能登半島の中央に位置し、高級温泉旅館が立ち並ぶ和倉温泉があることで知られる七尾市には、
幕末から明治初期にかけて始まり、今なお続く「花嫁のれん」という独特の婚礼風習があります。
今回はその文化を紹介する「花嫁のれん館」と、そのすぐそばにあるかつての街道で、
情緒あふれる歴史的建造物が数多く残る「一本杉通り」を訪ねました。
能登半島の中央に位置し、高級温泉旅館が立ち並ぶ和倉温泉があることで知られる七尾市には、幕末から明治初期にかけて始まり、今なお続く「花嫁のれん」という独特の婚礼風習があります。今回はその文化を紹介する「花嫁のれん館」と、そのすぐそばにあるかつての街道で、情緒あふれる歴史的建造物が数多く残る「一本杉通り」を訪ねました。
まず訪れたのは、日帰りで入浴できる公共浴場「和倉温泉総湯」。温泉の泉質はナトリウム・カルシウム・塩化物泉で、その質の高さからドイツで開催された「万国鉱泉博覧会」で入賞したこともある人気スポットです。約82度と高温の源泉は、加水せず「熱交換器」で冷まして使用しています。湯の成分が身体に膜を作ることから高温でも入りやすく、芯から温まって湯冷めしにくいのだそうです。
総湯で温泉を満喫した後は、車で東へ約3分、七尾西湾に面する「湯っ足りパーク」へ。こちらでは、爽快な海の風景を望める東屋に設置された無料の足湯に浸かりながら、癒やしのひと時を過ごすことができました。
〈上〉開湯から約1200年、明治時代、この地に移設されてから七代目の建物となる和倉温泉総湯 〈左下〉源泉100%の温泉が引かれる総檜の浴室。心地いい風を感じる露天風呂も 〈右下〉「湯ったりパーク」の足湯からは、右手に能登島大橋、左手にはツインブリッジのとを望める
絶景の足湯スポットを後にして、今回の目的地の一つである「一本杉通り」へ。この通りは江戸時代、七尾から奥能登へと続く唯一の街道で、多くの商店が立ち並び栄えていました。名前の由来は、かつて通りにあった杉の木が、目印として親しまれていたことなのだとか。
街道としては広い、幅3mほどの白い石畳の通りは全長約500m。七尾駅前を流れる御祓川(みそぎがわ)にかかる仙対橋から、桜川の小島橋まで真っ直ぐ続いていて、その間に往時の面影を残す店や住宅が点在しています。そのうち「高澤ろうそく店」「鳥居醤油店」「勝本邸」など明治時代に建造された5軒は国の登録有形文化財に指定されており、今でも商店、住まいとして活用されています。情緒ある建物を眺めながら、代々受け継ぐ製法で作られる醤油や、希少な和ろうそくなどを購入。一本杉通りならではの買い物を堪能しました。
〈上〉一本杉通りには、老舗昆布店や、地元の蔵元の日本酒やワインが揃う酒店、通りから少し入ったところには、旧酒蔵の建物を利用したカフェなども 〈左下〉明治43年(1910)頃に建てられた高澤ろうそく店では、ろうそく造りの道具を展示 〈右下〉四季折々の花が描かれた「花絵和ろうそく」。2号サイズ3本セット1080円~
この通りを訪れたら、ぜひ立ち寄っておきたいのが、26ヵ所設置されている「語り部処」です。「語り部」を務めるのは、商店のご主人や女将さん、地元のおじいちゃんおばあちゃん。みなさん一本杉通りの魅力や歴史、暮らしについてやさしく教えてくれます。「『花嫁のれん』の風習をPRするイベントを開催した時に、この地域に関するご質問をたくさん受けたんです。それに答えられる人が必要だ、ということで、語り部処を始めたんですよ」と教えてくれたのは、北林昌之さん。北林さんが営む北島屋茶店では、石臼を使って抹茶を挽くことができます(500円)。自分で挽いた抹茶をいただきながら、一本杉通りや、花嫁のれんの歴史について貴重なお話を伺うことができました。
〈上〉「語り部はみんな個性的で、それぞれ話の内容も違うから、いくつか巡って聞いてみてください」と北林さん 〈左下〉明治37年(1904)頃に建てられた北島屋茶店の二階には、かつて朱に塗られていた紅殻格子が 〈右下〉昭和初期に建てられた高澤勇吉商店。こちらの店主も語り部のひとりだ
