イギリス国王が与えた「サー」の称号
赤身の間にきめ細かなサシが入った美しい霜降り肉。ひと口頬張れば、ジュワッとひろがる肉のうま味に、脂の甘さがトロッと。数ある部位のなかでも「サーロイン」のおいしさの虜になっている人も多いのではないでしょうか?
かつてイギリスの国王が「ロイン(「腰肉」の意)」のステーキを食べたところ、あまりのおいしさに卿(サー/イギリスでナイトや准男爵の名前に冠する敬称。叙勲制度における栄誉称号の1つ)の称号を与えたとされることから名付けられた「サーロイン」。「そんな人気のサーロインの中でも、仙台牛そして、登米(とめ)産のものは間違いない、と自信を持っておすすめできます」と話すのは株式会社佐利の佐藤利宜(としのり)さん。その自信の裏にはどんなこだわりがあるのか?お話を伺ってきました。
国内でも屈指の農業の里・登米市
株式会社佐利があるのは、宮城県北の内陸に位置する登米市。渡り鳥の飛来地として国際的にも有名で、ラムサール条約登録湿地の「伊豆沼・内沼」、東北最大の流域面積を誇る「北上川」など多くの水資源に囲まれた水の町です。また、江戸時代から米作りが盛んで、北上川の海運を利用して石巻港から江戸に多くの米を供給していたといわれています。江戸に米が登ることから「登米」という地域名が残ったと言われているほど、歴史ある稲作地帯です。現在でも米どころ宮城県でも随一の生産量を誇っています。
また、和牛の産地としても知られており、仙台牛の生産については約4割が登米産の牛。飼育にあたっては、米どころの特製を生かし、稲わらやもみ殻を飼育に活用する“耕畜連携”の先進地でもあります。
70年以上、市民に愛されてきた肉屋
株式会社佐利は、登米市で昭和24年に佐利肉店として開業しました。創業者の佐藤利助(りすけ)さんは戦後、旧ソ連の捕虜として調理を担当。食の大切さを痛感し、戦後「これからは肉の時代だ」と地元に戻って肉屋を開業したといいます。
地元客に愛され70年以上。直営の小売店である「フレッシュミート佐利 中江店」は1989(平成元)年に開業してから30年以上、登米市民の胃袋を支えてきました。そんな佐利が近年とくに力を入れているのが「仙台牛」です。「正直、知名度ではほかのブランド牛のほうが高いですが、仙台牛を一度食べると『こんなにおいしいのね』とリピーターになっていただけるんです」と佐藤さんは話します。
ブランド牛の祭典で軒並み上位を独占する「仙台牛」
「仙台牛」が高品質かつ安定的に飼育されていることは、全国各地のブランド牛の頂点を決める「全国肉用牛枝肉共励会」(東京食肉市場協会主催)の結果にあらわれています。全国で最多の頭数が集まる和牛の祭典で、「仙台牛」が近年上位を席巻していることをご存知でしょうか?「仙台牛」は2016年、2017年、2019年に最高賞である「名誉賞」を受賞。なみいる競合を押しのけて相次いで上位の功績を残しているのです。
高評価の裏には、飼料へのこだわりや牛がリラックスできる環境づくりなど生産者のたゆまぬ努力があります。「仙台牛」ブランドとして表記できるものは、最高ランクの肉質A5、B5に評価された黒毛和種だけ。霜降り度合いや、きめの細かさなど厳しい基準をクリアして初めて「仙台牛」の称号を得られます。「肉質等級を最高級の5等級に限定しているのは国内の数あるブランド牛のなかでも仙台牛だけ。厳しい格付けがゆえに流通が多くなく、知る人ぞ知る逸品となっているのかもしれません」
「等級」だけではなく「おいしさ」を追求
