福岡生まれのフランス菓子「ダックワーズ」
サクッとした歯触りのあと、しっとり柔らかな食感、そしてアーモンドの香ばしさがほんのりと香る「ダックワーズ」。独特の食感が特徴的なダックワーズは、全国の洋菓子店でよく見る定番の焼き菓子ですが、実は日本生まれのお菓子ということを皆さんはご存知でしょうか。
ダックワーズが生まれたのは、福岡県福岡市。評判となったその味は、福岡から全国へ広がり、今や洋菓子の本場・パリでも愛される焼き菓子です。今回の返礼品は、日本生まれのフランス菓子・ダックワーズを、発祥店「フランス菓子16区」からお届けします。
日本の洋菓子界をけん引してきた「フランス菓子16区」
福岡の高級住宅街・浄水通りのそばにある「フランス菓子16区」。平日も行列ができる、福岡県下有数の人気洋菓子店です。ショーケースには、看板商品のダックワーズはもちろん、定番のモンブランをはじめとした生菓子や春のフルーツをたっぷり使った季節限定菓子などがずらりとならび、開店と同時に売れていきます。
ここで1981年の創業以来、オーナーシェフを勤めるのは三嶋隆夫(みしまたかお)さん。「自分が作ったものは、自分の目が届く範囲で」をモットーに、どんなに人気店になろうとも多店舗化することなく、店を営んできました。ダックワーズの生みの親であり、その功績が評価されて2015年に黄綬褒章(おうじゅほうしょう)を受章。日本の洋菓子界をけん引してきたパティシエです。
大学卒業後、洋菓子の道へ進み、憧れのヨーロッパへ
三嶋さんは、大学卒業後、帝国ホテルに入社したことから菓子職人としての道を歩みはじめ、経験を積んだのち31歳で渡欧しました。最初はスイスのルツェルン、そしてフランスのニースへ。しかし、当初、イメージしていた華やかな仕事ではなかったそう。
ギャップに悩み、ついにストレスで体を壊してしまったことがきっかけとなり、気持ちを一新。「自分はお菓子をみたこともなければ、触ったこともない。何も経験がないという、まっさらな気持ちで取り組もうと決めて、パリを目指したのです」。こうして、パリの洋菓子の名店「エルグワルシュ」で働くことになった三嶋さん。「オーナーシェフ自らが市場を尋ね、フレッシュな素材を仕入れて菓子作りに励んでいました」。そう教えてくれたエルグワルシェのシェフの姿は、全国の生産現場を巡り、生産者から直接話を聞いて、納得がいった食材のみを仕入れるという、今の三嶋さんに重なります。
パリの高級住宅街16区にある洋菓子店でシェフに
エルグワルシュで職人として堅実に仕事をこなした三嶋さんは、その後パリの高級住宅街16区にある洋菓子店「アクトゥール」でパティシエの最高位・シェフとして勤めることに。ここであるフランス女優が訪れるパーティーで出す、特注のケーキのオーダーを受けました。オーダー時の希望は、「何か変わったものを作ってほしい」。そこで三嶋さんが作ったのが、ダックワーズの原型となる丸型ケーキを使ったデコレーションケーキでした。
「ダックワーズは、もともとフランスでダッコワーズと呼ばれる焼き菓子です。ダッコワーズはメレンゲを使った厚みがない焼き菓子で、主役ではなく脇役。それを主役にしたデコレーションケーキは、仲間のフランス人パティシエからも新しい味として評価されました」。さらに、ケーキを受け取った客が後日、お礼を伝えに来店するほど喜ばれる味でした。
最中をヒントに「ダックワーズ」を考案
フランスで磨いた洋菓子の技術に、しっかりとした手応えを感じた三嶋さんは、その後、帰国し、故郷・福岡へ。店を構えるエリア・浄水通りの閑静な雰囲気が、パリの16区と通じるものがあったことから、店名を「フランス菓子16区」としてオープンさせました。
ダックワーズは、開店当時から店頭に並ぶ16区の看板商品。「和菓子の最中をイメージして作ったのが、今のダックワーズです。最中も、外はサクッとしているけど、中のあんこはもったりやわらかい。これを応用すれば、新感覚の焼き菓子ができるんじゃないかと考えたんです」
フレッシュな状態で最大限に際立つ、独特の食感と口どけ
ダックワーズの特徴は、その食感にあります。最中からヒントを得たという三嶋さんの言葉通り、生地の外側はサクッと軽やか。中はふわっとやわらかで、ほかにはない食感です。アーモンドの香ばしい香りと甘さが広がったあとは、とけるようになくなっていきます。
焼き菓子を保存するため、梱包時によく使われる脱酸素剤を使うことがないのが16区の特徴。そのため、賞味期限は12日と焼き菓子にしては短いですが、この独特の食感と口どけを最大限に楽しめるのはフレッシュな状態だからこそ。「長く保存すれば味は変わってしまうから、早めに食べるのがおすすめですよ」と話してくれました。
素材、技術の違いで生まれる唯一無二の味
実は、ダックワーズのレシピは広く全国の洋菓子店に公開されています。材料はとてもシンプルで、卵白にアーモンドプードル、砂糖、粉砂糖、サンドするクリームはバター、生クリーム、砂糖、そしてつなぎに使う薄力粉。それなのに、なぜ16区の味が唯一無二として人々に愛されているのでしょうか。それは、素材へのこだわりと三嶋さんが培ってきた技術があるからこそです。
「まずは素材選び。例えばアーモンドプードルは、イタリアコルシカ島産など、ひとつひとつ納得したものを使っています。また、同じ材料・配合で作っても、卵白の立て方や合わせ方、生地の絞り方や焼き方などでまったく味は異なってくるんです。ダックワーズはシンプルな素材・レシピだからこそ、ちょっとした差で味が変わってくる。レシピを知っていても、うちの味はほかで作られるものではないんです」
福岡で生まれた、世界で愛される味
16区で生まれたダックワーズは、福岡から全国へ。そして、今ではフランスやベルギーなどでも愛される焼き菓子となっています。洋菓子の本場・パリに憧れ、挫折し、立ち上がったひとりの日本人が作った、日本生まれのフランス菓子。日本の洋菓子界を牽引してきた16区の味を、ティータイムに迎えてみてはいかがでしょう。
九州支部(福岡県福岡市担当) / 戸田 千文(とだ ちふみ)
愛媛県出身、広島、東京での暮らしを経て、福岡で暮らすフリー編集ライターです。各地を転々としたおかげで、ローカルのおいしいモノ・楽しいコトに興味深々!食いしん坊代表として、特にご当地グルメと地酒は無限の可能性を秘めていると感じます(笑)。首都圏と地方を結ぶ架け橋となるような仕事をしたいと奮闘中です。
九州一の繁華街がありながら、海・山といった自然も近い福岡市。天神から電車で2駅の大濠公園散策はリフレッシュにぴったりで、毎週訪れるほどお気に入りです。