心洗われる風景が広がる渡良瀬遊水地
栃木市南部に位置する旧藤岡町の見どころは、なんといっても広大な面積を誇る渡良瀬(わたらせ)遊水地です。栃木、群馬、埼玉、茨城の4県にまたがる日本最大の渡良瀬遊水地の70%以上を栃木市が占めており、2012年には湿地を守るためのラムサール条約に登録されました。ハートの形をした谷中湖、どこまでも続くヨシ原。遊水地ならではの心洗われる風景が広がります。
遊水地から車で約10分、静かな住宅街に佇むのがイタリア料理のお店「和クォーレ」です。店に40台ある駐車場が週末には満車になるほどの人気を集めているのが、返礼品にもなっている同店のピザ。お店にお伺いして、その魅力をお聞きしてきました。
世界で活躍するピザ職人が営むイタリアン
お店に伺うと、意外にも建物は和風の造り。一見すると和風レストランです。「父がそば屋をやっていた店舗を10年ほど前、イタリアンとしてオープンしました」と話すのは、オーナーの赤荻一也(あかおぎかずや)さん。実は、この赤荻さんこそ、和クォーレのピザを有名にした立役者。日本のみならず、世界で活躍する「ピザ職人」なのです。
人の喜ぶ顔が見たい。その一心で世界大会に挑戦
専門学校を卒業後、イタリア料理のお店に勤めていた赤荻さん。イタリア人がピザ生地を回しているポスターを目にし、見よう見まねでピザを回したところ、お客の子どもたちが目を輝かせて喜んだそうです。「人が喜ぶってことは実は自分が感動すること。じゃあ、やってみようってその時にスイッチが入りましたね」
2005年、軽い気持ちで世界大会に挑戦。ところが、世界と自分のレベルの差をまざまざと見せつけられました。それからは寝る間を惜しんで特訓の日々。「自分は若い頃、はみ出し者でした。もし自分が世界で優勝できたら、自分のような人たちの励みになれんじゃないかな…」心が折れそうになる赤荻さんを突き動かしたのは、そんな想いでした。
ようやく結果が出たのは2008年。イタリアのピザ世界大会で7位に入賞すると、翌年から2013年はアメリカのピザ世界大会の競技部門で5連覇、2013年にはチャンピオンズリーグで優勝するなど、世界の頂点へと上り詰めます。しかし、そんな赤荻さんに新たな壁が立ちはだかります。
「これまで出場した大会はアクロバティックな技術が求められたため、『単なるパフォーマンス』という厳しい声もあって。だったら料理でもきちんと認められる資格を取ろうと思いました」と赤荻さん。2012年に歴史と伝統のあるイタリアのPIZZA料理スクールで、2014年にはピザ職人の専門学校でそれぞれ講師の資格を取得。イタリアで講師やピザ大会の審査員を務めるなど、ピザ職人としての確固たる地位を築きました。
緻密さと感性が融合した、こだわりのピザ生地
赤荻さんが作るピザは、緻密さと感性が融合した「自家製生地」が要。生地は4日間発酵させて5日目に使用し、クリスピータイプのローマ風ともちもちしたナポリ風では配合も焼き時間も温度もすべて変えています。生地を手で回す「フライング製法」も、「15秒ぐらい回すのがベスト。長く回すと風味が飛んでしまいます」と赤荻さん。
生地の作り方や焼き方から伝わる、ピザへの情熱
お話をお聞きした後、赤荻さんにピザ作りを実演していただきました。丸い玉が赤荻さんの手にかかると瞬く間に伸びてピザ生地に変身。その手さばきは「お見事!」の一言で、お客さんが歓声を上げるのもうなずけます。具材を載せたピザを窯へ入れ、1分ほどで完成です。
早速、試食してみると…生地がさくっとした口当たりなので、チーズやトマトソースの存在感が際立ちます。「切り分けたピザを手に持った時に生地が折れないでしょ? 均等に焼かないとこうならないんです」と赤荻さん。生地の作り方、伸ばし方、焼き方から、ピザへの情熱がひしひしと伝わってきました。
固定観念にとらわれない新しいピザの世界を発信
栃木県のとちぎ未来大使であり、栃木市ふるさと大使でもある赤荻さんは今、栃木市の魅力アップのために奔走しています。この夏リニューアルオープンする東北自動車道佐野サービスエリアのカフェを全面的にプロデュース。栃木市のフルーツコンテストで準グランプリを獲得した、ピザ生地を使った「いちご入とちぎまんじゅう」や日光名物のらっきょうを使ったピザなどを提供する予定で、「固定観念にとらわれず、もっと自由にピザを楽しんでほしいですね」と意気込んでいます。
クォーレは「心」。それが原点であり目指すもの
店名の「クォーレ」はイタリア語で「心」という意味です。ピザを回して、喜んでくれた子どもたち。その姿が、これまで走り続けてきた赤荻さんの原点であり、これから目指すものでもあります。
その「心」を映す一例が店のメニューにもありました。イタリアンの文字の横に並ぶのは、うどんやそば。元々、そば店だったこともありますが、赤荻さんの「おじいちゃん、おばあちゃん向けのメニューがあれば、三世代で楽しんでもらえる」という思いを具現化したものです。世界で活躍するピザ職人が作る一枚のピザ。そこには熱い思いとホスピタリティが詰まっていました。