自然豊かな温泉街、箱根湯本
都心からほど近く、歴史と情緒が漂う箱根の玄関口「箱根湯本」。駅を出ると、数多くの土産物店が軒を連ねています。土産物店が並ぶ通りのすぐ後ろには、芦ノ湖を水源とする早川が流れています。川にかかるあじさい橋からは、箱根の山々を望むことができます。
そんな箱根湯本駅から15分。今回ご紹介する返礼品、箱根寄木細工「菓子器」は、住宅街に構える、「木路」というお店で取り扱われています。
店内には、オリジナルの寄木細工商品がずらり。その中でも一際目を引くこちらの「菓子器」。縁起のいい八角形の木箱に、美しい寄木の模様が貼り巡らされています。お気に入りのものを入れて大切に使いたい、温もりを感じる木箱となっています。
つくり手の想いが伝わる直営店
お話を伺ったのは、「木路」にて販売や接客、事務方を担当されている、露木美帆子(つゆき・みほこ)さんと、露木百合枝(つゆき・ゆりえ)さんです。昭和初期におふたりのお祖父様が工房を立ち上げられ、現在は3代目が有限会社木路として直営店と工房を営んでいるそうです。
箱根湯本に「木路」ができたのは、2003年のことです。「それまでは、メーカーとして工房で寄木細工をつくり、問屋に卸すというスタイルで、自分たちが直接買い手であるお客様と接することはありませんでした。土産物店に並べてもらうためには、問屋が気に入る商品をつくれるかどうかが何よりも大事で。問屋が気に入らない商品は、取り合ってもらえなかったからです」と百合枝さん。
そんな「当たり前」とされてきた流通に疑問を持ち、「直接お客様の反応を見てみたい」と考えた3代目は、直営店を構えることに決めます。そうして、寄木細工の販売や発送を行う箱根湯本の直営店「木路」と、製材や塗装などものづくりを行う工房との2拠点が誕生し、現在に至ります。
「寄木細工の職人たちは、お客様に喜ばれるものをつくりたいという想いと、自分たちがつくってみたいものをつくりたいという想いを持っています。なので、とにかく良いと思ったものを並べることのできる店舗ができたことは、とても大きな変化だったと思いますね」と美帆子さん。店頭でのお客様の反応や意見を、直接職人へ伝えることで生まれた商品も多いそうです。
長い歴史と、職人の高い技術
箱根寄木細工は、箱根畑宿(はたじゅく)という地域で、200年ほど前に始まったといわれています。その昔、湯治客でにぎわっていた箱根で、長期滞在していたお客様の娯楽やお土産として誕生したといわれているのが、寄木細工でつくられた「秘密箱」。箱の側面を順番通りにスライドさせると開けることができる、からくり箱です。その「秘密箱」を発端に、箱根寄木細工は箱根土産の定番として広く知られ、海外にも多くのファンやコレクターがいるほど、人気を集めるようになりました。
日本で唯一、箱根でだけつくられる伝統工芸品の箱根寄木細工は、現在20ほどの工房だけで作品を生み出し続けています。高い技術を持った職人の手で、気が遠くなるほどの繊細さ、緻密さや正確さが求められる数々の工程を経て、このような美しい模様がつくられていきます。
使われているのは、天然のさまざまな色の木。てっきり全てに箱根の木材が用いられているのかと思いきや、「箱根エリアは富士箱根伊豆国立公園に指定されており、勝手に木を切って使うことはできないんです」と百合枝さん。その代わり、今はいろいろな種類の木を気軽に入手できる時代になり、外国の木も買い付けることができるため、昔に比べると色のバリエーションがあり模様も鮮やかになってきたそうです。
そうして入手した木材が、工芸品になるまでの工程を伺いました。まずは、木のパーツを組み合わせてひとつの模様、単一模様と呼ばれるブロックをつくります。実際にパーツを目にすると、その細かさに心底驚かされます。さらに単一模様を大きく寄せて連続模様をつくり、それらをしっかりと接着させて一枚の板、種板(たねいた)をつくっていきます。
種板をもとに、カンナで0.15ミリほどの厚さに削ったものを「ヅク」と呼びます。まるで1枚の薄い紙のようですが、触ってみると確かにデコボコで、木が寄せられて生まれた模様なのだということがよくわかります。わずかに木の繊維が透けて見えることも。削り出されたものは幾何学模様でありながらも、天然の素材を使った手仕事なのだと、あらためて感動させられます。
「ヅク」を木製品の表面に貼った作品を「ヅク貼り」といい、その薄さから様々な木製品の形にあわせることができます。木箱や写真たて、トレイ、お箸など、多くのアイテムに使われている手法です。対して、種板をそのままろくろなどで削り出して作品にすることを、「ムクづくり」といいます。「ヅク貼り」のように量産はできないものの、削る角度によって模様が大きく変わるため、様々な表情を見ることができます。
このようにして、職人の高い技術と長い製作期間をもって、一つひとつの寄木細工作品がつくられていきます。つくられる工程に想いを馳せると、よりいっそう愛着が持て、大切なものに思えてくるから不思議ですね。
思い思いに楽しめる「菓子器」
今回の「菓子器」に用いられているのは、「ヅク貼り」。蓋を開けると、縁起がいいといわれる市松模様が目に飛び込んできます。外側と中底で異なる模様のヅクが用いられているのも、この「菓子器」の特徴のひとつ。
「菓子器」の使い方を尋ねると、「『こう使ってほしい』というよりは、手にしてくださった方の発想で、好きなように使っていただけたら嬉しいなと思っています。塗装しているので水洗いできますが、やっぱり木なので水気は大敵。すぐに乾いた布で拭きあげていただくと、長く使っていただけるはずです」と美帆子さん。比較的大きめにつくられているため、お菓子はもちろんのこと、アクセサリーや文具など、小物を仕舞うのにもぴったりです。
受け継がれる職人の手しごとを、お手元に
その美しさはもちろんのこと、天然素材のぬくもりや職人の高い技術を感じる、箱根寄木細工の「菓子器」。目に見えるところに飾って楽しみながら、長く愛用いただきたいお品です。
関東支部(神奈川県箱根町担当) / 庄司 賢吾(しょうじ けんご)・真帆(まほ)
夫婦で土曜日だけの珈琲店「アンドサタデー」を営む傍ら、逗子・葉山を拠点に、企画や執筆、撮影、デザインなど編集カンパニーとして活動しています。記事を通して、事業者さんの人柄や温かみをお伝えしていきたいと思っています。
歴史ある温泉街と大自然に癒され、手しごとやアートに刺激を受ける。箱根は、少しの非日常に身を置きたい時に訪れたくなる街です。