北の職人が生み出す「心地」で暮らしにひとさじの温もりを
日本五大家具産地のひとつでもある旭川家具は、その名の通り旭川近郊で作られている家具のことです。シンプルで機能的なことで知られ、北欧家具にも通じるといわれています。
100社を超えるメーカーがそろう旭川家具ですが、なかでも長く暮らしに寄り添う生活道具を生み出すのが「cosine(コサイン)」です。紹介する「靴べら(L)&スタンドセット」をはじめ、さりげない存在感と使い心地の良さで暮らしに温もりを添えてくれる「コサイン」のモノづくりの現場を尋ねました。
家族の“だんらん”を支える家具メーカー「cosine」
今回お話しを聞いたのは、株式会社コサインの取締役を務める渡辺 淳(わたなべ じゅん)さんです。渡辺さんのお仕事は、営業活動や経営に関わることを中心に、その内容は多岐にわたります。
「コサインの製品をご利用いただいているのは、お子さまがいるご家庭が多いこともあり、角ばったものより優しい丸みのあるデザインの製品をご提供しています」との言葉通り、ショップ内を見渡すと、明るく柔らかい形の生活道具が並びます。特に目を引くメープル(カエデの木)材とウォルナット(くるみの木)材の製品は、コサインの代名詞。「材の色味で、当社製品と認識してもらうことも多いんですよ」と渡辺さんは笑顔で語ってくれました。
全てのはじまりは「スイッチカバー」
コサインの製品のはじまりは、大きな家具をつくる際にでてしまう端材を「どうにか活かせないか」という想いから。元は職人として大手家具メーカーに務めたのち、職業訓練校の指導員を経験した現社長の星幸一さんを含む4人のクラフトマンが、現在に続く会社を1988年4月に設立しました。今は、数々の家具メーカーや木製加工工場が立ち並ぶ旭川木工団地の中に工房と直営ショップを構え、コツコツと木のものづくりを続けています。
製品第一号は、工房に訪れた電気工さんの一声から生まれた「スイッチカバー」。以来、日々の暮らしを彩る文房具、時計、おもちゃなどの小物から、ソファ、テーブルなどの大物までを扱い、使い手に木の温もりあふれるライフスタイルを提案しています。これだけの幅広いラインナップを製造から販売まで手がけているのは、コサインならでは。その過程で培われた確かな技術は、ここ数年の「キッズデザイン賞」「経済産業省 グッドデザイン賞」受賞という形でも評価されています。
「活かしきる」創業時から受け継がれる、材料への感謝
会社設立当初から脈々と受け継がれているのは、「長い年月かけて育った木を無駄にすることなく、活かしたい」という信念。その想いは、週に一度行われる社内の朝礼で今でも繰り返し語り伝えられています。全社一丸となって「資源を最後まで使い切れているか」を常に問う姿勢から、コサインの「核」となる部分が大切にされている様子が感じられます。
実は、靴べらとセットになっている専用スタンドもそんな想いが形となった製品。こちらはいくつかの小さな材を接ぎ合わせた後に、丸みを帯びたフォルムとなる加工が施されています。材料選びと目合わせへの配慮も重要な工程です。
「この材から何かつくれないだろうか」という日々の問いの積み重ねからアイディアが生まれ、自然の恵みにも生活者の暮らしにも寄り添う製品が出来上がっているのだと思うと、感銘を受けずにはいられません。
エントランスに花を添えるウォルナットの「靴べら」
靴べらは、コサイン製品の主要材の一つでもあるウォルナットを使用。世界三大銘木のひとつに挙げられるこの材木は、深みのある茶色が特徴で、空間に高級感と重厚感を与えてくれます。つい時間を忘れて触っていたくなるような肌触り、かかとの当たる部分の滑らかなフォルムも魅力です。
長さは70cmあり屈まずに使用できるため、足腰に負担がかかりにくいのも使い手にとってはうれしいポイント。専用のスタンドと併せて配置すると、共に暮らす大切な家族はもちろん、来客の際のお出迎え・お見送り時間が、より楽しく温かさを感じるひとときとなってくれるはずです。
「コンマ1」の調節で生み出される美しいフォルム
スラッとした上品なフォルムを形づくるのに欠かせないのは、「倣旋盤(ならいせんばん)」。 与えられた物の形にならって刃や加工材を動かし、自動的にその形状の通りに切削する工作機械です。
形を決めるための加工は、「コンマ1」の世界。2方向から出ている刃の向きや角度を調節するには技術が要ることは言わずもがな、並々ならぬ集中力と研ぎ澄まされた感覚が求められます。靴べら、スタンド共に1つの木材から削り込む量が多く、最終的に形になった際の木目や材料の欠点の出方を予測して、材料を選ぶところから技術が問われます。その職人技の結果として、美しいフォルムを実現することが出来ているのです
暮らしに長く寄り添うことを考えた「触り心地」
製品の完成度を決定づける「仕上げ」は、コサインの真骨頂。製造工程の中で最も重要視しているといっても過言ではありません。サンドペーパーによって生み出されるエッジの緊張感・滑らかな肌触り・つなぎ目の美しさは、どれも機械化できないため、職人の腕と繊細な感性が大切に。表面の仕上がりにばらつきが出ないように、全体的に均一になるように配慮されています。
最終仕上げの塗装では、使い込むほどに味わい深さが増す「オイル仕上げ」を採用。製品全体の7割にこの仕上げが施されているのは、日々手で触れる生活道具をつくっているからこそ。植物由来の「オスモオイル」は環境にも優しく、木の質感を損なわずに本来の持ち味が活かせる点が魅力です。
時々、自分で手入れをしながら長く使うことで、木と共に成熟していくような感覚が味わえるのかもしれません。そんな風に木製品と向き合う時間は、日々の暮らしを一層豊かなものにしてくれそうですね。
「家族の温かい暮らし」を届けることを使命として
製品全体に通ずるテーマとして「家族」と掲げているコサインは、この春、創業から33年を迎えました。小さなものから大きなものへ、つくる製品が変化する中においても変わらない志。それは「家族が心地良いと感じる木の生活道具をつくり、お客さまへお届けする」ことです。
自然の恵みを余すことなく使い切るための工夫を凝らしながらも、「使い手に必要とされるものづくり」をする。飽くなき挑戦は、しなやかに形を変えながらもきっと続いていくのでしょう。「木を大切にすることと同時に、“私”という存在も大切にしていきたい」そんな気持ちがむくむくと湧くような、とても温かく尊い時間でした。