のどかな田園風景の中に佇む、看板のない名店
栃木県南部に位置する栃木市に2010年の合併によって仲間入りした旧藤岡町は、渡良瀬川、思川、巴波(うずま)川をはじめ、ラムサール条約の登録地である渡良瀬遊水地などを有する水に恵まれた地。その巴波川のほど近く、古くは高瀬舟の船着場としてにぎわっていた場所に、うなぎ料理専門店「せしも」があります。といっても通りに看板はなく、田園風景と同化するように佇んでいるため、ここがうなぎの名店だと気づく人はほとんどないでしょう。
全国でも限られたお店でしか味わえない「共水うなぎ」
その名店でいただけるのが、返礼品にもなっている「共水(きょうすい)うなぎ」のかば焼きです。共水うなぎは“幻のうなぎ”“美肌うなぎ”とも呼ばれ、全国でも約40軒のうなぎ店でしか食せない、貴重なうなぎ。返礼品はお店で提供するかば焼きを瞬間冷凍して、真空パックしているので、お店の味がそのまま味わえます。
一口ごとに広がる極上の甘みとうまみ、ふっくらとした食感…通をもうならせるという「せしも」のかば焼きの味は、どうすれば引き出せるのでしょうか。そこには、店主・瀬下知也(せしもともや)さんの並々ならぬ思いとこだわりがありました。
世界を巡り、たどり着いたのは幼少期の記憶と香り
代々、川魚屋を営んでいた「せしも」。現店主・瀬下さんも自然の流れで跡を継ぐと思いきや、なんと12年間、スキーを通じて世界中を旅したそうです。各国の食文化に触れ、改めて日本の食の豊かさを再確認した店主。そこで、脳裏によみがえったのが「うなぎの香り」でした。
「うなぎ職人だった父は、乗用車でうなぎを配達していました。僕にはそれがスーパーカーのように見えてかっこよかった。いつか父みたいになりたいと思っていました」と店主。その原風景と同時に店主の記憶に焼き付いていたのが、焼き立てのうなぎの香りでした。うなぎの名店で修業後、その香りを求めて全国のうなぎを取り寄せて試食した結果、「共水のうなぎ」にたどりつきました。それこそ、幼いころに憧れた、父の白焼きの香りだったのです。
たっぷりの手間と愛情をかけて育てられた、幻のうなぎ
幻とまでいわれる「共水うなぎ」は、静岡県・大井川の伏流水(ふくりゅうすい)を使って自然に近い環境を作り出し、平均18ヶ月という長い時間をかけてうなぎにストレスをかけないよう育てています。「短期間で大きく育てるのではなく、じっくりと育てることで旨味が凝縮されるんです」と店主。きれいな水、厳選された餌、換水や掃除といった日々の世話……。たっぷりとかける手間と愛情が「共水うなぎ」を育むのです。
貴重なうなぎの味をさらに高めるのが、職人技
この貴重なうなぎをさらに磨き上げるのは、店主の腕。東京・麹町の名店で修業した店主が、うなぎをきれいにさばいていきます。「うなぎの身は白いキャンパスと同じ。さばいた身がきれいなら、タレも美しく乗りますよ」と店主。
続いて、「串打ち8年」といわれる、うなぎの身に竹串を打つ作業。身の厚さは部位によってそれぞれ異なりますが、厚みの中心に串を打っていくことで、白焼きやかば焼きにした時に身がくずれにくくなるそうです。熟練の技が求められますが、店主は見事な手さばきで串を打っていきます。
仕上げは「焼き」。「焼き一生」といわれるように、味を左右する重要な工程です。見ると、炭火の上で焼かれるうなぎの身が次第にぷっくらとして…脂が浮き出てポタポタと滴り落ちています。その脂の多さに驚かされますが、これも共水うなぎの特徴。約25分間蒸し上げた後、店主が手早く焼きながら3度ほどタレにくぐらせると、ツヤツヤと輝くようなかば焼きが完成しました。「蕎麦と同様、うなぎも『さばき立て』『蒸し立て』『焼き立て』の“三立て”が、おいしさの基本です」と店主。
ひと口ごとに旨味が広がる、まさに別格の味わい
上質な脂とタレが融合した見事な照り。そして、香り。まさに別格という言葉がふさわしいかば焼き。もちろん、味も別格です。ふっくらしているのに、しっかりとした食感があり、驚くほど臭みがないのも清流で育てられた共水うなぎならでは。「一番の特徴は甘みかな。身も脂も、本当に甘いんです」と店主。
たまたま、居合わせたお客さんの声を聞いてみると…「今まで食べたことのない味」「タレが控えめで、うなぎ本来のおいしさが味わえるんです。素材に自信がある証拠ですね」と大絶賛。何より、大満足の表情が、その味の素晴らしさを物語っています。
料理は人。幻のうなぎに込められた、店主の思い
「料理は人。料理には作る人が映し出される」という店主。だからこそ、店主が大切にしたいのは「食べる人のことを考えて、誠心誠意尽くすこと」。お店が完全予約制なのも、誠意を尽くしたいから。食べる人のことを思い浮かべて、ひと串、ひと串打つそうです。それからタレに使う醤油などの調味料、栃木産のお米、焼きに使う備長炭など、素材一つひとつに妥協しないのもすべて「誠意」の表れ。
共水うなぎをはじめとする厳選素材、そして店主の技、愛情という粋が結集してこそ、「せしも」のうなぎが完成するのです。
こんなところに本当にお店があるの?と思わせる場所に、ぽつんと佇む「せしも」。実は、この場所で営むことも店主のこだわり。「美味しさは人それぞれ。自分が求めているのは『自分らしい味』です。それは、都会の雑踏で似合う味ではなく、のどかで穏やかな風景にこそ似合う、優しい味なんです」
栃木市藤岡町の美しい田園や清流から生み出される“味わい“が、返礼品にもなっているかば焼きの美味しさをより引き立てるベースとなっているのです。