リビング」のように
翌朝、目覚めたら一番に温泉へ。最高にすがすがしい一日の始まりです。チェックアウトは正午なのでそれまでゆっくりと過ごすことにしました。朝日が差し込むレストラン棟で和定食の朝ご飯。ふっくらと炊き上げた自家製のお米と、おかずは一品一品丁寧に盛り付けられ、滋味あふれる優しい味が全身に染みわたります。
庭を散歩しながらフロント2階のカフェスペースへ立ち寄ってみました。大きなスピーカーからピアノのレコードが響きます。「リセットできましたか?」と、支配人の髙田淳平さんがコーヒーを入れてくれました。「非日常でありながら、でもゆっくりとくつろげる、お客さまにとってのもう一つの“リビング”のような存在でありたいんです」と語ってくれた髙田さんのその言葉が、わらび野で過ごした時間そのものだと、すべてが腑に落ちました。
十分すぎるほどの広い部屋で思いっきり手足を伸ばしてくつろぎ、好きなだけ温泉に浸かり、部屋から見える木々の揺れる音と鳥のさえずりに耳を傾ける静かなひととき。洗練された空間の中にも落ち着きを感じるのは、和風旅館の時代から継承されている心遣いが随所に溢れているからなのです。
「季節ごとに由布岳の色もこの雑木林の様子も変わりますから、また次も楽しみにいらしてくださいね」と見送られ、由布院の風をまとって、軽やかな心で岐路に着きました。新緑も紅葉もどの季節も捨てがたい、またわらび野での「時間」を堪能しに訪れたいと思います。
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施設名
山荘わらび野
住所
大分県由布市湯布院町川北952-1
電話番号
0977-85-2100
休業日
不定休
※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。
地域ナビゲーター
九州支部 ふるさと大分の魅力案内人
牧 亜希子
大分県大分市出身、在住。大分県各地の魅力をデザインや言葉、写真を介して伝えることを生業に長年携わってきました。プランナー・ライターとして自分がいいなと思った直感を信じて「大分ならでは」「大分だからこそ」を表現し、愛するふるさとを編集し続けていきたいです。