一本杉通りの脇道に、今回の旅のもう一つの目的地「花嫁のれん館」があります。「花嫁のれん」とは幕末から明治初期にかけて、加賀藩の領地で生まれた風習。嫁ぎ先の仏間の入り口にのれんをかけて、それをくぐってご先祖様に挨拶をすると、結婚式が始まるというものです。のれんの手前が「実家」、くぐったら「嫁ぎ先」と、のれんが結界のような役目を果たしていて「これをくぐったらもう後戻りできない」という花嫁の覚悟を促すものだったといいます。のれんは花嫁が花嫁道具として、実家の家紋を入れて持参する高価なものですが、結婚式の後は箪笥の奥にしまわれ、二度と掛けられることはないそうです。
こちらでは、そんな花嫁のれんを各所から集めて展示。明治から平成までの花嫁のれんを見比べてみると、その柄や色、幅の変化に時代の移ろいを感じます。
〈上〉季節のテーマに合わせたのれん展や、婚礼衣装や道具、婚礼文化を紹介する企画展も実施 〈左下〉館内に再現された旧家。玄関である土間から和室、仏間へと続く 〈右下〉明治から平成まで、時代順に並ぶ花嫁のれんの常設展示
展示を見るだけでも十分に楽しめますが、実際に花嫁のれんくぐりの体験ができるのも、この施設ならでは。白無垢または色打掛を着たら、忠実に再現された旧家の玄関から仏間へ。実際にのれんをくぐる様子を写真に収めることができます。訪れた際に体験していた女性に話を聞くと「白無垢は重いし暑い!大変なんだなと実感しました」とにっこり。10月に結婚式を行うそうで、その前撮りとして来られたとのことでした。
なお、館内にはショップもあり、「花嫁のれん」にちなんだ商品や、七尾市の名産品を販売。なかでも、花嫁のれん柄のポストカード108円、花嫁のれん館オリジナルキャラクター「お嫁ちゃん」のイラスト入りクリアファイル324円など、オリジナルアイテムが売れ筋なのだとか。
和倉温泉で知られる七尾市は、良質な温泉への入浴はもちろん、明治建造の建物や地元の語り部によるお話、花嫁のれんの風習など、歴史情緒と人情にあふれる街でした。みなさんもぜひ一度、訪れてみませんか。
(2019年8月)
〈上〉明治時代の木綿ののれん。大正時代までは、こうした青や紫色ののれんが主流だった 〈左下〉加賀友禅の技法を用いられた、五幅の絹ののれん。平成に入ってから作られたものだ 〈右下〉身が引き締まるような厳かな雰囲気が漂う花嫁のれん体験(要予約、1名3000円)。多い時で一日5~6組行われる
約100年の歴史を持ち、そのもてなしの質の高さから日本一の呼び声高い老舗旅館「加賀屋」と、温泉の中心部から少し離れ、波穏やかな海と小高い山に囲まれた景勝の宿「多田屋」。いずれ劣らぬ二軒のどちらかを選んで宿泊し、加賀旅情を満喫できるプランです。宿自慢の温泉にゆったり浸かって疲れをとったら、四季折々の旬味を散りばめた夕食、朝食を堪能。好きな場所へ移動できる観光タクシーも付いているので、七尾市内をはじめ、奥能登や金沢などの観光も楽々満喫できます。
※掲載の「お礼の品」は品切れや季節の都合で受付を終了・中止していることがあります。
〈左〉加賀屋では、館内で銘店巡りや歌劇団によるショーも楽しめる 〈右〉一面ガラス張りのロビーから、壮大な七尾湾の風景を眺められる多田屋
和倉温泉総湯(わくらおんせんそうゆ)
【電】0767-62-2221【住】七尾市和倉町部6-2【交】能越自動車道和倉ICから車で7分【料】入浴440円【時】7時30分~21時(最終受付は20時30分)【休】毎月25日(土・日曜の場合翌月曜)【P】65台
湯ったりパーク(妻恋舟の湯)(ゆったりぱーく(つまこいぶねのゆ))
【電】0767-62-2221(和倉温泉総湯)【住】石川県七尾市和倉町ひばり1-1【交】能越自動車道和倉ICから車で5分【料】入場無料【時】7時~19時【休】天候により休業あり【P】20台
一本杉通り(いっぽんすぎどおり)
【電】0767-53-8743(一本杉通り振興会、花嫁のれん館内)【住】石川県七尾市一本杉町【交】能越自動車道七尾ICから車で10分【時】【休】店舗により異なる【P】なし
花嫁のれん館(はなよめのれんかん)
【電】0767-53-8743【住】石川県七尾市馬出町ツ部49【交】能越自動車道七尾ICから車で10分【料】入館550円、花嫁のれんくぐり体験3000円(入館料込、要予約)【時】9~17時(入館は16時30分まで)【休】展示替え期間、年末年始【P】60台