滋賀県のご当地富士「近江富士」のある野洲市
滋賀県の南東部にあり、琵琶湖に面する野洲市。まちのランドマークとも言われる三上山(みかみやま)は、そのなだらかな曲線から「近江富士」とも呼ばれています。下から眺めても美しいですが、はじめて登山をする人にとっても登りやすい山として、人気があるんですよ。
今回訪れたのは、そんな自然豊かな野洲市にある、国内初のクラフトミードハウスANTELOPE。ミードとは、はちみつと水だけでつくる醸造酒のこと。お酒好きな方はもちろん、普段あまりお酒を嗜まない方も興味がわく逸品です。
国内初のクラフトミードハウスANTELOPE
日本ではあまり聞きなれない「ミード」ですが、実は「世界最古のお酒」とも呼ばれるほど古い歴史があります。今も、アメリカには、ミードの醸造所が400以上も存在しているのだそう!そんなミードの魅力に惹かれたのが、ANTELOPE代表取締役の福井駿(ふくいしゅん)さんです。
福井さんは大阪大学工学部・大学院を卒業後、金融やクラフトビール会社での勤務を経て、谷澤優気(やざわゆうき)さんと共に2020年3月にANTELOPEを創業。「お酒でファンタスチックな縁を」をビジョンに掲げ、新しい製法を取り入れながらつくるミードを「クラフトミード」と定義し、さまざまなミードを世に送り出しています。
元々、クラフトビールの会社に勤めていた福井さん。お酒について学ぶ中、イベントに参加した際に出会ったのが、ミードでした。「初めて飲んだのは、国際ミード大会金賞をはじめ数々の賞を受賞しているアメリカの人気ミーダリー『Superstition Meadery』のミードです。はちみつ以外の副原材料として使われていたのは、2種類のカカオやベリー。このミードが今までに体験したことのない味わいで、ミード自体の面白さと可能性を感じました」。
実行するのは、再現性のあるものづくり
ミードの基本的な作り方は、とてもシンプルです。はちみつとお湯を混ぜた上で、酵母を投入。さらに、一定の温度を保つことで製造できます。ちなみに酵母が糖を食べて分解し、アルコールと二酸化炭素に分ける「アルコール発酵」の仕組みは、ミードだけでなく、ビールやワインの製造工程と同じです。
一見簡単そうに思えますが、うまく発酵するかどうかが腕の見せどころ。さらに、福井さんが意識しているのは、再現性のあるものづくり。「奇跡的においしいものができたとしても、2回目に同じことができるとは限りません。おいしくつくるための学びのプロセスは、徹底的に意識しています」と真剣な眼差しで語ります。素材を最大限に生かすための副原料を投入するタイミングや、醸造温度もそのひとつです。
まずは冷やして、はちみつ本来のやさしい甘さを堪能
では一体、どんな味わいなのでしょう。ミードは「ハニーワイン」とも呼ばれます。はちみつを使ったお酒と聞くと、甘いイメージが強いかもしれませんね。今回の返礼品である定番商品「 The Last Supper」は、白ワインのような上質な酸とはちみつ本来のやさしい甘みが感じられる一方、「What Churchill Said」は、ジントニックからインスパイアされた一品ということもあり、甘さは控えめ。ライムの程よい酸味は、揚げ物などの食事との相性も抜群です。
さらに、ミードをよりおいしく飲むためにはどうすればいいのか、たずねてみました。「おすすめは、冷蔵庫に7時間以上保管し、ワイングラスで飲むことです。香りが溜まるため、はちみつの香りを感じながら飲んでいただけると思います」と笑顔の福井さん。
もし一度に飲みきれなかった場合も、ご安心を。元々のフタまたはスパークリングワイン用の栓を使い、冷蔵庫に入れることで、1週間程度保存することができます。
「面白い」が、最大級の褒め言葉
ANTELOPEでは、今回の返礼品以外にも、副原料としてさまざまなスパイスや果実を使用したミードをつくっています。新商品は、醸造メンバー3人が会議・実験を重ねる中で生まれます。甘さ、酸味、香りなど、素材が際立つポイントを探しながら調整。完成品とのかけ合わせから、当たりをつけて、最終的に製品化を目指します。
福井さんには「おいしい」以上に嬉しい言葉がありました。「面白いという言葉を引き出せたら一番嬉しいですね。味覚はある種の好奇心。僕たちは、新しい味に触れて嬉しいと感じることを、知的好奇心になぞらえて『味(み)的好奇心』と呼んでいます。僕たちの味的好奇心からつくられたミードを通して、人の味的好奇心をくすぐりたいです」。
元・製パン工場の建物に一目惚れ、自分達でDIY
福井さんは滋賀県近江八幡市出身ということもあり、最初から、地元・滋賀県での起業を決意。物件を探す中で、出会ったのが現在の工場です。小学校に卸すための製パン工場として使われていた建物の無骨さに一目惚れ。オーナーさんの人柄も決め手となりました。工場の設営に関しては、電気や床の整備などの一部はプロに任せつつ、基本的に福井さんたちがDIYで担当。タンクの配管なども全て自分達でやり遂げています。
これからも滋賀で、ものづくりと場づくりを。
小中学生の頃は、とにかく外で遊ぶ子どもだった福井さん。滋賀で生まれ育ち、自然の良さを知った経験は、現在の趣味であるキャンプやアウトドア、登山にもつながっていると語ります。「滋賀県には、本当に何もない良さがある。これは、滋賀が誇っていいことだと思います」。
地元・滋賀で、地域に根ざした活動を続ける福井さんの夢は、80歳になるまで会社を続け、細く長くものづくりをしていくこと。人とのつながりは、人生を豊かにしてくれると実感する中で、今後はお酒の販売だけでなく、お酒と音楽があり、人が集まる場づくりを手がけていくことを目標に語ってくれました。
ミードという扉の先にある、新しい世界へ
私も、今回の取材で初めて「ミード」の存在を知り、実際に「The Last Supper」を購入。まず、グラスに注いだ瞬間の色の美しさにうっとり。一口飲んでみたところ、はちみつのやさしい甘さと、すっきりとした口当たりに思わず笑顔になりました。
福井さんの「一度飲んでもらったら、そこから面白い世界にご案内します」の言葉を思い出し、改めて納得。工場に足を運び、今度はグラスで飲み比べてみるのも楽しそうだと、ワクワクしています。
近畿支部(滋賀県野洲市担当) / 松岡 人代(まつおか ひとよ)
滋賀県甲賀市出身、在住。高知県・四万十農協広報勤務を経て、滋賀県へUターン。2015年よりフリーライターとして、WEBサイトやパンフレット等の掲載文章の取材・執筆を手がけています。外に出たことで滋賀の地域や人の魅力を改めて実感!
晴れた日の三上山の山頂からは、琵琶湖を望むこともできますよ。春には、近くの近江富士花緑公園でのお花見もおすすめです!