農村景観が美しい丘の町・長沼町
札幌市の東、千歳市の北に位置する北海道長沼町。明治20年、一望未開の地に開拓の鍬が入れられました。町名はアイヌ語の「タンネ・ト(細長い・沼)」が由来。幾度もの水害や冷害を乗り越えて、現在は「農業と食の町」として発展しています。
町のどこからも見渡せる「馬追(まおい)丘陵」は、アイヌ語で「ハマナスの実があるところ」を意味する「マウ・オ・イ」に由来。全長約50kmに及ぶ丘は、農業や酪農が盛ん。今回お届けする馬追和牛もそこで育てられています。生産者である「長沼ファーム」の森崎睦博(もりさきむつひろ、写真右)さんと、馬追和牛を取り扱う「なりさわフードコンシェル」の成澤信一(なりさわしんいち、写真左)さんに、馬追和牛について伺いました。
上質な和牛を長沼から全国へ
馬追和牛は、長沼ファームのみで生産されるブランド和牛です。糖度が高く甘みが強く、焼くと、キャラメルのような香りが特徴的です。サシは多いですが、脂切れがよく重さを感じません。きめ細やかな肉繊維と上質でサッパリした脂をお楽しみいただけます。今回のお礼の品は、そんな馬追和牛のサーロインステーキです。
馬追丘陵で一貫して肥育する
長沼ファームは、1969(昭和44)年に森崎さんの父親が設立しました。現在は、馬追和牛のみを一貫肥育しています。一貫肥育とは、繁殖から肥育まで一貫して完結させる方法。「繁殖を続けるのは苦労の連続。まして和牛の一貫肥育は容易ではありません。それでも一貫肥育にこだわるのは、おいしさと、安心・安全のため」と森崎さんは言います。
最初は、交雑種の素牛(肥育牛や繁殖牛として飼養される前の生後6~12か月の子牛)を導入して肥育していましたが、子牛が長沼ファームにやってくるまで、どのように育てられていたのか分からないことが気になっていたそうです。「自分たちで出産から出荷まで関われば、安心・安全と胸を張って言えるのではないか」と考え、2017年から一貫肥育に転換。「ゆりかごから口元まで」をテーマにおいしく、安心・安全な和牛を育てることに力を注いでいます。
一頭一頭のストーリーを把握しつつ、味を追求
馬追和牛は、主に長沼町の丘の向こうに位置する「安平(あびら)分場」で育てています。生後3か月齢から6か月齢になると、丘を越えて長沼本場に移動。9か月齢までは育成期と同様に良質な牧草を食べ、それぞれの牛の成長度合いに合わせて、ビール粕発酵サイレージや、米ぬか発酵飼料などがブレンドされた飼料を与えられ、すくすくと育てられます。
肥育期間は、おいしい馬追和牛に仕上げるための重要な時期です。牛との関わりが深いベテランになると、表情や体つきで健康状態が分かるのだとか。経験で培った技術を後輩たちに教えるのも大事な業務です。
牛の成長度合いに合わせた育成の仕方で、28か月齢を目安に最適に仕上げて出荷されます。「名前を付けて牛をかわいがっているスタッフもいますよ」と森崎さん。そのため毎回涙のお別れになるそうです。畜産家として真摯に向き合う姿勢が、味に表れているのだと確信しました。
シンプルな味付けで肉本来のうま味を楽しむ
森崎さんが精魂込めて育て上げた馬追和牛は、食肉卸業者によって食卓に送られます。生産者の森崎さんが全面的に信頼を寄せている「なりさわフードコンシェル」の成澤さんに、馬追和牛の美味しい食べ方を伺いました。
馬追和牛は他の和牛に比べて脂切れが良いのが特徴です。脂身が多いA5ランクを食べても重たく感じず、後味はスッキリなので食欲が進みます。脂の融点が低めなので、焼き方は低温で長めに加熱してください。肉本来のうま味を活かすために味付けは塩を軽く振る程度から試すとよいでしょう。醤油の香りとも相性がいいですよ。
おいしいと思ってくれた方のマイブランドでありたい
「地元の方々に広く知っていただきたく、毎年町内の小学校から高校や、介護施設に寄付し、給食として召し上がっていただいています」と森崎さん。
また、ふるさと納税の返礼品としての反応もよく、長沼出身の方から「馬追丘陵を思い出す」「こんなにおいしい和牛があるなんて驚き」などの声が寄せられています。森崎さんは、「和牛を食べるなら馬追和牛と思っていただけるよう、選んでいただいた方々のマイブランドとして成長していきたい」と、決意を聞かせてくれました。
おいしさは人が牛に寄り添った証
一頭一頭のストーリーが見える牛肉を提供したい。それが長沼ファームのポリシーです。馬追和牛のおいしさは、人が牛に寄り添った証だと感じました。生産者が心をこめて育てた和牛をお召し上がりください。
北海道支部(北海道長沼町担当) / 吉田 匡和(よしだ まさかず)
札幌市出身、在住。社会福祉士の資格と経験を持つ異色の「おでかけ系ライター」。2016年にフリーライターに転向し、2017年に個人事業所「ブーレオルカ」を設立しました。「楽しさが伝わる」「すべての人に有益である」「記憶に残る」の3つを信条に執筆しています。
長沼町では、北海道産野菜のあらゆる種類が生産されています。酪農、養鶏も行われ、それらを材料としたスイーツや加工食品も多く、「大地の食べ物が大集合した町」と言っても過言ではありません。おいしいものを求めて訪れる回数が増えそうです。