あらゆる燻製が一台で楽しめる鍋型の燻製機
ステンレスの光沢が美しいなめらかなフォルムに、寸分の狂いもなく重なる二層の鍋。実はこれ、鍋型の燻製機なのです。この「ステンレス製大型オーブン燻製機」は、今野(こんの)工業株式会社が製造。カセットコンロ、電熱器などさまざまな熱源で使用することができ、熱燻・温燻・冷燻といった温度帯の異なる燻製やスチームの中で燻すウォータースモークなど、シンプルな見た目からは想像できない多機能な一品です。
その本格的な仕上がりから、個人で燻製作りが好きな方だけでなく、飲食店やバーなど食のプロの方々にも愛用者が多数。燻製初心者の方から、食材に合わせて温度や煙量の調整を行いワンランク上の燻製作りをしたい方まで幅広く満足できる一台です。
食材に合わせてぴったりの燻製方法が選べる
燻製は、燻製機の底にチップを敷いて加熱し、そこから立ち登る煙で食材を燻して風味漬けを行います。食材にスモーキーな香りが加わり、よりうま味が強く、味わい深くなることから、燻製作りに凝る人も増えています。
さらに、燻製は温度の違いで3種類に分けられます。80度程度の高温で短時間で仕上げる「熱燻」、30?80度の温度で数時間かけて行う「温燻」、そして燻製時の温度を30度以上にしない状態で燻す「冷燻」があります。この燻製機は、どの温度帯の燻製も作れることが魅力なのです。
スモーキーな香りが食材の味わいを広げる燻製
製品開発を行う専務取締役である今野靖尚(こんの やすひさ)さんは、ご自身も大の燻製好き。「ミックスナッツや卵など定番の食材も美味しいですが、ぜひチャレンジしてほしいのは干物のあじやししゃもです。焦げずにふっくら仕上がり、金色で高級感もありますよ」と、最近のおすすめを教えてくださいました。
製品の公式ホームページには、燻製機を活用したレシピをなんと600件以上も掲載。チーズやローストポーク、自家製ハムなどの食事のメニューだけでなく、チョコレートやジャム、アイスといったスイーツのメニューも充実。「燻せぬものは無し」と謳うブランドのメッセージの通り、食材と燻製の無限の組み合わせに出会うことができます。
「マルチPAN構造」でさらに広がる燻製の手法
ステンレス製大型オーブン燻製機は、「蓋」「マルチPAN」、底にあたる「チップ皿」の3つで構成されています。ステンレス素材は、蓄熱性はありますが、実は熱伝導性が低い素材。底と蓋の間にステンレスの層を一つ挟む「マルチPAN構造」を取り入れることで、直接底の温度が食材に伝わらず適度に温度が遮断され、煙量の急激な増加や食材の温度の上昇を防止することができます。
「マルチPANが入ることで、燻製機の使い方の幅がさらに広がるんです」と今野さん。肉汁がチップに落ちることを防止して質の高い燻製を作ったり、水やビールを入れてウォータースモークができたりと、あらゆる食材をベストな状態で燻すことができる構造になっています。
世界初の特許も取得!家庭でも「冷燻」を楽しめる
この燻製機は、「冷燻」ができる鍋型の燻製機としては世界初の特許も取得。熱を避けたいお刺身や脂身の多い肉類などの燻製に向いている冷燻。「おすすめはやっぱりスモークサーモンですね。この燻製機で作ったスモークサーモンを食べると感動すると思いますよ」と今野さんは話します。
一般的に冷燻に対応した燻製機は、サイズが大きく価格も高いため個人ではなかなか手を出しにくいものでした。この燻製機はコンパクトサイズのため家庭でも利用ができ、冷蔵庫の製氷機で作る氷がちょうど入るサイズで設計されているなど、実際に家庭で使用しやすい仕様になっています。
グッドデザイン賞も受賞!金属加工技術が生み出す曲線美
ステンレス素材が描く、継ぎ目のないなめらかな曲線が美しい同製品。2020年には、GOOD DESIGN AWARDで2020年度賞を受賞するなど、その質の高さはお墨付き。金属鍋は複数の部品を溶接して作ることも多いのですが、溶接部分のないシームレスな設計です。
二つ以上のパーツを溶接すると引っ掛かりができたり溶接部分に溝が生まれるため、洗いづらくなり美しい状態が保ちにくくなります。ステンレス素材のもつ高い耐久性に加えて、長くきれいな状態で使い続けることができる形にこだわって製造しているのです。
「ヘラ絞り加工」とは?緻密な職人技が実現する金属加工技術
実はこの燻製機、今野工業が金属加工技術で培った技術が凝縮された一品。その代表技術は「ヘラ絞り加工」と呼ばれ、丸く切られた金属板を回転させながら「へら」と呼ばれる棒で金属を少しずつ変形させる、金属版の“ろくろ”のような技法です。
そもそも今野工業は、昭和42年の創業以来「ヘラ絞り加工」に特化して金属部品の加工を行ってきた企業。現在は、食品の製造ラインの機械部品など、さまざまな産業用の機械の部品を中心に製造しています。5mmから1.5mまで幅広い大きさの金属を加工することができ、「金属の種類も形状も、さまざまなパーツを引き受けられるのが自社の強みです」と今野さんは話します。
「使い勝手に合うものを」オリジナルブランドの誕生まで
燻製機を開発したきっかけを尋ねると「もともと自分自身が趣味で燻製をすることが多かったんです」と今野さん。当時、キャンプで使用していた燻製機には、自分が使いたい鍋型で短時間で燻せるものがなかったのだとか。
「自分の好きなものと会社の技術を掛け合わせることで、何か形にすることができるんじゃないか」。そう思った今野さんは、休日に一人で試行錯誤しながら燻製機の開発をはじめました。
ワンランク上の仕上がりを求めて共同開発へ
今野さんは友人や知人に燻製機を実際に使ってもらいながら開発を重ね、無事第一号の販売に至りました。その後、この今野工業が作る燻製機の存在がSNSを通じて伝わり、岐阜県にある燻製チップ販売会社であるSMOKY FLAVORと共同開発を進めることになったのです。
燻製の質を高めるためには燻製機の蓋部分の高さが必要ですが、高さがあるほど工程が増えて歪みやすく加工が難しくなるのだとか。燻製に知見のある同社とともに、金属の加工技術で実現できることを追求しながらブラッシュアップを重ねた末、現在の形状の燻製機が完成したそうです。
「好き」とものづくりの技術を掛け合わせた挑戦
「ステンレス製大型オーブン燻製機」は、今野工業のオリジナルブランドの記念すべき第一号。そのブランド名は「Now Field」で、まさに社名の「今野」という名前が由来となっています。「直接お客様の声を聞くことができるので、自社ブランドを作り販売までできたことが本当によかったと思っています」と今野さん。燻製機を通じたさまざまな出会いに日々刺激をもらっているそうです。
「燻製が好き」という思いと会社の技術から生まれた燻製機。長年の金属加工で培われたノウハウと一流のものづくり技術を活かした燻製機を使って、食卓を盛り上げる燻製作りの腕に磨きをかけてみてはいかがでしょうか。
関東支部(神奈川県川崎市担当) / 大久保 真衣(おおくぼ まい)
食べること、旅することが大好き。この世の中にある美しいものやおいしいもの、そして想いがあるものを広めることに関わり続けたい。「すてき」と感じたことを言葉で伝えて、読んでくださる方にあたらしい”心ときめく出会い”を贈ります。東京都在住。
カンカン、トントンとまちに響く工場の音。川崎市は、地域に根付いたものづくりの雰囲気が魅力です。