【SDGsへの取り組み】
目標12「つくる責任 つかう責任」
Ayは伊勢崎市銘仙の着物をアップサイクルし、衣服や小物にしています。
アップサイクルとは、古くなった物、不要な物を素材としてそのまま利用し、デザインやアイデアなどで付加価値をつけて新しいものへと生まれ変わらせるものづくりの事です。リサイクルでは廃棄されたペットボトルを新しいペットボトルに再生したり、糸に作り替えて新たな物の原料として再利用したりしますが、アップサイクルでは不要になった物の素材感をそのままに、新しいものへと生まれ変わらせます。
アップサイクルは、エネルギー消費量が圧倒的に低いことが特徴です。
?理由(1)無駄な生地の生産をする必要が無くなること
理由(2)ゴミになるはずだったものなので、焼却のエネルギーも使わなくて良くなること
理由(3)布を繊維に戻すエネルギー消費も不要になる
などの理由があります。
Ayの商品は、着物を一つ一つ手作業でほぐし、銘仙を布として現代の生活に合うようなデザインを施しています。
ぜひ、古き良き文化の新しさをお楽しみください。
養蚕王国・群馬で織物のまちとして発展した伊勢崎市
赤城山南麓に位置し、古くから養蚕が盛んだった群馬県伊勢崎市。江戸時代には太織(ふとおり)、明治以降は平織の絹織物「伊勢崎銘仙(いせさきめいせん)」が日本中の女性の注目を集めるなど、「織物のまち」として発展しました。現在も、伊勢崎市には世界遺産「富岡製糸場と絹産業遺産群」の構成資産である「田島弥平(たじまやへい)旧宅」、繭の倉庫として使われていた「境赤レンガ倉庫」などがあり、養蚕王国の足跡を見ることができます。
多彩な表情を持つトラベルサコッシュ
返礼品は、織物のまちを代表する「伊勢崎銘仙」を使った、普段使いにぴったりな斜め掛けの軽量バッグ「トラベルサコッシュ」です。サコッシュは大正から昭和初期に織られた伊勢崎銘仙の古い布にデザイン性を加えて新たに蘇らせた製品です。伊勢崎銘仙の特徴であるにじんだような独特の柄と絹が持つ美しい風合いを存分に味わえる一点物の製品です。
明治、大正、昭和に普段着として一世風靡した伊勢崎銘仙
伊勢崎銘仙は明治、大正、昭和の時代、普段着、おしゃれ着として日本中の女性をトリコにした、織る前に色柄をつける「先染め」の平織り絹織物。とくに、たて糸とよこ糸に柄をつけて、手織り機で一本一本併せて織る「併用絣(へいようがすり)」は伊勢崎銘仙だけの技法で、たて糸とよこ糸が重なるため、鮮やかな色彩となり、絵画のような柄に仕上げることができます。その見事な技術は昭和50年に通産省(当時)の伝統工芸品に指定されています。
一世を風靡した伊勢崎銘仙ですが、高齢化や市場の縮小などによって衰退の一途をたどっています。そこで、伊勢崎銘仙を新しい形で蘇らせようと奮闘しているのが、返礼品のトラベルサコッシュなどを製造・販売する株式会社Ay(あい)代表の村上采(むらかみ あや)さんです。
伊勢崎銘仙との出会いは中学時代の「ふるさと学習」
村上さんと伊勢崎銘仙(以下、銘仙)との出会いは10年前。中学校の授業で行われた「ふるさと学習」に、銘仙の魅力を広める「銘仙プランナー」の女性たちが訪れました。その時初めて銘仙を目にした村上さんは、色や柄の美しさに衝撃を受けたそうです。その後、銘仙プランナーが企画するイベントの参加を通じて、さらに銘仙への理解を深めていきました。
一方、「広い世界を見て視野を広げたい」と考えていた村上さんは中学3年の時、アメリカに1年間留学。その時、南アフリカ共和国からきた留学生の明るく魅力的な人間性に感化されてアフリカに興味を持ち、大学ではゼミの一環でコンゴ民主共和国にも訪れました。当初は文化交流のワークショップなどに携わっていましたが、次第に「もっと持続可能な活動を手がけたい」と、現地の人たちと日本向けの洋服作りをスタートし、日本で販売するビジネスを開始しました。
