自然と都市が調和する町・豊見城市
那覇市に隣接し、近年大型の商業施設やマンションなどが次々に建設され、目覚ましい発展を続ける豊見城市。海沿いには大きな公園が作られ、自然と都市が程よく調和した暮らしやすい町です。
沖縄県内では比較的“都会”な雰囲気が漂う町とはいえ、少し郊外に行けばまだまだ自然豊か。農作物の栽培も盛んで、マンゴーやトマト、さとうきび畑などがあちこちに広がります。今回の返礼品は、そんな豊見城市を代表する農作物の一つ、さとうきびの穂を使った染物「花穂染め」のネクタイです。
鮮やかなピンク色の花穂染め
花穂染めの最大の特徴が、さとうきびの葉の緑色とは全く異なる、はっと目を引く鮮やかなピンク色。その美しさや、穂を活用した珍しい染色方法などが評価を受け、平成19年に沖縄県推奨優良県産品に認定され、文部科学大臣表彰の創意工夫功労者賞も受賞しました。
花穂染めの繊維には発色の良い日本製の絹が使われているため、上品な光沢をたたえています。つややかな色味と質感を備えたネクタイは、ハレの日の装いにぴったり。パートナーや家族への記念日に、プレゼントとして買い求める方が多いのも納得です。
柄の種類が豊富なことも魅力。ペーズリー柄や花柄などの絹地の模様が、ネクタイに一層の華やかさと品を加えます。花穂染めは一本ずつ柄が異なるだけでなく、色味も少しずつ異なるのも大きな特徴の一つ。なぜ色の違いがでるのか?その理由を探るべく、花穂染めの工房を訪ねました。
花穂染めが沖縄で唯一作られている場所
県内唯一の花穂染め工房は、豊見城市内の「道の駅豊崎」構内にあります。「豊見城ウージ染め協同組合」が運営する工房は花穂染めの販売所も兼ねているのですが、暖簾をよく見ると、なぜか「花穂染め」ではなく「ウージ染め」という文字が…。
店内に入るとずらりと並んでいるのは、萌黄色の雑貨類。これらは全て、沖縄の言葉で「さとうきび」の意味を持つ「ウージ」の葉を使った「ウージ染め」と呼ばれる染物です。一方「花穂染め」は、さとうきびの穂の部分のみを使った染物を差しますが、ウージ染めの一種として考えられており、いずれも沖縄ではこちらの工房だけで作られています。
しかしこちらの工房は専門店にもかかわらず、花穂染めががほとんど見えないように感じられます。そのわけは、花穂の染料であるさとうきびの穂の収穫量の少なさにありました。
冬しか咲かないさとうきびの穂
ほぼ一年中青々とした葉をつけているさとうきびですが、穂が咲くのは12月~1月の冬季だけ。そのため、ウージ染めは一年中作ることができますが、花穂染めは限られた量しか作れず、商品数も少なくなります。その上、昨今のさとうきびの品種改良で、穂が咲かないさとうきびも増え、年々、穂が減少しており「花穂染め」は大変貴重な商品になっているのです。
12月に入ると、ウージ染め協同組合員総出で穂を摘みます。摘んだ穂はすぐに退色してしまうため、一気に染料を煮出し、染上げまで行わなければなりません。「毎年冬場だけの作業になるので、花穂染めを勉強するチャンスが少なくて毎回が修業です」と、ウージ染め協同組合の代表理事である玉那覇(たまなは)清美さんは言います。「ひと冬で3回ほど摘めますが、そのタイミングによってもさとうきびの種類によっても色味が違うので、穂を煮出したり染液につけたりする時間を、都度調整しながら作り上げます」。
限られた収穫量や時間のなかで、臨機応変に作り上げる花穂染め。材料が同じでも色味に違いが出るのは、その柔軟な製造方法にあるようです。さらにもう一つ、風合いの差を生み出す理由を玉那覇さんが教えてくれました。
自由な作り方が多彩な色味を生む
「ウージ染めも花穂染めも、近年開発された工芸品です。摘む作業から染める作業、織る作業に至るまで、作り手一人で全て行うので、難しい分、作る醍醐味をたっぷり味わえます」と玉那覇さん。
伝統に縛られないからこそ生まれた、花穂染めとウージ染め特有の風合い。このような新しくも魅力的な工芸品を世に広めたのは、織物を得意とする豊見城の一人の主婦でした。「さとうきびの幹が成長するために刈り取る『下葉』を活用して染物ができないか」と考え、平成元年、豊見城の商工会が行っていた特産品開発事業に応募。採用され、町ぐるみでウージ染めの特産品化に取り組むようになりました。
平成5年には商標登録が認められ、翌年には、技術者の養成と、商品を通した地域の活性化を目的に協同組合が設立されます。その後、徐々に作り手が増え、ネクタイやバッグなどの商品を展開。平成17年には地場産業の振興補助を受けたことから、かねてより実験的に行っていた花穂染めを本格化し、平成20年には「花穂染め」も商標登録することができました。
沖縄の優しさと温かさを首元に
現在22名いる作り手は、全員女性。もの作りが大好きな女性たちが、皆で意見を出し合い、切磋琢磨しながら、一つ一つ丁寧に作り上げています。「町でさとうきび畑を見かけると、『いい葉っぱだな、穂だな、欲しいな』とつい考えてしまいます。豊見城のさとうきび畑事情には詳しくなりました」と笑う玉那覇さん。
沖縄のいたるところで、さわさわと風に揺れているさとうきび。あの南国特有の濃い緑をたたえた植物が、ピンク色のネクタイに姿を変えるなんて誰が想像できたでしょう。豊見城の女性たちが丹精込めて作り上げた花穂染めのネクタイが、首元に、南国の温かさを運んでくれるはずです。
沖縄支部(沖縄県豊見城市担当) / 仲濱 淳(なかはま じゅん)
生まれも育ちも埼玉県。東京でテレビ制作会社、出版・イベント会社へ勤務するかたわら、海ナシ県で育ったせいか海への憧れが以上に強く沖縄病に罹患。沖縄の観光系企業への転職を機に13年前に移住し、Webマガジン、情報誌の編集を経て、フリーランスに。うちなーんちゅの夫と娘とともに、海がかろうじて見える那覇に住んでいます。
都市化が進む豊見城では、年々ウージは減少傾向にあるようですが、工芸品を通して、自然の大切さを感じていただければと思います。