アクセス良く、レジャースポットがコンパクトに詰まった熱海市
静岡県熱海市は首都圏からのアクセスが良く、思い立ったら気軽に行くことができる国内有数の観光地。熱海市の総面積は61平方キロメートルと全国市区町村の中でも狭い方ですが、その中に海、山の雄大な自然と温泉、ゴルフ場、飲食店、文化芸術などの施設が充実している遊び甲斐たっぷりのエリアです。
熱海特有の地形が豊かな海とたくさんの魚を育む
熱海に行ったらぜひ味わいたいのが、獲れたての新鮮な魚。熱海には5つもの漁港があり、定置網や刺し網など多様な漁法によって豊富な魚種と漁獲量を誇ります。アジひとつとっても、マアジ・メアジ・青アジ・ムロアジ・赤背ムロアジなど常時5種類ほどあるのだとか。
熱海の海にたくさんの魚がいる理由は、その特徴的な地形にあります。海と山の距離が近いため、雨によって山々から染み出た養分が海に流れ込みます。その養分で増えた植物性プランクトンを海中の動物性プランクトンが食べ、大小さまざまな海洋生物が集まり小魚から回遊魚、大型魚へと命を巡らせていくのです。
多彩な楽しみ方ができるこだわりの燻製品
今回の返礼品である「湯けむりくんせい事件」を製造販売しているのは、熱海市で鮮魚卸業を営む創業80年の株式会社宇田水産。愉快なネーミングの「湯けむりくんせい事件」は、伊豆近海で獲れた新鮮なアジを桜チップと静岡茶葉でいぶしたご当地燻製品です。
火入れをしない冷勲製法のため、余分な水分が抜けてうま味がぐっと凝縮しつつ、しっとりとした生の食感を残した贅沢な味わいが楽しめます。さらに桜チップの奥行きのある燻香が食欲をそそり、サラダやパスタのアクセントにおすすめ。ほどよい塩加減のため、お子さまのおやつや大人の晩酌にもよく合うでしょう。クラッカーにチーズやアボカドと一緒にのせるだけで、見た目も華やかなオードブルが簡単にできますよ。
アジの鮮度を保つ職人技がキラリと光る
「湯けむりくんせい事件」の製造工程はシンプルですが、そのおいしさを生み出すためには魚そのものの鮮度とスピーディーな下処理がものをいいます。毎朝市場で仕入れるのは地元で水揚げされた新鮮なアジ。目はうるおって透き通り、身は引き締まって表面にツヤがあります。
そのアジを小型の包丁でササっと手早くさばいていく包丁技術は圧巻!魚は鮮度が落ちるスピードが非常に早く、扱う人のわずかな体温でも鮮度に影響を与えかねません。スピード感あふれる手仕事は、日々多くの魚と向き合い磨き抜かれた職人芸ともいえます。
三枚におろした桜色の身に塩を振り、天日干しにしたあと、金串に通して木箱に渡し掛けます。木箱の底には桜のチップと静岡茶葉を敷き詰め、低温で4~5時間かけてじっくりといぶすことで燻煙が青魚特有の生臭さを消し、生ハムのようなもっちりとした上品な食感に仕上げます。
「湯けむりくんせい事件」の誕生秘話
株式会社宇田水産3代目の宇田勝(うだまさる)社長によると、地元の水産業者は長らく旅館に依存した経営が続いてきたといいます。将来的に旅館以外の収入源も必要と考えた宇田社長は、新たな販路を開拓するべくマグロの解体ショーやひもの作り体験、各種イベントへの出店など地域活動を積極的に行いました。
そして2013年に熱海市役所から声がかかり、地元活性化のためのワークショップに参加した宇田社長。地元の魚を使って新商品を開発しようという流れとなり、市の職員はもちろん、商工会議所、自営業、大学生などさまざまな立場の参加者が意見を出し合いました。そして宇田水産でアジの燻製を作ることが決まったのです。
老舗鮮魚店が挑むアジの燻製作り
さっそくアジの燻製の商品化に向けて試作を始めた宇田社長ですが、それまで燻製品を作ったことはなく、当然作り方もわかりませんでした。今でこそアウトドアブームで自家製スモークを作る人は多くいますが、当時は周りに燻製の作り方を教えてくれる人もいなかったので、自分で調べて塩加減や火加減、いぶす時間などあれこれ試しながら毎日燻製を作り続けました。「初めはまずくて食べられないほどの失敗作ができてしまうこともあったし、たとえ失敗作でも大切な海の命を捨てるのが嫌で、当時は悔しく胸が痛かった」と宇田社長。
もくもくと煙にまみれてむせ込みながら、本当にこれでいいのか?と不安に駆られることも。それでも自身を鼓舞し試行錯誤を繰り返した結果、ようやく納得のいく燻製「湯けむりくんせい事件」ができあがりました。ワークショップ参加メンバーも新商品の完成をとても喜んでくれたそうです。宇田社長は「あの時たくさん実験したから、今ではどんな食材でも思いのまま。なんだって燻製にしちゃうよ!」と豪快な笑いを交えつつ、当時の苦労を語ってくれました。
「湯けむりくんせい事件」の名付け親は?
「湯けむりくんせい事件」というユニークなネーミングは、熱海認定ブランド担当の商工会議所職員さんによるものなんだとか。燻煙と熱海ならではの「湯けむり」を掛け、熱海市のとなり、神奈川県湯河原町にあるサスペンス作家の巨匠西村京太郎の記念館にちなんで「事件」というワードがつけ加えられました。大真面目な表情で経緯を説明する職員さんの様子に、宇田社長は思わず笑ってしまったといいます。新聞記事をリアルに模したパッケージも、本当の「事件」を彷彿とさせ、興味をひかれますね。
地域に根ざした経営の継続と食文化の発展をめざして
「湯けむりくんせい事件」はたくさんの人たちのアイディアから生まれた商品。2014年には地元で生産加工された商品の品質とこだわりを厳しく審査する「熱海ブランド」に認定され、各種イベントなどを通してその名は県内外に広く知られることとなりました。皆の想いを背負っている覚悟とともに、自分ひとりでは何も成しえなかったと、関わった人たちへの感謝の想いを宇田社長は話します。
最後にとっておきの楽しみ方をもうひとつ。「湯けむりくんせい事件」のアジの皮は手で簡単に剥ぐことができるのですが、その皮を素揚げにするとカリカリと香ばしくておいしいのだとか。これはお客様が教えてくれたそうです。こんな風にお客様からの声が届きやすいところも、長年地域に根ざした経営を続けてきたからこそ。今後も熱海の食材を使った食文化の発展に努めたいと宇田社長は力強く語りました。
中部支部(静岡県熱海市担当) / 山口 敦子(やまぐち あつこ)
静岡県静岡市在住。好きなことは自然散策、間取り図を眺めること。現在は、「いちぼし堂」でリモートワーク(月に数回出社)実践中。子どもの頃夢中になった宝探しのような視点で、取材先の隠れた魅力を発掘して伝えていきます。
海・山・温泉と魅力がぎゅっとコンパクトにそろう熱海。何度訪れても飽き足らないほどの新しい発見が待っていますよ。