標高300m、焼き物と高原のまち「信楽」
滋賀県最南端に位置する、滋賀県甲賀市信楽町。標高約300m、四方を山に囲まれた自然豊かなこの土地は、日本六古窯のひとつに数えられる信楽焼(しがらきやき)の産地です。信楽焼の特性として挙げられるのが、耐火性とねばり気の強さ、粗い土質です。箸置きや食器などの小さなものから、大きなタヌキの置物や風呂釜まで、幅広いサイズの焼き物をつくることができるのは、信楽焼ならでは。まちを探索すれば、さまざまな場所で信楽焼と出会うことができますよ。
今回紹介する返礼品は、甲賀市信楽町にある「明山陶業」の「信楽焼のごはん鍋」です。400年以上前から信楽の地で工房を営む窯元をたずねました。
創業1622年の老舗。信楽焼の窯元「明山陶業」
明山陶業の歴史は、約400年前までさかのぼります。江戸幕府二代将軍秀忠の命により、石野伊助が茶壺(腰白茶壺)を献上。「お茶壺師の称号を賜った」との文献は、今もなお大切に残されているそう。時代の流れと共に登り窯、電気窯、ガス窯と、燃料や窯の形状は変わりつつも、土や人のぬくもりを大切にしながら商品づくりと向き合う姿勢は、今もなお変わりません。
1980年には、明山陶業株式会社として法人化。この頃は、花器・花瓶を主力製品とし、下請けの仕事をメインに取り組んでいたそう。そして、2014年には、今回お話を伺った石野伸也さんが代表取締役社長に就任。これまでやりたかったことを実現したいと、ネットショップの開設や、ふるさと納税の開始、オリジナル商品の開発など、さまざまな取り組みを進めています。
お客さんの要望×自社技術=「ごはん鍋」誕生
ごはん鍋誕生のきっかけは、15年ほど前にお客さんから「土鍋でかんたんにごはんを炊きたい。4人分ぐらいまでの土鍋をつくってほしい」と言われたこと。花瓶や置物、食器をつくるための技術を活かし、現在の形状に行き着くまでにいろいろと工夫を重ねたそう。
「つくる段階で苦労したことや難しかったことを質問されることは多いですが、難しさを語るのはイヤなんです」と笑顔で話す石野さん。穏やかな物腰から放つその言葉には、プロとしての誇りがにじみ出ていました。
仕事場を見せてもらうと、整理整頓された中で、作業に取り組む職人さんの姿がありました。美しい仕事場は、丁寧な仕事にもつながっているのですね。
実際に土鍋を手にとってみたところ、見た目以上にスムーズに持ち上げることができました。土鍋の重さは、2.7kg。1.5Lのペットボトル約2本分ですが、取っ手の丸い部分が指にフィットすることもあり、体感的にはもっと軽く感じました。女性でも扱いやすい重さとサイズ感が嬉しいです。
土鍋の形状は、とてもシンプル。一般的には、圧力をかけるために重い内ぶたがセットになっていることが多いそう。一方、明山陶業の土鍋には、内ぶたがありません。軽量化に加え、毎日の洗い物がひとつ減るのは日常づかいする上でも嬉しいポイントです。
また陶器のもつ熱伝導スピードと保温性から、いきなり強火にかけることができるのも、土鍋の特徴です。かまどご飯を炊くときの歌、「始めちょろちょろ中ぱっぱ じゅうじゅうふいたら火を引いて 赤子泣いてもふたとるな」のように、最初に火加減調整をする必要もありません。
「耐火度の高い土ですから、そこまでシビアに火加減を気にする必要はありません。もうひとつこだわったのは縦長のフォルムです。お米が対流し、ふきこぼれを防いでくれる上、全体がムラなくふっくらと炊き上がるのも特徴です」と教えてくれました。
半永久的に土鍋を使うために、知っておきたい使用前後のコツ
