黒潮の恵みを受け、漁業がさかんな名田町
紀伊半島の中部に位置する和歌山県御坊(ごぼう)市。日本一長い二級河川「日高川」が流れる町で、運行距離2.7kmの短いワンマン電車「紀州鉄道」や活気ある「御坊祭」が有名です。そんな御坊市の南に位置する名田町は、黒潮の恵みを受けた漁業がさかんで、町内に複数の漁港があります。
今回伺ったのは、魚介の卸売や小売を営む株式会社はし長。小高い丘の眼下には、波音を感じられるほど、近くに海が広がります。
100年続く老舗企業
はし長の創業はなんと、江戸時代末期の1865(慶応元)年。2008(平成20)年に「和歌山百年企業」として表彰されました。はし長の前身となる「山半商店」は当時、天秤を担いで近郷の人々の軒を回り、魚の行商をするスタイルだったそうです。
3代目の頃に伊勢海老問屋として関西・関東方面に販路を拡大。5代目となる現在も社長自らが競りに赴き、自慢の目利きで御坊近海の伊勢海老を仕入れています。
御坊近海で獲れた伊勢海老だけを使用
今回の返礼品は伊勢海老。はし長では御坊近海で獲れたものだけを扱うなど、徹底的に地元産にこだわっています。
この辺りで獲れる伊勢海老は比較的浅いところに生息するため、波の強さに負けないよう海底を踏ん張り足が太くなる=身の詰まりが良いそう。個体差はありますが、ものによっては足の身も食べられるほど太くて短いのが特徴です。
新鮮な伊勢海老を出荷できる秘密は大型蓄養施設にあり
さらにもう一つのこだわりが、伊勢海老が4〜5トン入る畜養施設。多い時は1日に400〜500kg買い付けるはし長では、仕入れた伊勢海老を生簀(いけす)で育てることで、必要な時に新鮮なものを市場に出荷したり冷凍したりできるのです。
この規模の蓄養施設は近辺ではめずらしく、質の良い伊勢海老を安定して出荷できる秘訣だそうです。
新鮮な状態で冷凍し、食べやすくカット
返礼品は、1尾を縦に半分に切ったものが8〜10切れ(約1kg)入っています。新鮮な伊勢海老を生きたまま冷凍しカットしたもので、家庭用冷凍庫で保存する場合は、発送から約30日以内に食べるのがよいそうです。
生きた伊勢海老は調理が難しいので、カットされていてしかも冷凍できるのはありがたいですね。
カット伊勢海老、おすすめの食べ方
冷凍伊勢海老のおすすめの食べ方を伺いました。まず、使う分を冷蔵庫で解凍し、あらかた氷が溶けたら、味噌汁、鍋、オーブン焼きや網焼きなどどんな料理にも使えます。バーベキューで塩焼きにするのもよいですし、マヨネーズやチーズを乗せてオーブンで焼いても香ばしい香りが立ちます。
鍋に入れるのもおすすめ。身からも殻からもダシが出て、海鮮の風味を余すことなく味わえます。身が大きいので取り出しやすく、プリプリの食感を楽しめますよ。
絶好のロケーションで地元の海鮮を味わえる
はし長は魚介の販売所だけでなく、地元でとれた魚料理が食べられる展望喫茶「フィッシュテラスはし長」を併設しています。自慢の干物定食や丼ものを提供するほか、なんとはし長店舗で買った魚を持ち込んでそのまま捌いて食べることもできます。
かつては街中にあった店舗を海の近くに移設したのは、国道のアクセスと景観のよさに心を打たれたから。海を眺め、潮風と波の音を感じながら海の恵みを味わえます。
おもしろくてしかたがないから「あきない」なのだ
最後に、どのような想いで仕事をし、ふるさと納税に参画しているのかを、競りから帰ってきた橋本昌典社長にお伺いしました。「うーん、難しいな」とはにかみながらも社長室に貼ってあるという、商売繁盛の神様として崇められる仙台四郎さんが詠んだとされる「あきない」の心得を教えてくれました。「商売はあきないという それはおもしろくてしかたがないから あきないなのだ」
おもしろくないと仕事はできないと言う橋本社長。最高のものを仕入れてお客様に提供している自負があるから続けられる。ふるさと納税は県外の人にも商品を知ってもらうチャンス。いいものを出しているのは間違いないので、ぜひ味わってほしいと笑顔を見せてくれました。
雄大な海の恵みに感謝して命をいただく
取材が終わる頃には夕方になっていました。はし長のすぐ隣の湾から見える景色が美しく、先代がここに店舗を構えた理由が分かったような気がします。この景色を独り占めできるテラスで、近海で獲れた魚料理をいただくのは特別感がありそうです。
はし長でいただいた試食用の伊勢海老を、早速鍋にして家族でいただきました。「ダシがすごくきいてる!残った汁で味噌汁にしよか〜」「身が大きいから手で外して食べやすいね」と、かに鍋ならぬ海老鍋で食卓が盛り上がりました。
近畿支部(和歌山県御坊市担当) / 小山 志織(こやま しおり)
紀南在住。県外の大学卒業後、和歌山にUターン。和歌山を拠点にしつつ旅するライター&エッセイストとして旅で得た経験などを元に執筆活動をしている。地域の情報発信にも関心があり、県内の取材に出かけることが多い。書くことが好きで、自分自身が地域の魅力を知りたい!という気持ちで取材執筆しています。
名田町には高専があり、県下から学生が集まります。ここで育った若者が将来名田の海産物の味を思い出してくれるといいな。