100年先もおいしい宮島産牡蠣を届けたい「マルツ水産」
背後には標高596メートルの経小屋山(きょうごやさん)がそびえ、対岸に世界遺産・宮島を望む。そんな豊かな自然に恵まれた広島県廿日市市(はつかいちし)の海岸沿いに、牡蠣養殖を営むマルツ水産はあります。
養殖場は宮島周辺の海域。原生林から流れ込む栄養をたっぷり吸収した牡蠣は、殻がぷっくりと盛り上がり、身入りも抜群。宮島周辺の海域は塩分濃度が高いため、身がキュッと引きしまっているのも特徴です。
全て出荷当日に水揚げするので鮮度が違います。徹底した品質管理から生まれる極上の牡蠣を殻つきでお届けします。
水揚げしたらすぐ発送。だからとびきり新鮮
「うちの牡蠣は大きさよりも、鮮度、そして味にこだわっています」。そう、話すのはマルツ水産の販売責任者・寺西智和さん。創業以来50年、実直に牡蠣養殖業一筋に取り組んできた父の背中を見て育ち、自動車販売や不動産業でサラリーマンを経験した後、2010年に家業を継ぎました。
代表となってまず取り組んだのが、流通の見直し。当時は仲買業者に卸す流通システムが一般的でしたが、いち早く産地直送スタイルを導入。余分なコストを抑えつつ、水揚げしたばかりの新鮮な牡蠣をその日のうちに発送できる設備やシステムを整えました。
気候や海の状態を言い訳にしない
そしてもう一つ、ここ最近、特に力を入れて取り組んでいること。それは、牡蠣の品質をどの年も一定に保つということです。言うは易しですが、牡蠣の養殖は自然が相手の仕事。その年の気候や海域の状態が、牡蠣の身入りに大きな影響を及ぼすのは避けられない事実です。しかも近年は温暖化や大規模自然災害の増加など、生産者には厳しい状況が続いています。
それでも、「お客様には毎年、おいしい牡蠣を食べてほしい。だから、気候や海の状態を言い訳にしたくない」と、どんなときも常に最高の牡蠣を提供できるよう、力を尽くしているといいます。例えば、その年の海域の状況に合ういい種を探し、種苗も自社で行う。また季節や海の状態によって筏(いかだ)の位置をこまめに移動する。そんな幾多もの地道な努力を積み重ねることで、毎年、牡蠣の品質を維持しています。
美しい殻と身入りの良さ。その特別感の理由
牡蠣は広島のソウルフード。特に殻付き牡蠣は広島県民にとっても特別な存在です。おそらく他県の方よりも殻付き牡蠣を目にする機会は多いと思うのですが、マルツ水産の殻付き牡蠣を見た時、その身入りの良さと、殻の形や殻そのものがとてもきれいなことに驚きました。
寺西さんによると、この身入りと殻の美しさには2つのポイントがあるようです。
ポイント(1) ゆったりスペースで、のびのび育てる
まず一つは、9月頃、筏に吊るしていた牡蠣を引き上げ、一粒一粒殻付きにできるものを選別します。専用の機械で殻に付いたフジツボなどを丁寧に取り除いた後、専用のカゴに入れて海で1?2カ月程度蓄養するのですが、ポイントはその蓄養用のカゴに入れる牡蠣の数。
通常は一つのカゴにつき50個くらい入れるところを、マルツ水産では20個くらいに数を抑えて、カゴの中の水の通りを良くします。そうすることで身入りが良くなり、殻ものびのびと形良く大きく広がるのだそうです。
ポイント(2) 通常1回の洗浄を2回行う
そしてもう一つのポイントは、洗浄の質と回数です。
「9月に筏から引き上げた時にも殻の洗浄しているのですが、出荷直前にもう一度、フジツボなどをきれいに取り除き、マイクロオゾンを設置した専用の浄化プールで牡蠣を浄化します。ほどんどの業者さんが1回で済ませる殻の洗浄を2回行うことで、殻付き牡蠣の清潔感や美しさを大切にしています」
牡蠣のことを知り尽くす養殖業者おすすめの牡蠣メニュー
このように丁寧に育てられ、うま味がギュギュッと詰まったマルツ水産の殻付き牡蠣。通な食べ方を寺西さんにズバリ伺ってみました。牡蠣そのものの旨味を味わいたいなら、殻付きのまま焼いたり、蒸したりするのが一番とのこと。調味料は何もかけずに、レモンをキュッと絞るだけで牡蠣本来のうま味がぐんと引き立つのだそう。
そしてもう一つ。とっておきのメニューが「牡蠣すき焼き」。実はこれ、寺西家の定番牡蠣メニュー。コツは他の食材に少し火が通ったくらいのタイミングで牡蠣を投入すると、身が固くならず美味しくいただけるそうですよ。ぜひお試しあれ!
未来に残したい自然の恵み。そのために、今やるべきこと
「これからもずっとお客様に満足してもらう牡蠣を提供し続けたい」。そう語る寺西さんですが、近年の急激な環境の変化に危機感を募らせています。「特に海水温度の上昇は牡蠣の養殖に与える影響が大きいので、なんとかしなくてはと思っています。個人でできることは限られているけど、みんなと一緒にやればできることもあります」
寺西さんは新たに会社を立ち上げ「讃美牡蠣」というブランドで、牡蠣の加工品の製造・販売を開始。仲間を募り、売り上げたお金の数パーセントを、植林や海の清掃などの環境問題の取り組みに使う準備を進めています。「これからもおいしい牡蠣を届けるためには海と生産者を守らないといけない。そのためにやらなければいけないことはたくさんあります」。宮島の海を見つめるその視線の先は、はるか先の未来まで続いているようでした。
中国支部(広島県廿日市市担当)/ イソナガアキコ
広島県廿日市市在住。本とビールと、海が見える屋上が好き。少しゆるめの筋トレで心と体を鍛えつつ、瀬戸内のユニークなスポットと人をもとめて、自分史上最高にアクティブに稼働中。一次情報だけでなく、その奥・先にある魅力をお伝えできるような記事を心がけています。
海あり、山あり、世界遺産あり。
ほどよく街で、ちょっと田舎。
そんな廿日市の魅力をたくさんお伝えできたらと!