「仙台牛」を語る上で欠かせないのが、きめ細やかな「霜降り」。「霜降り」を英語で表すと「大理石」を意味する「Marbling」(マーブリング)という言葉が使われますが、5等級に格付けされた肉は、まさに「大理石」のような美しい赤身ときめ細かな霜降りが特徴的です。さらに「生産者のみなさんは霜降りの美しさだけではなく、『本当に食べておいしいもの』を目指してたくさんの工夫を凝らしている」と話す佐藤さん。
飼料は宮城県の特産である「ひとめぼれ」や「ササニシキ」などの良質な稲わらを基本として、発酵させた粉炭を飼料に混ぜ込んだり、自家製もち米を使ったり、各生産者が独自の工夫を凝らしています。「ひと口頬張ればその違いがわかるはず。脂がトロッと甘く、濃厚。これは生産者のみなさんの技術の高さ、そしておいしさへの強い想いの現れだと思います」
良質な肉のよさを損なわず鮮度よくお届けする
「生産者が努力して生まれた良質な肉のよさを損なわずに、消費者においしく届けるのが私たちの役目」と佐藤さん。株式会社佐利の何よりもの強みが、解体から消費者に届くまでを一貫して行なっていることです。
本社工場でも熟練の技をもつスタッフが目利きして仕入れた肉を、高い技術をもつ解体技術のスペシャリストが素早くていねいに解体。そしてすぐに-40℃で急速冷凍します。「そうすることで、肉のうま味やおいしさを逃さずにお客様にお届けできるのです」と佐藤さん。さらに、直営店のショップや自社で経営する直営焼肉店、飲食店で消費者の直の反応を見て、試行錯誤を続けていきます。改善点があれば解体や加工のスタッフ、さらには地元の生産者ににすぐにフィードバックが可能です。川上から川下まで自社で完結できること。それが佐利が地元で長く愛される所以かもしれません。
肉屋が直伝!失敗しないステーキの焼き方
飼育から加工までこだわりがギュッと詰まったお肉。「失敗せずにいちばんおいしい状態で食べたい!」という方も多いはず。そんな方に佐藤さんがステーキの焼き方をおすすめしてくれました。
(1)袋を開けて、冷蔵室でゆっくり解凍させる
(2)解凍されたら焼く20分前に冷蔵室から出して常温に置く
(3)強火で両面を焼き目がつくまで焼いたら、一度フライパンから取り出してアルミホイルに包んで3分ほど休ませる
(4)仕上げに強火でさっと焼いて表面をカリッとさせる
「ポイントは焼く前に常温に戻すことと、焼いている間に肉を一度休ませること」と佐藤さん。
焼く前に常温に戻すことで、表面も中側も肉全体が同じ温度帯となり、焼きむらがなくなります。また、表面を焼いてから一度休ませることで、その間にじっくりと中に火が浸透して、ちょうどよいレア状態で食べることができます。「背中の部分であるサーロインは筋肉もサシもきめ細かくて、上品な脂を楽しめる部位。仙台牛らしいおいしさを堪能できますよ」
牛肉を通して「登米」の名を広めていく
厳しい格付けにより、知る人ぞ知る「仙台牛」のおいしさ。なかでも登米産仙台牛に自信とこだわりを持つ佐藤さん。取材の最後は、力強い言葉で締めくくりました。
「これからは登米ブランドを出していきたいです。まずはこのふるさと納税が第一歩。登米産仙台牛のおいしさをぜひ噛みしめてください」
東北支部(宮城県登米市担当)/ 浅野 拓也(あさの たくや)
宮城県南三陸町在住。埼玉県で生まれ育って、中東やアフリカを旅していたら、東北の港町に移り住んでいました。震災で多くを失った人たちが、前をむいてポジティブ歩みを進める姿のとりこに。そんなチャレンジャーたちの「しなやかな力強さ」をお伝えしていきたいです。
登米市は、私の住む港町南三陸町の内陸に位置し、生活に欠かせないほど密接なかかわりのある町です。