3000m級の山々が連なる北アルプスを西に、1000m級の連山を東に抱く、長野県大町市。
中心地の大町温泉郷は、黒部ダムへのアクセスタウンとしても有名です。
そんな中、知る人ぞ知る秘密の場所が大町ダム。他のダムではなかなかお目にかかれない、
ハイセキュリティな区画まで見学できると聞き、訪ねてみました。
数々の温泉が点在する大町市の中でも、「大町温泉郷」は黒部ダムや立山黒部アルペンルートへの玄関口にあたる場所。「黒部観光ホテル」をはじめ、広大なカラマツ林の中にたたずむ多くの宿泊施設では、高瀬渓谷に湧く秘湯・葛温泉から引き湯をした温泉が、黒部ダムを目指す人やアルピニストたちを癒やしています。
また、大町温泉郷周辺のみどころとして有名なのが、北アルプスが一望できる「鷹狩山展望台」。麓から標高1167mに位置する展望台までは徒歩でも2 時間ほどのため、健脚のトレッカーやサイクリストにも人気のスポットです。この展望台にたどり着いた瞬間、そのダイナミックな景観に言葉を失ってしまいました。
〈上〉大町温泉郷にある黒部観光ホテル。温泉は日帰り利用も可能 〈左下〉鷹狩山展望台からは大町市内の町並みと北アルプスが一望できる 〈右下〉鷹狩山展望台は恋人の聖地にも認定されている
鷹狩山展望台から車を走らせること30 分、今回の目的地「大町ダム」へ。
黒部ダムの竣工から23 年後の昭和61 年(1986)に完成した大町ダムは、この地に残る「龍の子太郎伝説」を具現化したダムと言えるかもしれません。日本昔ばなしにも登場するこの伝説では、龍の子太郎が湖の水を人里に流し、安曇野の里を豊かな土地にした、と言います。
標高3180mの槍ヶ岳を水源に、高瀬川の水をたたえた大町市も、かつて度重なる洪水に悩まされていました。上流域の降水量や積雪が多い上、急勾配の川、もろい花崗岩の地質が原因でした。そこで水の量を調節し、余力で電力発電も行える多目的ダムとして、大町ダムが建設されたのです。以来、洪水は調節され、流域の町から長野市まで水道水を確保。ダムからの放流水は電力エネルギーにも変換され、人々を潤しています。
〈上〉エメラルドグリーンの水をたたえるダム湖「龍神湖」。右奥には北葛岳、正面奥には野口五郎岳が見える 〈左下〉ダム天端から高瀬川を見下ろす風景も圧巻 〈右下〉ダム内部から出た放流水を川岸から見たシーン
大町ダムから黒部ダムにかけて複数のダムが続く中、大町ダムならではの醍醐味は内部見学。今回案内してくれたのは、大町ダムに配属された若手職員の田中文彦さん、山岸光さん、熊倉新一さんの3名です。
内部見学は所要約20 分。冒頭にダムの仕組みや目的を聞き、いざダム天端から湖面下70mへ。そこからダムの維持や点検に使われる監査廊へ潜入します。監査廊を見学できるダムは少なく、まさに貴重な体験です。12℃に保たれたひんやりした空気に、「あ、ダムの中にいる」と実感しました。
クライマックスはダム放流管の真上からの眺め。「さあ、放流を楽しんでください」と、約10 分の鑑賞タイムです。鑑賞の間、職員さんたちに、なぜ龍神湖の水はエメラルドグリーンなんですか?と尋ねると、「花崗岩の結晶と硫黄が混ざった水だからです」との答え。大自然の神秘とダムの迫力に圧倒されました。
〈上〉監査廊を案内してくれた熊倉さん。「予約制ではありませんが、電話を一本入れておくと安心ですよ」 〈左下〉山岸さんから簡単な説明を受けて、いざ内部へ 〈右下〉「間近で放流を見るのは感動の瞬間です」と田中さん
大町ダムは、天端周辺だけでなく周囲からの眺めもそれぞれ異なり、みどころ豊富。天端から道を下ったところにある吊り橋からは、放流水を真横から見ることができます。また、ダムの上方へあがると、龍神湖を見下ろす展望台へ。そこからダム天端を見下ろす風景も息を飲むほど。どのスポットにいても、時の経つのを忘れてしまいます。
「ゴールデンウィーク明けから新緑が芽吹き始め、夏は緑が色濃くなり、10 月末くらいからは赤が強い紅葉の季節。ぜひそれぞれの季節を味わっていただきたいです」と若手職員さんたちはみな、口を揃えて言います。大町市には温泉はもちろん、貴重なダム内部見学、四季折々に美しい自然などさまざまな魅力があることを深く知る旅となりました。
(2018年6月)
〈上〉展望台からの景色。エメラルドグリーンの龍神湖を見下ろせる 〈左下〉展望台にはあずま屋があるので、ひと息つくのに最適 〈中央下〉ダムの下、高瀬川にかかる吊り橋 〈右下〉職員さんたちの後ろのゲートからは洪水の際に水が放流される
黒部ダム建設が世紀の大事業と言われたのは、「破砕帯」とよばれる、水を多く含んだ地質との闘いがあったから。大町市では、その破砕帯から湧き出たミネラル水を使用した「ハサイダー」をご当地サイダーとして販売し話題に。また、黒部ダム建設の際、作業員の間で愛飲されていたのが、焼酎と白葡萄酒を混ぜた飲み物。半世紀を経た今、焼酎と白ワインを合わせた「元祖破砕ロック」や、焼酎と赤ワインをブレンドした「大町温泉郷オリジナル破砕ロック」が誕生。また、黒部観光ホテルをはじめ、大町市内の18店舗では、これらのほかにお店のオリジナル破砕ロックも味わえます。
甘さ控えめでさわやかなハサイダー1本200円。大町温泉郷のホテル売店などで販売
左と奥が黒部観光ホテルオリジナル。手前右が大町温泉郷オリジナルの破砕ロック。各500円
大町温泉郷(おおまちおんせんきょう)
【電】0261-22-3038(大町温泉郷観光協会) 【住】長野県大町市平 【交】長野自動車道安曇野ICから車で約40分
鷹狩山展望台(たかがりやまてんぼうだい)
【電】0261-22-0190(大町市観光協会)【住】長野県大町市八坂8583-2 【交】長野自動車道安曇野ICから車で約50分【料】【時】見学自由【休】冬期通行止め【P】40台
大町ダム(おおまちだむ)
【電】0261-22-4511【住】長野県大町市平字ナロヲ大クボ2112-71【交】長野自動車道安曇野ICから車で約45分【料】無料【時】ダム内部見学:平日9時~11時30分、13~16時(電話予約または情報館で受付 ※洪水警戒体制時やダム点検時など案内できない場合もあり)、ダム情報館:8時30分~17時30分、龍神湖散策コース:見学自由【休】内部見学は土・日・月曜、祝日。12~4月【P】17台
黒部観光ホテル(くろべかんこうほてる)
【電】0261-22-1520【住】長野県大町市平2822【交】長野自動車道安曇野ICから車で約40分【料】日帰り入浴800円、1泊2食8790円~(2名利用の場合の1名料金)※いずれも税込【時】日帰り入浴5~10時(最終入場9時)、12~23時(最終入場22時)【休】なし【P】80台