地元の人でも並びたい、鎌倉のやみつき麻婆豆腐
「鎌倉にうまい麻婆豆腐の店があるよ」。私がかかんの名を知ったのは、鎌倉に越してきて間もなくのことでした。地元の美容師さんに「並ぶと思うけど、ぜひ食べてほしい」と太鼓判を押されたのが、かかんの麻婆豆腐だったのです。
東京から電車で1時間ほどの鎌倉は、海あり山ありお寺ありの観光資源豊かな街で、週末ともなるとたくさんの人が訪れます。飲食店の数も多く、レベルも高いこの鎌倉で、名物のシラス丼でもお抹茶でもなく麻婆豆腐に行列ができるなんて。最初は不思議な気持ちでしたが、一度食べに行ってみるとコロッと納得してしまいました。あぁ、この前食べたばかりなのに、もうあの麻婆豆腐が食べたい!
お店の味をおうちで楽しめる麻婆ソース
麻婆豆腐への想いを募らせながらも、店の前にズラリと並ぶお客さんを見ては「いつでも来れるからまた今度」と再訪を先送りにしていたところ、鎌倉駅から由比ヶ浜の海を結ぶ通りの一等地に「みやげ屋かかん」がオープンしたことを知りました。
みやげ屋かかんでは、麻婆豆腐やよだれ鶏など、かかんで食べられるさまざまなメニューをおうちで簡単に再現できるソースや材料を販売しています。なかでも人気の看板商品が、返礼品にもなっている「かかんの麻婆ソース」です。
なぜこのような家庭用ソースをつくることになったのか、みやげ屋かかんマネージャーの大場みどりさんにお話を伺いました。
ソース誕生の後押しは地方のファンの声
「私たちは現在鎌倉市内に2店舗、東京・富ヶ谷に1店舗を構えています。店舗は関東だけですが、以前から全国各地の音楽フェスやフードフェスに積極的に出店してきたので、実はかかんのファンと言ってくれるお客さまは全国にいらっしゃるんです。遠方のお客さまからは『鎌倉にはなかなか行けないけれど、家でもこの味が食べられるようなソースがほしい』という声をよくいただいていました」
ファンたちの熱い声に後押しされ、麻婆豆腐のソース販売に乗り出したかかん。最初は店舗でひとつひとつソースを手づくりし、パウチに詰めて発送していました。それもすぐに売れてしまい、生産が追いつかなくなってしまいます。「もっとたくさんの人の手に届けたい」、その想いで信頼できる工場を探し、何度も試作を重ね、ようやく商品化に至ったのが、この麻婆ソースなのです。
味の決め手は秘密の「合わせジャン」
この麻婆豆腐はもともと、オーナーの小嶋さんとシェフの小出さんが営んでいたビストロ「カジェヘロ」のメニューのひとつでした。しかしあまりに人気だったため、「これを看板メニューに店をつくってみよう」とお店をつくり変えたのが、かかんのはじまり。いわば、かかんより先にあったのがこの麻婆豆腐なのです。一度食べた人を虜にするその秘密はなんなのでしょうか?
「なんといっても味の決め手は独自の合わせジャンです。いろんなスパイスを使うことでコクと深みを出しています。よくお客さまからは『中毒性のある麻婆豆腐』と言われますね」
味の決め手の合わせジャン。やはり製法は企業秘密……?「残念ながら企業秘密です。ひとつ言うなら、油のうまみがすごくあると思います。油の試食をしたときに『この油だけでご飯が食べられるね!』と驚いたほどです。素材選びには相当こだわっていますね」。たしかにかかんの麻婆豆腐は油の甘みが豊かに感じられます。見た目は赤いですが、激辛という辛さではなく、家族みんなで楽しめる味です。食べる人を限定しない懐の広さも、人気の秘密なのでしょう。
人にあげたくなる、ユニークなパッケージ
もうひとつ、この麻婆ソースの魅力が、ゆるっとした中華風のユニークなパッケージ。こちらのイラストを手がけているのは鎌倉在住のアーティスト、横山寛多さん。
かかんの麻婆豆腐の味を知らない人でもちょっと気になり手に取ってしまうパッケージの魅力もあり、この麻婆ソースは贈り物としても人気があるのだそうです。
麻婆ソースだからできる自宅アレンジメニュー
最後に、自宅で調理できる麻婆ソースを使うからこそできる、おすすめのアレンジメニューを大場さんに伺いました。「定番ではありますが、素揚げしたナスと絡めて麻婆ナスにするのがオススメです。あとは、豆腐を厚揚げ豆腐に替えるとおつまみ的に楽しめる一品になります。冬だったら、白子や牡蠣を入れて作るのもいいですね」
さっそく自宅で麻婆ナスをつくってみました。油をたっぷり吸ったナスのジューシーな甘さと、ピリ辛な麻婆ソースとの組み合わせが最高! お店では麻婆ナスは食べられないので、こういったアレンジメニューが楽しめるのは自宅調理ならではですね。
全国のかかんファンの家庭の味へ
「すみません〜、麻婆ソース2つください。あ、あと豆腐も」。取材中も多くのお客さまが訪れる「みやげ屋かかん」。しかし、だれもがサッと目的のものを買って帰っていきます。店頭で悩んでいるお客さまがいないのです。「ありがたいことに、『みやげ屋かかん』はご近所のリピーターのお客さまがとても多いです。私たちも日常的にかかんの味を食べてほしいと思っているので、多くのみなさまの食卓の定番になれたらうれしいですね」
かつては、鎌倉という地の「旅先の味」であり、地元の人だけの味だったかかんの麻婆豆腐。麻婆ソースの誕生を受けて、これからは全国のかかんファンの「家庭の味」になっていくのかもしれません。
写真/早渕智之
関東支部(神奈川県鎌倉市担当) / 宮島 麻衣(みやじま まい)
フリーの編集者・ライター。かつては東京の出版社勤めでしたが、30代に入り、取材で訪れたタイ・バンコクに強く惹かれ移住。タイでの生活の中で「人生において暮らす場所を自分で選ぶことは大切」と実感。帰国後は神奈川県・鎌倉市に在住。たくさんの人が笑顔で歩いている観光地での生活にパワーをもらっています。地元は長野県上田市。山に囲まれているととても安心します。
海、山、歴史がある街・鎌倉。こだわりのある個人経営のお店が多く、小道を歩くのも楽しい街です