豊かな自然と都市機能が調和するまち「旭川」
北海道のほぼ中央に位置する旭川市は、札幌に次ぐ「第2の都市」とも呼ばれ、人口約33万人が暮らすまち。中心市街地では、1972年に誕生した日本初の恒久的歩行者天国である「平和通買物公園」をはじめ、多くの商業施設や文化施設、行政機関、医療機関などが集まっています。
一方で四季の変化に富み、盆地を囲むようにそびえ立つのは雄大な大雪山の山々。大雪山連峰の伏流水の恵みと寒暖差の激しい気候が、品質の高い農産物を育んでいるのもまちの魅力の一つです。
誰もが安心して食べられるパンを作る「王様のパン」
そんなまちの一角で、「全粒粉100%食パン・ベーグル」など自然素材のみを使用したパンを作り続けているのが「王様のパン」です。「王様のパン」は旭川出身の竹原フジ子さんが1987年にオープンしたお店。当初から北海道を中心とした地元の素材を使い、どんな方でも安心して食べられるよう身体に配慮されたパンを作ることにこだわっています。
インパクトのある店名は、初期の頃に焼いたパンの生地の膨らみが甘く、モコモコと山状に焼き上がった形が王様の冠に似ていたことに由来。代名詞とも呼べるのは大きめの無水鍋で焼き蒸す「鍋パン」で、愛らしいユニークな名前のパンの数々に加え、一部のパンを除きほとんどのパンに全粒粉が使用されているのも、王様のパンならではです。
思いがけずのめり込んだ「パン」という世界
「もともとは、パンづくりにそれほど関心を持っていなかったんです」と話す竹原さん。身体をつくる上で欠かせない「食」と向き合うようになったのは、お子さんのアトピー発症がきっかけでした。
それを機に、日常的にパンを焼いていた姉からレシピを教わり、材料を自然由来のものに置き換えて作り始めると、一気にパンの世界へ引き込まれることに。初めはなかなか上手く焼くことができず、試行錯誤を繰り返す中で気付けばひと月に小麦粉25kg分もパンを作っていたといいます。
焼いたパンは周りの友人に配っていましたが、ほどなくして「お礼に困るので売ってほしい」との声が多数上がり、お店のオープンを決意。以来「王様のパン」はおいしいパンを求めている方はもちろん、添加物を気にされる方や自然食志向の方など、食に対し切実な思いを持っている方に愛されています。
噛めば噛むほどに味わいが増す、全粒粉100%パン
全粒粉100%パンの魅力はなんといっても素材のシンプルさにあります。食パン・ベーグル共に、使用されている原材料は「全粒粉・天然酵母・塩」のみ。素材のうま味を引き出し焼き上げられたパンは、食物繊維とミネラルが豊富に含まれ、噛めば噛むほどに穀物の味わいが増すもっちりとした食感が特徴です。
蒸したり、ふたをしたフライパンで焼いたりと加熱するとよりおいしく食べることができます。コーヒーのお供や、ごはんとおかずを食べるように食卓の一品として添えるのもオススメです。また、健康な方はもちろん、今後も健康でいたいと考えている方にぜひ試してほしいのは、「ターメリックトースト」。全粒粉100%の食パンに、オイル(ココナッツ・オリーブ・亜麻仁のいずれか)大さじ2分の1、ターメリック小さじ4分の1、黒コショウ多めのひとつまみのせればOK。免疫力UP効果が期待できます。
素材のうま味を引き立たせる、自然素材へのこだわり
食パン、ベーグルに使われている材料は3つだけ。全粒粉は北海道にある江別製粉のもの、天然酵母は国産の「ホシノの酵母菌」と自家製酵母菌のブレンド、自然塩は中国福建省塩業局福建省塩業進出口公司から出ている「福塩」を使用。こちらは太陽と風と遠赤外線で自然結晶させ、半年以上寝かせた特級海塩です。
素材のうま味が引き立つよう添加物はもちろんのこと、ケミカル由来の酵母エキス、発酵調味料、アミノ酸、合成調味料、蛋白質加水分解物、風味調味料も一切使用せず、自然界にある素材のみで作り上げているというこだわりっぷり。油・卵・牛乳・砂糖も使用していないため、アトピーやアレルギーなど食事に制限がある方でも安心して食べられるのがうれしいポイントですね。
生地の膨らむ環境を整える「2次発酵」
パン屋の朝は、とにかく早い。早朝3時半には起きて、セラミックの型に入れ一晩寝かせておいた食パンをお店の開店時間に合わせて順次焼いていきます。パンが完成するまでの工程で一番力が入るのは、生地を寝かせておく「2次発酵」。王様のパンでは、機械を使わない自然発酵を行っており、日ごとに変わる気温や室温に合わせて寝かせる場所や時間を見極めるには、長年の経験がものをいいます。その結果として、鍋やオーブンの中で元気よく生地が膨らむための環境が整うのです。
「途切れないパン」を作るための環境づくり
竹原さんにとっておいしいパンとは「途切れのない繋がりのあるパン」のこと。そんなパンを作り続けるためには、「このお店で働くスタッフ1人1人が常に自分の頭で考え動くことが必要なんです」と力を込めます。どうすれば効率良く作業ができるのか、どうすればチームワークよくスムーズに連携して下準備をし、パンを焼き、お客さまへ届けられるのか。素材にこだわるだけではなく、お客さまへ届けるまでの一連の流れを “繋がり”と捉え、その過程を大切にする姿勢に、胸に染み入るような温かさを覚えました。
「常に進化し続けるパン作り」を目指して
自身の原体験をきっかけに始まった王様のパンは、2020年でオープンから33年目を迎えました。これだけの年月を重ねてもなお「昨日よりもおいしいパンを作りたい」という情熱を持ち続けています。現状に甘んじず常に進化しようと心がけるお店だからこそ、長い間多くの方々に愛されているのではないでしょうか。
「これまでも失敗するたびに、“今度こそは”という気持ちで試行錯誤を繰り返してきました。改善しながらチャレンジする過程がとにかく好きで。それはきっと、今までもこれからも変わらないですね」と笑顔で語る竹原さんの姿がとても印象的。この先もずっと心に留めておきたくなるような学びにあふれた時間となりました。