巴波川を利用し商都として発展した栃木市
栃木県南部に位置する栃木市は、幕末期から昭和初期にかけて市の中心を流れる巴波川(うずまがわ)を利用した舟運により、北関東の商都として発展しました。現在も巴波川周辺には白壁の土蔵や黒塗りの見世蔵といった歴史的な建造物が数多く点在。“蔵の街” としてにぎわっており、江戸情緒たっぷりの街歩きが楽しめます。
革を知り尽くした老舗メーカーが手掛けるトートバック
巴波川の地域とともに時代を歩んできたのが、創業時の製法を守り続ける皮革製造の老舗メーカー「栃木レザー株式会社」。返礼品の「2way Tote bag」は革を知り尽くした栃木レザーが革の魅力を最大限生かしたオリジナル商品です(左がラージサイズ、右がミディアムサイズ)。
このトートバッグは植物由来の「ベジタブルタンニン鞣(なめ)し」によって作られており、自然の風合いや上質な肌触り、つやを抑えたマットな質感が特徴。肩掛けもできる2wayタイプで、どんなシーンにも似合う飽きのこないシンプルなデザインです。動物の皮を革へ加工する業者、“タンナー”である栃木レザーがこだわり続ける「ベジタブルタンニン鞣し」とはいったい、どういう製法なのでしょうか。栃木レザーの工場を訪ねました。
当時のままの製法を今に受け継ぐタンナー
栃木駅から徒歩10分。巴波川沿いにあるのが昭和12年創業の栃木レザー株式会社です。平面の大きな工場では今もなお、当時のままの製法で革が作られています。早速、同社代表取締役の遅澤敦史(おそざわあつし)さんに工場を案内していただきました。
まず、驚いたのは工場の広さです。迷子になりそうなほど広く、一つひとつの機械も巨大。しかも、どれも年季が入っています。大きなドラム式洗濯機のような機械が勢い良く水を吐き出している光景に圧倒されていると、「まずは原皮を水洗いして、皮に水分を戻しているんです」と遅澤さん。この後、洗った皮を石灰に浸けて脱毛し、余分な脂肪や汚れを取り除く作業を経たら、いよいよ「ベジタブルタンニン鞣し」の工程です。
革本来の風合いを保つ「ベジタブルタンニン鞣し」
鞣しとは、腐敗の原因となるたんぱく質や脂肪を取り除き、柔軟性・耐久性をもたせる加工技術のことで、「皮」が「革」へ変わる重要な工程です。近年は、薬品を使い、効率的かつ経済的に行う鞣しが主流になっていますが、栃木レザーでは手間をかけて行うベジタブルタンニンを頑なに守り続けています。「皮に負荷やストレスを与えないよう、天然成分を使って時間をかけて鞣していくことで、皮の繊維にしっかりとタンニンが絡みます。そうすることで、繊維が強固になり丈夫な革に仕上がりますし、革本来の風合いや美しさが保たれます」と遅澤さん。
栃木レザーの要ともいえる鞣しのブースにずらりと並んでいるのは、鉛色のタンニン液が入った槽。「ミモザの木の皮を砕いた粉と地下水のみ」の天然由来の植物タンニンを使い、濃度の薄いタンニン槽から濃いタンニン槽へと順に皮を漬け込んでいきます。タンニンも長年、継ぎ足しながら使っているそうで、タンニン色に染まった槽や機械類が歴史を物語っています。
鞣しの後は、洗浄や乾燥などの工程を経て仕上げます。一般的に、薬剤などを使った最新の方法なら約3日で革に仕上がるそうですが、栃木レザーが一枚の革を完成させるまでに費やす時間は、なんと3カ月。しかも、染色など追加の工程を入れると完成までにプラス3カ月。遅澤さんは「ゆっくり、じっくりと時間をかけることで、その分、長く使えるものになるんです」と話します。
栃木レザーの品質を支える職人の研ぎ澄まされた感覚
鞣しや乾燥、革漉(す)きと、それぞれの工程では経験と技術を持つ職人たちが作業にあたります。「最低限のルールはありますが、細かなマニュアルはありません。あとは目で見て、触って覚えます」と遅澤さん。タンニンが浸透しているかどうか、自然乾燥がしっかりできているかどうか。すべて目で確認し、触って確認する。こうした職人の研ぎ澄まされた感覚が栃木レザーの品質を支えているのです。
創業以来、初めて手がけたオリジナルブランドのトートバッグ
返礼品のトートバッグは、同社が創業以来、初めて手がけたオリジナルブランド「nogake」の商品です。これまで、“素材屋”一筋でしたが、かねてから商品化を望む声が多く寄せられていたため、委託製造という形でnogakeシリーズを発売しました。
「トートバッグ」は、栃木レザーが開発した「nogake smooth(ノガケ・スムース)」というオリジナルレザーを使用。オイルを浸透させて、しなやかさを持たせ、つやを抑えたマットな表情のバッグです。
また、型崩れすることなく「立つ」ことも大きな特徴です。「丈夫でしっかりと作られた革だからできたこと」と遅澤さん。これこそ、素材屋としての自信の表れです。
“本物の革”の魅力を伝えるアンテナショップ
せっかくなら、商品化された栃木レザーを見てみたいと、2020年にオープンした駅前の直営店を訪ねました。「栃木に会社を構えて90年。これまで支えてくれた栃木市に恩返しを」という思いでオープンしたショップには、nogakeシリーズをはじめ、栃木レザーを使ったメーカーの財布やバッグ、小物類など、さまざまなアイテムが並んでいます。どの商品にも共通しているのはレザーの豊かな風合いと上質感。革本来の美しさ、魅力を余すところなく伝えてくれるショップです。
完成度は80%。使う人の手によって100%へ
皮から革へ3カ月、染色などで3カ月。さらに製品に仕上げるために日数を重ね、多くの職人の手によって完成するトートバッグ。手に取ると、上質な光沢、なめらかな肌触り、風合い、本物の革の美しさ、力強さが伝わってきます。
これほどの手間と時間をかけて仕上がるバッグですが、遅澤さんからは「我々が仕上げる革は80%の完成度」という意外な言葉が。残りの20%は?との問いかけに、「それは、お客さま自身です」ときっぱり。「使うほどに革本来の油分がにじみ出て色つやが増し、深みが出てきます。そんなエイジング(経年変化)が楽しめるのも、栃木レザーの魅力だと思います」
エイジングが楽しめる、一生モノのバッグ
新品でこれほど美しいバッグが、使い手によってさらに深い味わいを醸していく…。使う人によって100%の完成度を迎えたバッグはどんな表情をしているのでしょうか。職人の手間と思いが込められたトートバッグは、一生付き合っていきたいと思わせる逸品です。
関東支部(栃木県栃木市担当) / 斎藤 里香(さいとう りか)
群馬県桐生市在住。北関東と埼玉を中心に取材・執筆活動をしています。一番、大切にしたいのは、人々の「思い」です。いろいろな「コト」や「モノ」に携わっている人々の“代弁者”として、頑張っている姿、その根底にある思いなどを多くの人たちに伝えることができたら嬉しいです。
久しぶりに訪れた“蔵の街”は、とてもおしゃれに変身していました。柳がそよぐ巴波川沿いを歩けば、江戸情緒をたっぷり感じることができますよ。