琉球ガラスの発展とともに歩む宮國次男
陶芸、染物、織物など、沖縄にはさまざまな伝統工芸品がありますが、その中でも最も歴史が新しい工芸品が「琉球ガラス」。戦後の物資不足の中で、コーラなどの廃瓶を原料にしたリサイクルのガラス製造が本格化し、お土産品として飛躍的に広まった歴史を持ちます。
そんな琉球ガラスの発展とともにキャリアを重ねてきたガラス作家宮國次男(みやぐにつぐお)さんのつくる作品が今回の返礼品です。沖縄の日本返還前からガラスづくりをスタートさせた宮國さんは、数多くの賞を受賞した今もなお精力的に創作を続け、情熱が止むことはありません。
「ガラスづくり体験」をいち早くスタート
恩納村の海を広々と見渡せるロケーションに、宮國さんが「恩納ガラス工房」を構えたのは1978年。当時はまだ個人の旅行者が少なく、団体客の立ち寄り先は首里城や万座毛などの有名な観光スポットが中心でした。
しかし宮國さんは、「近い将来は個人旅行者が増え、個人店でも人気が出るに違いない」という思いのもと、琉球ガラス作り体験ができる大きな工房を作りました。やがて宮國さんの思い描いた未来が現実に。個人が営む商店や施設にも人が集まるようになり、伝統工芸を体験できる場所は、観光目的の一つになりました。
宮國さんの奥様である弘子さんは旦那様を、「好奇心が旺盛でアイデアマン。一般的でなかったガラス体験を始めたこともそうだけど、やりたいと思ったことは、必ずやらないと気が済まない」と、評します。
時に家庭を顧みないほど、創作に没頭することもあったとか。「でも『辞めてほしい』と言ったことは一度もありません。とにかく琉球ガラスに一生懸命で、人生を捧げている。その姿勢を尊敬しています」。
バラエティに富んだ創作ジャンル
奥様に支えられながら創作活動に励み、50年以上もガラス一筋の道を突き進み続ける宮國さん。その圧倒的な創作意欲から生み出されたのが、多岐に渡るジャンルです。
食器類などの日用品だけでなく、アートとして飾れるものから、洗面ボウルやドア、衝立などの大型のインテリアまで実にバラエティ豊か。これほど多種多様なものを作る琉球ガラス作家は、沖縄でも稀有だと感じます。
自身の腕と感性を信じ、創作の道を突き進む
例えばこちらの作品、「沖縄らしいものをつくってほしい」というお客のリクエストから生まれたアートガラスの「ハイビスカス」は、そのオリジナル性から特許を取得。また、ガラスの洗面ボウルや衝立などは、多くの県内リゾートホテルで採用されるなど、高い評価を受けています。
なぜこれほど多くのジャンルを作れるのかを伺うと、「自分の感性に従い、作りたいもの、望まれるものを作ったら、たまたま食器やアートになっただけ」と、ご本人はあくまで自然体。しかしその言葉には揺るぎない意思が感じられます。
美しさと実用性を兼備したグラス
「感性は人それぞれ異なるものだから、私の作品を好きな人がいればそうでない人もいる。でもそれでよい。作家は、自分の信じるものを作り続ければいい」と、宮國さん。今回の返礼品「桜吹雪」も、宮國さんが己の腕と感性を信じ、作り上げた作品の一つです。
青空に舞う桜の花びらをイメージして付けられた繊細な層は、空に向かって吹き上げられる風を感じさせます。ちょうど手のひらで包めるほどの大きさでしっくり手になじみ、美しさと実用性を兼備。これこそ、宮國さんの溢れるアイデアやサービス精神のなせるわざなのでしょう。
琉球ガラスの発展に人生を捧げる
「代表作は特にない」と、宮國さんは言います。なぜなら、代表作を持つということは、満足できる作品を作れたことと等しく、アーティストとしての感性がそれ以上伸びることがない、と考えるから。
このような想いのもと、作り手として貪欲に新しい作品に取り組む一方、工房では多くのスタッフの育成にも注力しています。取材時にも、数名のスタッフへ的確に指示をする宮國さんの姿がありました。琉球ガラスという伝統を、発展させるために行動し続ける宮國さんに、琉球ガラス職人の第一人者としての矜持を見た気がしました。
探求心を忘れず、黙々と創作に向き合う
弘子さん曰く「夫は今でもレストランなどに行くと、料理よりも使われている器の方に興味を持つんです。常にどこでも、琉球ガラス作りの勉強をしているんですよ」。ベテランの域に達しても、探求心を忘れず、琉球ガラス一筋の宮國さん。その技の結晶をぜひ手に取り、儚げながらも凛とした佇まいと、絶妙な大きさを体感していただければと思います。
沖縄支部(沖縄県恩納村担当) / 仲濱 淳(なかはま じゅん)
生まれも育ちも埼玉県。東京でテレビ制作会社、出版・イベント会社へ勤務するかたわら、海ナシ県で育ったせいか海への憧れが以上に強く沖縄病に罹患。沖縄の観光系企業への転職を機に13年前に移住し、Webマガジン、情報誌の編集を経て、フリーランスに。うちなーんちゅの夫と娘とともに、海がかろうじて見える那覇に住んでいます。
県内屈指のリゾートエリアである恩納村は、多くの人が思い描く「南国・沖縄」そのもの。青い海、空が最大の魅力です。