昭和34年設立のアナログレコードプレスメーカー
アナログレコードの最盛期は1970年代から1980年代にかけてのこと。ピークと言われる1980年にはレコードの生産額がなんと1812億円に達したそうです。「東洋化成株式会社」はレコードブームの到来より10年以上前の1959年(昭和34年)に設立されました。当時は全国各地にあったレコード製造工場ですが、その後CDの登場によるシェア減少に伴い工場はどんどん閉鎖され、東洋化成は「日本で最後」「アジアで唯一」のレコードプレスメーカーと言われていた時もありました。
取材をさせていただいた際、「CD製造の企業へと方向転換をしなかったのはなぜですか?」と伺ったところ、「レコードのオーダーがひとつでもある限りはつくり続けたい」という代表の想いがあったのだとお聞きしました。アナログレコードの受注が増加傾向にある現在、国内には3~4社ほどのレコード会社があるのだそうです。その中でも受注(営業)からカッティング、メッキ処理、プレス、仕上げ、出荷流通までを一貫して行っているのは東洋化成のみとのこと。設立から60年以上続くレコードプレスメーカーとしてのアナログレコードに対する想いや、その魅力を伺いました。
高技術力を要するアナログレコードの製造過程はカッティングから
アナログレコードは「カッティング」「メッキ」「プレス」の工程を経て出来上がります。製造に係わるどの工程にも熟練の職人技が必要となるのだそう。レコードファンならきっと誰もが一度は見てみたいカッティング作業中の様子と、プレスの工程を見学させていただきました。
カッティングはレコードの音を決める最も重要な作業となります。実のところ、カッティングマシンを扱うことのできる職人さんは国内に10人もいないのだそうです。東洋化成に在籍しているカッティングエンジニアさんは3名。今回はチーフカッティングエンジニアの西谷俊介さんにお話しを伺うことができました。
音源を確認し、レコードの原盤となる型材に溝を刻むカッティング。お話しを伺ってみると、溝を掘るという技術以上に、出来上がりの音色や音圧をできる限りアーティストがイメージするものに近づけるセンスとヒアリング力が必要なのだということがわかりました。さまざまな楽器や音響学の知識なども必要となりそうなカッティングエンジニアのお仕事は、誰にでも務まるわけではなく、そして一朝一夕に究められるものではない、まさに熟練した職人の技術なのです。
ちなみに上の写真にある1970年代のドイツ製カッティングマシンは、今なお現役で使われています。カッティングマシンは70年代~80年代に作られたのを最後に、現在は製造されておらず、今となっては機材のメンテナンスができる職人さんも貴重な人材なのだそうです。
塩化ビニールに、原盤を複製した「スタンパー盤」を使ってレコードを量産していくのがプレス作業です。プレス機によってどんどんレコードが出来上がっていくように見えるプレス作業ですが、こちらも機械任せなわけではなく、その日の気温などを見て微妙な調節が必要となります。製造工程を見学してみると、アナログレコードは一枚一枚、人が手をかけることによって出来上がっていくため、味わい深い音が生まれるのだな、と感じました。
たくさんの方に知っていただきたいアナログレコードの魅力
オンラインで気に入った曲を手軽に楽しめる現代において、あえてアナログレコードで音楽を聴くことを選ぶ方が増えているそうです。全盛期から40年以上経った今、増産傾向にあるアナログレコードの魅力とは何なのかを伺いました。
まずはアナログとデジタルの音の違いについて。人間の耳に聞こえる範囲の周波数(可聴域)以上の音が入っているデジタル音源と違い、比較的にアナログレコードの音は可聴域内で作られている物が多くあります。そのため、聴いていて疲れづらく、「耳に優しい」音だと感じるそう。
カッティングエンジニアの西谷さんは、「針を置くことによって音が出るアナログレコードは、目の前で音が鳴っているということを形として見ることができ、ライブのような感覚を味わうことができるのも魅力のひとつ」なのだとお話ししてくださいました。プレーヤーにレコードをセットし、針を置いて音楽を聴くという行為そのものも楽しむ時間は、心を豊かにしてくれそうです。
