神戸で創業150年の洋家具の老舗
神戸は1868年の開港以来、おもに海外との交流によって発展してきた街です。コーヒー、ジャズ、ゴルフなどの新しい文化や習慣をうまく生活に取り入れて自分のものにする市民性は、令和の時代も健在。おしゃれに敏感な人が多く暮らす街には、さりげなくおしゃれなお店も多いのです。
今回の返礼品 “R.Nagata Slippers”を製作・販売する「永田良介商店」は、神戸でも特に異国情緒漂う「元町」に道具店を開いた1872年から、6代にわたり同地で商いを続けるオーダーメイド家具の老舗です。
家具店が手掛ける“世界に一足”のスリッパ
店内1階には、創業150年を迎えた永田良介商店が「世界に一足だけのスリッパ」として販売する室内履きスリッパがずらりと並んでいます。
洋家具店として椅子張りに使うファブリック(布地)には必ず余りが出ます。国内ではあまり流通していない色とりどりのファブリックをうまく活かして、暮らしをより豊かに彩ることができないか。そう考えた6代目・永田泰資(たいすけ)さんは、華やかで丈夫なファブリックと神戸のレザーを組み合わせた高級スリッパの製作に乗り出しました。
足が深く入って靴のようにフィット
まず、特徴的なのはその形。あくまでも室内履き専用ですが、足の甲をすっぽりと包み込む靴のような形をしています。一般的なスリッパには左右がなく、同じ抜き型を使って両足用のパーツを切り抜きますが、R.Nagata Slippers は靴と同様、左右が異なる型で作られているのです。
泰資さんがほれ込んだ「すばらしい腕を持つ縫製職人」が一足一足丁寧に縫製した後、革靴を作るように専用の木型に被せて形をなじませます。この工程によって、初めてスリッパに足を入れた人は驚くほど足にフィットすると感じるのです。
アッパーには神戸レザーを採用
アッパー素材に使うレザーは白と黒の2種類。使用する神戸レザー(KOBE LEATHER)は柔らかく、かと言って柔らかすぎず、履き始めからほどよく足に馴染みます。月日が経つことで履く人の足に寄り添うように伸縮し、徐々に変化するのが本革の醍醐味です。一方、足を入れる部分には伸びない素材を組み込んで、口が広がるのを防いでいます。
神戸ビーフの皮革「神戸レザー」とは
神戸レザーのもとになるのは世界に名だたる和牛・神戸ビーフです。兵庫県産の黒毛和種「但馬牛(たじまうし)」のなかで、歩留まりや肉質などの厳しい基準を満たしたものだけに、神戸ビーフの称号が与えられます。
その原皮を加工し、希少な神戸ビーフの皮革製品としてブランド化する動きに永田良介商店が賛同。2019年に設立された「神戸レザー協同組合」で、泰資さんは副理事長を務めます。
伝統のなめし技術でアップサイクル
組合では神戸レザーを認定し、シリアルナンバーを登録してトレーサビリティ(生産から流通までの履歴情報が把握できること)を確保します。神戸レザーの取り組みは、廃棄されていたものに新しい価値を加え、高級スリッパなどの魅力的な製品に作り変える、いわゆるアップサイクルの挑戦です。
牛の皮を加工して神戸レザーという皮革素材を生み出すのは、兵庫県たつの市のタンナー(皮なめし業者)です。たつのには1000年を超えると言われる革生産の歴史があり、現在も国内シェアトップを誇ります。先人から受け継いだ伝統と、事業者がイメージする色彩を実現できる最高峰の技術で、神戸レザーの高い品質が守られています。
インポートの椅子張り用布地をインソールに
アッパー素材のこだわりもさることながら、インソール(足の裏が直接当たる部分)の華やかさは洋家具店の老舗ならではのもの。R.Nagata Slippers のインソールに使うファブリックは、もともと永田良介商店が製作する椅子張り用に買い付けられたものです。
フルオーダーメイドで家具を作る永田良介商店にはフランス、イタリア、イギリスを中心とした世界の最高級ブランドからさまざまな色柄の上質なファブリックが集まっています。長く使うことを想定した椅子張り用の布は丈夫で心地よく、スリッパのインソールとしてもぴったりです。
椅子は「体に1番近い家具」だと泰資さんは言います。永田良介商店で椅子をオーダーする場合、まずはじめにサイズ計測用の椅子に座り、最適な背もたれと肘掛けの高さ、座面の高さと奥行きやクッションを決めるのだそう。そして、後ろの壁にかかった数え切れないほどの見本から、インテリアデザインや好みに合わせてファブリックを選ぶのです。
洋家具の老舗が提案するおうち時間
永田良介商店のスリッパはオーダーメイドではありませんが、いくら人気のファブリックであっても、同じ色柄のものを複数生産することはありません。つまり、家具と同じですべてが一点もの。それが「世界に一足だけのスリッパ」と呼ばれるゆえんです。
ソファの柄やよく身につけるパンツの色に合わせて、あるいはモノトーンのインテリアに映えるようにスリッパの色柄を選ぶと、おうちで過ごす時間をトータルコーディネートする楽しみも生まれます。これだ!と思って選んだスリッパがこの世に2つとないと考えれば、さらに愛着が湧くかもしれません。
スリッパは消耗品と割り切る人も多いなか、なぜこれほどのこだわりを詰め込んで「世界に一足だけのスリッパ」を作るのでしょうか。それは、明治時代に、商館(外国人居留地内の商業施設)で使われた洋家具の修理から事業を興した永田良介商店の根底に、良質なものを長く使ってほしいという思いがあるからです。
「うちは、一生使い続けたいと思ってもらえる、願わくば次の世代にもつながるような家具を提案してきました。自分たちが作ったものを修理し続けることもメーカーの責任。スリッパをきっかけに、家具にも興味を持ってもらえたら嬉しいですね。ただ、スリッパの修理には対応していないので、大切に使ってもらえたら」と泰資さんは話します。
あるだけで、暮らしを豊かにするスリッパ
一度試し履きをしたら、あまりの心地よさに、脱ぐのが惜しくなるスリッパ。インテリアにぴったりのファブリックを選んで、玄関に並べたくなるスリッパ。お世話になったあの人に、送りたくなるスリッパ。永田良介商店のスリッパで足元からちょっと豊かな暮らしを目指しませんか。
近畿支部(兵庫県神戸市担当) / 堀 まどか(ほり まどか)
兵庫県生まれ、在住。街と海と山の近さがお気に入り。通訳案内士(英語ガイド)として、また地域と観光を切り口にしたフォトライターとして西日本のおもしろさを伝えています。さまざまな地域の魅力を再発見する喜びをお宅の玄関先まで届けたい。そんな気持ちでナビゲーターを務めます。
私にとって神戸は海と山が近く、自然豊かなとなり町。海外文化を柔軟に取り入れて発展してきた食や音楽、街並みの魅力も尽きません。