サヌカイトの産地・香川県坂出市
香川県坂出市は、瀬戸大橋が架かる四国の玄関口。塩田で栄えた歴史を持ち、沿岸部に広がる工業地帯と美しい瀬戸内海や島々、のどかな自然に恵まれた土地です。
古来より、花こう岩石材の有数の産地である瀬戸内エリアは高品質な石が多く採れることで有名ですが、限られた地域でのみ採取される希少な鉱物「サヌカイト」は、この坂出市が主な産地。その名称は、1891年にドイツの地質学者であるヴァインシェンクにより「讃岐(さぬき)の岩」の意を込め命名されたとされており、叩くと「カンカン」と音がすることから、「カンカン石」とも呼ばれ親しまれています。
香川の銘石・サヌカイトのチャイム
そんなサヌカイトを使用したのが、この卓上型「サヌカイト チャイム」です。ウォールナットを土台に取り入れた洗練されたデザインが目を引くこちらの商品は、高さ16cm・幅20cmの、部屋に馴染みやすいサイズ。インテリアにも適した美しいフォルムは、シンプルなデザインを得意とする香川在住のデザイナーによるもので、日常に上質な空間を作り出してくれる一品です。
一本一本それぞれの石に響く、異なる音色。付属のマレットで優しく撫でたり叩いたりすると、深みのある澄んだ音色が波紋のように響き渡ります。サヌカイトの音色には、耳にすると心地よさを感じてリラックスできるという「1/fゆらぎ」があることが日本音響研究所の分析により認められており、音色による癒し効果が科学的にも証明されています。
坂出で石材を扱う有限会社 平井石産
このチャイムを手がけるのは、昭和2年(1927年)創業の有限会社平井石産。墓石、神社仏閣の玉垣・石碑・灯籠、庭園工事、土木工事などを中心に手掛ける、坂出市の会社です。創業当初は、瀬戸内海に浮かぶ小与島(こよしま)で埋め立てや石垣に使用する石材を採堀する石材業社でしたが、昭和43年(1968年)に工場施設を建設し、切削機械の導入によって石材加工販売を開始しました。
花こう岩に属する高級石材・庵治石(あじいし)や海外から輸入した石をメインに扱いつつも、同時に「サヌカイト チャイム」をはじめとした、サヌカイト商品を打ち出している会社は全国でも有数。一大産出地である地元・坂出市の金山(かなやま)から採石されたサヌカイトを使用して、現在までに数多くの商品を生み出しています。
お母さんを頑張る女性に向けて発信したい
2012年にサヌカイトの商品開発を始めたという平井石産の平井美恵子さんは、「香川が産んだサヌカイトの音色を、身近に、そして手軽に楽しめる商品にしたかった」と話します。「女性を応援したい、という思いが一番でした。特に、お母さんは家族を支えるとても大切な存在。日々頑張っているお母さんたちを癒して元気にすることができれば、それは家族みんなのためになる。そういう思いを込めて、女性が喜ぶデザインや商品開発を意識しました」。
商品開発を始めた初期から「手に取りやすいように」と、音の響きとコンパクトなサイズにこだわっていたた平井さん。厚みや長さで音が全く変わるサヌカイトを手に、何度も試行錯誤を重ね現在の理想的なサイズにたどり着きました。
悠久のときを越えて響くサヌカイト
原料となるサヌカイトは、別名・讃岐岩(さぬきがん)と呼ばれる古銅輝石安山岩(こどうきせきあんざんがん)。花こう岩とは違い、噴火した溶岩が急激に冷えて固まることでできたと考えられています。名前の元となった香川県を中心に、大阪府と奈良県の境にある二上山(ふたがみやま)などでも採石されており、中四国地方では普遍的な石器石材。旧石器時代には刃物として使われ、江戸時代頃には石琴や、寺で鳴らす磬(けい・読経の合図に叩いて音を出す仏具)などにも使用されていました。
金山産のサヌカイトは表面がフラットで滑らかという特徴を持っており、同じサヌカイトでも産地により性質はそれぞれ。溶岩のため同じ形はひとつとしてなく、ものによっては原石の状態でもきれいな音が鳴ります。
サヌカイト原石からの切断・加工
こちらは天然採石場から採堀された原石が加工されていく様子。刃物の横から水が出るようになっているのは、水をかけながら切断することで刃が焼けるのを防ぐため。サヌカイトは、硬質、緻密なガラス質であるため、加工時に刃の目が詰まりやすく、道具の切れ味もすぐ落ちてしまうのだとか。「いまだに切れ味がいい刃物を探し続けているんですよ」と平井さんは笑います。
こちらは8mm幅の板状に切断された状態です。原石を切断すると、より黒いサヌカイトの面が現れます。この色は採石場の土や環境によって個々に変わってくるのだそう。風化してザラザラした表面とは違い、深く沈んだ黒色は強く静かな美しさです。
サヌカイトは細やかな結晶でできていて、粒子が一定方向に並んでいるため、叩くことにより振動が均等に伝わり合い、美しい音が鳴るのだといわれてます。
8mm幅に切断された石板から、チャイムの原型にカットされていきます。厚みに違いが出ると音に影響するため、チャイムは一枚の板状の石から完成させることが重要。
「音の高低は石の厚みと長さに関係しており、薄くて長いと音が低くなり、厚くて短いと音が高くなります。厚く長い方が、一つひとつの音の奥行きが出やすくなり、響きやすくなるという特徴もあります」。同じ原石から切り出した石板でもその音色は全て違い、同じ音を作ったとしても、原石の大きさが違うだけで音の質は変わってくるのです。
失敗を重ねてたどり着いた上質な音
平井さんは、切断の最終工程に一番苦心し何度も失敗を重ねた、と振り返ります。「細く棒状にカットするのは想像以上に大変。サヌカイトは欠けやすくちょっとしたことで斜めになってしまうので、とにかく真っ直ぐに切断する方法を模索しました。実はサヌカイト商品の中でも作業に一番気合いが必要なのが、このチャイムなんです」。初めはグラインダーを用いて手作業で切っていましたが、数年かけて既存の機械を独自に改良したことで、現在の作業工程に落ち着いたのだそう。
最後に、チャイムに手が触れた時、けがをしないよう縁に面取りを施すなどしてチャイムを仕上げていきます。
日常に寄り添う世界にひとつだけの音色
「一つひとつ違う音を奏でるこのチャイムが、皆さんにとって癒される空間を提供する存在であってほしいと願っているんです」と柔らかい笑顔で話してくれた平井さん。マレットで優しく撫でたり、左右に揺らしてみたり。たくさんの美しい音色を紡ぐこのサヌカイトのチャイムは、ギフトや新築祝いなどにもぴったりです。日常に寄り添った、世界にひとつだけの音色をあなたに届けてくれます。
四国支部(香川県坂出市担当) / 山田 芽実(やまだ めぐみ)
香川で生まれ育ち、米国・京都・香川・東ティモールを経てまた香川の高松市在住。地元の「すてき」をゆるっとズバッと発見中。絵を描いたり、デザインをしたり、写真を撮ったりしています。
瀬戸大橋が架かる四国の玄関口・坂出市。多島美やのどかな自然に恵まれたこの街の魅力をお伝えします!