そしてもうひとつ。インテリアとして飾りたくなってしまうレコードのジャケットは、「モノとして音楽を所有している」と感じられるところも魅力なのだそう。「音楽を持っている」という感覚は、デジタル音源との大きな違いなのではないでしょうか。
これからアナログレコードを楽しんでみたいと考えている方へ
70年代から80年代にかけての全盛期だった頃を知る方にとっては懐かしく、初めて目にする世代にとっては逆に新しさを感じるアナログレコード。デジタルでは得られない、音楽とじっくり向き合うという体験を求めて、「これからレコードを聴いてみようかな」と考えている方へ、どんなプレーヤーがおすすめなのかを尋ねてみました。
レコードプレーヤーはピンキリで安価なものもありますが、長く楽しむためには針圧や水平のバランス、調整が可能なプレーヤーからスタートすると良いとのことです。価格だけで選んでしまうと、針飛びしてレコードに傷がついてしまうこともあるため、プレーヤーは吟味したいところですね。
そして、毎年4月に開催される「RECORD STORE DAY」や11月3日の「レコードの日」をはじめ、東洋化成では年間を通してさまざまなイベントを開催しています。限定版レコードの販売もあるそうなので、気になる方はぜひ足を運んでみてくださいね。イベント中はアナログレコードに精通しているスタッフさんから、おすすめの情報などをリサーチできるタイミングもあるかもしれません。
ワンタッチで聴けるデジタル音楽と違い、音を鳴らすまでに手間をかけた分だけ音楽に対する愛着がわくアナログレコードの良さを、今後、より多くの方に知っていただきたいな、と感じました。
ふるさと納税返礼品に出品しているのはどんなレコード?
東洋化成がふるさと納税返礼品に出品している商品は、「J-POP STANDARD JAZZ」と「周波数レコード」の2点です。「J-POP STANDARD JAZZ」には、誰もが耳にしたことがあるであろう日本を代表する名曲のジャズアレンジが合計8曲入っています。聴きなれたJ-POPミュージックも、ジャズアレンジされると一気におしゃれな雰囲気になるのが不思議なところ。まったりしたおうち時間のお供にいかがでしょうか。
「周波数レコード」とは、お手持ちのレコードプレーヤーを正常に作動させるための信号や、針の重さ、水平を保つチェック項目が入ったディスクです。周波数レコードでサウンドチェックをすれば、「良い音の基準」となるバランスのとれた音の再生が叶います。新しくレコードプレーヤーを購入した方にはもちろん、お使いのプレーヤーのチェック用としても活用していただけます。
アナログレコードを愛している方はきっと、針を置いてから音楽が流れるまでの時間も愛しいと感じるのでしょう。職人さんが一枚一枚気持ちを込めてつくるからこそ、「情感がある」と表現されるアナログレコードの音。みなさまもぜひ、生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
こだわりのポイントを紹介
熟練した職人がつくり出すアナログレコードで、デジタルにはない「あたたかい音」「耳に心地よい音」をお届けいたします。
私たちが作っています
国内に数えるほどしかいないカッティングエンジニアをはじめとし、貴重な技術を継承する職人が匠の技をもって、心を込めて製作にあたっています。
こんなところで作っています
創業者の出身地・横浜市鶴見区にあるアナログレコード製造工場にて、約100名のスタッフがカッティングからメッキ処理、プレス、仕上げ、出荷流通まで全ての工程を行っています。
この時期がおすすめ!
毎年4月に開催される「RECORD STORE DAY」や11月3日の「レコードの日」には、限定版のレコードの販売やオープンファクトリーなどの他、アナログレコードを楽しむ文化を身近に感じていただけるよう、年間を通してさまざまなイベントを企画しています。
私たちの想い
アナログレコードを通じ、針と溝との共鳴から成る感動的体感を、今後よりいっそう多くの人たちと共有していきたいと思っております。