世界で取り組んだことを地元・伊勢崎で
ところが、新型コロナの感染拡大により計画は頓挫。群馬に戻り、「自分は何がやりたいのか」を模索しているなかで再び伊勢崎銘仙の存在に思い至りました。
実は、アメリカでもコンゴでも常に伊勢崎銘仙の古着を持参していた村上さん。着付け体験などのワークショップや、伊勢崎銘仙とアフリカンファブリックのコラボも行っていたそうです。「コンゴでは、地域の良さを新しくブランディングしたり、デザインしたりして世界に発信していました。私の活動の原点ともいえる銘仙を使い、この伊勢崎でも同じようなことができるのではないかと思ったんです」
銘仙独特の美しい柄を最大限に生かした製品の数々
早速、伊勢崎銘仙の仕入れからスタートした村上さん。リサイクルショップやオンラインの着物屋などから、80?100年前に織られた伊勢崎銘仙を探していきました。数多くの着物からどうやって伊勢崎銘仙を見つけるのかというと、伊勢崎銘仙にしかない併用絣の柄をひたすら見つけていくのだそう。「見分けられるようになるまで苦労しました」と当時を振り返ります。見つけた伊勢崎銘仙は、生地の柄をもとにスタッフが新たな商品にデザインし、伊勢崎市にある委託先の縫製工場で製品に仕上げていきます。
返礼品は、伊勢崎銘仙の美しい柄が最大限生かせるようなデザインと、県内の製造にこだわっています。村上さんに製品を見せていただくと、ブラウスやスカーフ、ポーチなど多彩。「“銘仙”視点で考えています」という言葉通り、例えばブラウスやワンピースは着物の36cmという幅を生かした華やかなデザインになっていたり、トートバッグは大きな柄がワンポイントになっていたりと、どれもおしゃれ。大正や昭和初期に織られた布は古さをまったく感じさせず、銘仙ならではの美しく斬新な色や柄にはただただ驚かされるばかりです。
一点物のトラベルサコッシュは色、柄もさまざま
シルク100%のトラベルサコッシュは、財布とスマートフォンが収まる、ちょっとしたお出かけにぴったりのサイズです。紐の長さも調節でき、裏側の生地には丈夫な紬を使用。「どれも一点物。シックやカラフルなど、イメージを伝えていただければ、ご希望に添った製品をお届けします」と村上さん。銘仙の着物を着ていた世代から若者まで、幅広い年代に愛用されています。
文化を織りなおし、“メイドインローカル”を発信
Ayのコンセプトは「文化を織りなおす」。この“織りなおす”には、村上さんの思いが凝縮されています。「Ayというブランドが、衰退している文化に光を当てられる存在になれたら。新しさ、アイデアを加えて、新しく世に発信していきたいという思いの『織りなおす』なんです」
現在、国内の産地と銘仙とのコラボも計画中というAyから今後、どんな素敵な“メイドインローカル”が生まれるのでしょうか。伊勢崎銘仙の未来を語る村上さんの芯の強さを感じさせるキラキラした瞳が印象的でした。
関東支部(群馬県伊勢崎市担当) / 斎藤 里香(さいとう りか)
群馬県桐生市在住。北関東と埼玉を中心に取材・執筆活動をしています。一番、大切にしたいのは、人々の「思い」です。いろいろな「コト」や「モノ」に携わっている人々の“代弁者”として、頑張っている姿、その根底にある思いなどを多くの人たちに伝えることができたら嬉しいです。
織物、養蚕の奥深い歴史を垣間見ることができる伊勢崎市。とくに近代養蚕法を開発した世界遺産「田島弥平旧宅」はおすすめです。