土鍋が手元に届いたら、まずはおかゆを炊きましょう。洗ったあとは、しっかり水分を拭き取り乾かします。最初にやるべきことは、これでおしまいです。
ごはんを炊いたあとは、土鍋の中で保存せずにおひつやタッパーにうつすこと。土鍋ごはんの魅力とも言える、おこげ。もし土鍋の内側にご飯がこびりついたときも、水を張ってしばらく置いたあとにスポンジなどでこすれば、ほぼキレイにとれるそうです。
そして洗ったあとは、底面を上にして十分乾かしましょう。「使ったあとは、水分を残さずしっかり乾かすこと。これは土鍋に限らず、陶器全般に言えることです。覚えておいてもらえると、お気に入りの陶器も長く使うことができますよ」と石野さん。
もしひびが入った場合は、再びおかゆを炊くとでんぷん質がスキマに入り、ひび部分を埋めてくれるのだそう。自分でメンテナンスすることで、より一層いとおしさが募りますね。また、本来、炊飯ジャーの内釜は消耗品ですが、土鍋は割らなければ半永久的につかえるところもポイント。落として割ってしまった人向けに、ゆくゆくは、ふただけの販売も考えているそうです。
信楽の魅力をより発信できる場所へ
明山陶業の実店舗「Ogama」では、商品を手に取って購入できるギャラリー、信楽探索の際に休憩できるカフェ、信楽焼の陶芸体験と3スポットが集まり、国内外の観光客からも人気です。私も何度も訪れたことがありますが、いつもゆったりとした幸せな気分になれるため、おすすめの場所です。
実店舗のオープンで大きく変わったのは、お客さんの声を直接聞く機会が生まれたこと。下請け時代には聞くことがなかったお客さんからの声が届き、職人さんからも「励みになる」との声が上がり始めたといいます。
「僕が社長に就任してから、いろいろな人材が集まってきてくれました。目指しているのは、ものづくりだけじゃなく、信楽の素材の魅力を発信できる会社。地域産業で突き抜けていくためには、若い人の力が必要です。実際に足を運び、気に入ってくれた方の移住も大歓迎です」と、力強く語る石野さんの言葉が印象的でした。
明山陶業では2022年夏オープンに向けて、1棟貸し切りの民泊準備も進めており、今回紹介した返礼品の土鍋を使って、自分たちでご飯を炊くこともできるのだそう。信楽焼をつかう、信楽の“ふつう”の暮らしを、旅行者も楽しめる場所のオープンが楽しみです。
日常でかんたんに「特別感」をもたらしてくれる土鍋
自宅でも毎日土鍋をつかってごはんを炊いている石野さん。テーブルの上に土鍋を置き、ふたをとった瞬間は、今も、嬉しくなるといいます。視覚や嗅覚に訴えるアイテムとして、土鍋に勝るものはないのだとか。「最初は、ハードルが高いと思う人もいらっしゃるかもしれません。でも、使い始めたら、意外と、日常生活にすぐとけこみますよ」
毎日使うものだからこそ、軽量で手軽に扱える土鍋はとても魅力的。水加減や蒸らし時間をアレンジして、自分好みの炊き方を追求できるのも、土鍋ならではのポイントだと感じました。白ごはんや炊き込みごはんはもちろん、スープやシチューなどさまざまな土鍋料理をぜひ楽しんでみてください。
中部支部(滋賀県甲賀市担当) / 松岡 人代(まつおか ひとよ)
滋賀県甲賀市出身、在住。高知県・四万十農協広報勤務を経て、滋賀県へUターン。2015年よりフリーライターとして、WEBサイトやパンフレット等の掲載文章の取材・執筆を手がけています。外に出たことで滋賀の地域や人の魅力を改めて実感!
信楽には、信楽焼のほか1200年以上の歴史を持つ朝宮茶やローカル電車「信楽高原鉄道」など魅力がいっぱい。信楽駅前のタヌキも必見です。