日本五大家具産地の一つ、木工業が発達したまち「旭川」
北海道のほぼ中央に位置する旭川市は、札幌に次ぐ「第2の都市」として、人口約33万人が暮らすまち。美しい自然と街のにぎわいがほどよく調和するこのまちで、名をとどろかせている産業の一つが「旭川家具」です。
旭川の木工の歴史は古く、明治時代までさかのぼります。当時から世界的に高評価を得るほどの良質な木材産地であること、材の保管に適する冷涼な気候や、腕の良い職人に恵まれたことなどが重なり、産地としてその名を馳せるようになりました。この地でのものづくりを志し、全国各地から多くの技術者や職人が集まる流れは、現在も途切れることはありません。
国内はもちろん、海外進出の先駆け企業として地域を牽引する「カンディハウス」も、そんな家具メーカーの一つ。紹介する「WING LUX(ウイング ラックス)」をはじめ、さまざまなロングセラー製品を生み出しています。
自然の美しさから生まれた上質な「WING LUX」シリーズ
「WING LUX」は、カンディハウスの代表シリーズ。デザイナーの佐戸川 清氏が、自然からインスピレーションを受けデザインしています。サイドチェアの肘掛け部分は鳥の翼、三角の脚は葉脈をモチーフに設計されており、「理想の低さ」と安楽性を求めて、試作とテストを繰り返して誕生した製品です。素材は世界三大銘木の北米産ウォルナット(くるみの木)を使用。落ち着いた深みのある色合いが、空間に重厚感を与えます。
家具業界のリーディングカンパニー「カンディハウス」
1968年、家具職人で創業者の長原 實(ながはら みのる)氏がドイツで研修を受けた後に、前身となる株式会社インテリアセンター(2005年にカンディハウスへ社名変更)を創業。大雪の山々に囲まれた旭川の本社に開発、業務、販売部門と直結した自社工場を構え、全国約280名のスタッフと共に上質で心地よい家具を生み出し続けています。
製品第一号は、リビングで使用する1人掛けのイージーチェア。海外で養った知見や技術を生かし、当時まだ「和室にちゃぶ台」が一般的だった日本の家庭へ新しい暮らし方を提案しました。常に時代を先取りしたものづくりを心がけ、国内・海外のデザイナーを積極的に起用するなど、新たなデザインを求めて日々挑戦を続けている企業です。
自然を敬い、素材を大切にしたものづくり
お話を聞いたのは、旭川ショップの柏木 知香(かしわぎ ちか)さん。学生時代から木工関係の職を志し、道内企業を探すなかで「素材を大切にしたものづくり」に魅力を感じ、カンディハウスへ入社しました。現在は、ショップへ訪れるお客さまへの家具の提案や販売を担当しています。
「当店のお客さまは、素材に関心のある方が多くいらっしゃいます。産地についての問い合わせも多く受け、地元の方含め『北海道産であること』を重要視する方も増えています」と柏木さん。カンディハウスで扱う木材は、ウォルナットに加え北海道産のナラやタモ材も増えています。環境に配慮し、森を育てる意味で間伐された地元の木材を積極的に採用するなど、未来に繋げる取り組みも行っています。
座り心地よく、実用的な「WING LUX LD サイドチェア
WING LUX LD サイドチェアの最大の特徴は「背もたれがふくよかで包まれる点」で、その柔らかさと滑らかな肌触りは、背当たりが気になる方でも安心して利用できるのがうれしいポイント。座面の幅も広めで、実際に腰掛けてみたところ、ゆったりと座ることができ、肘掛けの長さも絶妙です。腰や背中への負担が少なく、座り心地のよさを感じました。座はカバーリング式になっており、張地の交換が容易なのも魅力の一つ。季節やシーンに合わせて張地を変えることで、暮らしをより楽しく演出することができそうです。
限りある資源を有効活用した「接合技術」
自然の賜物である木材を大切にする心は、さまざまなものづくりの工程に表れています。無駄が出ないように木材を木取る工程はもちろん、サイドチェアでは、座枠の見えない結合部分に端材を使用。金具や接着剤を組み合わせることで、しっかりとした強度の高い製品に仕上げています。
旭川家具に多く見られる、指と指を交差させたような形状が由来の接合技術「フィンガージョイント」が肘掛け部分に使われています。ズレや隙間なくぴったりと接着させるには、熟練の技術が必要です。
先進機械と職人技の融合で生まれる「座り心地」
カンディハウスのものづくりの特長の一つは、先進機械を用いた加工技術。サイドチェアの背もたれ部分は、5軸制御で3Dに削りだすことができるCNC加工機を使い形作られています。速く正確に、安定した加工により、品質を左右する仕上げへ、時間や手間をかけることが可能になりました。
どんなに加工技術の機械化が進んでも、仕上げ工程で必要なのは人間の手と、眼の力。お客さまが触れる箇所を何度も触り、感触を確かめます。一つ一つを同じ品質に仕上げるには、熟練の技が必須。その結果として、柔らかな背当たりと滑らかな肌触りが実現されているのです。
メンテナンス性に配慮した「張地」
ウォルナット材の深みのある色味に合わせ、張地はカンディハウスが持つ布・革全100種類の中から「ダークブラウン色の本革」を採用しました。牛の皮をなめし処理したもので、傷やムラが目立たなくなるよう、その表面にすり加工を施し、均一に美しく仕上げられたレザーです。顔料仕上げにより、頑丈で耐久性がりメンテナンス性に優れているのも魅力。「長く愛し続けられるものづくりを」そんな想いが製造工程の一つ一つに散りばめられているように感じ、とても心温まる思いでした。
「“和の美意識”を伝えるものづくり」を目指して
自然を敬う日本の精神性を大切にものづくりを続けてきたカンディハウスは、2018年9月で50周年を迎えました。「北海道の美しい森のそばで、長く使えるよりよい家具をつくる」という原点に対する想いは、この先50年も変わることはないのでしょう。
自然と共に暮らし、日々製造や販売に携わる一人一人がお客さまのことを考えてつくり、伝えること。それらが最終的に「心地よい家具」として形になるのだと思います。「いつの日か、私自身の暮らす空間を想いの詰まった家具で彩りたい」。そんな気持ちが胸の奥底から湧いてくるような、尊いお話の数々でした。