南北40km、東西15kmと、茨城県で最大の面積を誇る常陸太田市。
この地は、良質なそばどころとして江戸時代から名高く、
「常陸秋そば」とよばれる高品質なブランド品種を生み出しました。
今回は、そば好きが通うという市内の名店を訪ね、「常陸秋そば」を堪能してきました。
南北40km、東西15kmと、茨城県で最大の面積を誇る常陸太田市。この地は、良質なそばどころとして江戸時代から名高く、「常陸秋そば」とよばれる高品質なブランド品種を生み出しました。今回は、そば好きが通うという市内の名店を訪ね、「常陸秋そば」を堪能してきました。
茨城県北部に位置する常陸太田市は、豊かな山々と水田や畑が広がる自然豊かなエリアです。なかでも美しいのは、竜神川の浸食によって形成されたV字型の峡谷・竜神峡。下流にあるダム湖の上空には全長375m、湖面からの高さ100mの「竜神大吊橋」が架かり、橋の上からパノラマの峡谷美を楽しむことができます。
「レッツ、バンジー!」。かけ声の方を振り向くと、橋から飛び降りる人が! そう、ここ竜神大吊橋はバンジージャンプにチャレンジできることでも有名なんです。常設開催の施設としては日本一の高さを誇り、スリルを求めて日本各地から挑戦者がやってきます。
〈上〉一度に3500人が渡っても問題ない設計で、ほとんど揺れを感じない 〈左下〉バンジージャパンが運営する竜神バンジー。料金は1回目1万6000円で、9時~16時30分受付(予約優先、当日受付可)。詳細はHPで確認を 〈右下〉竜神峡が赤く色づく11月上~下旬には「竜神峡紅葉まつり」が開催される
竜神大吊橋から車で約30分。常陸秋そばを味わうために訪れた一軒目は「SOVA TEA 越路」です。
常陸秋そばは、昭和53年(1978)に金砂郷村(現常陸太田市)の在来種をもとに開発された品種で、そばの実が大きく、色は濃く、収穫量が多いのが特徴です。現在では常陸太田市以外にも生産エリアが広がっていますが、高品質なブランドを守るため、栽培方法や種子の検査などに厳しい基準が設けられています。
大谷石の床が印象的な店内に入ると、庭の紅葉やアジサイが窓から見える席に案内されました。さっそく、お店自慢の「限定せいろ」を注文します。常陸秋そば発祥の地である金砂郷産の貴重な玄そばを使った一品です。「まずはお猪口に入った水につけて、次は岩塩でどうぞ」と、お店の方が食べ方を教えてくれました。
〈上〉限定せいろ1100円(限定20食)。食感と香りをいっそう楽しめる板状のそば付き 〈左下〉人気店ゆえ、週末は1時間ほど待つことも 〈右下〉テーブル席と座敷席があり、席数は多い。せいろ750円、天ぷらなどが付く越路セット1500円
「そばの風味、香り、甘みが際立っているね」と、常陸秋そばの魅力を語ってくれたのは、店主の涌井文志朗さん。たしかに、水につけて味わった常陸秋そばは、口の中いっぱいにそばの風味が広がり、そばの香りがのどから鼻にスーッと抜けていきました。「石臼でゆっくり製粉すると、そばの風味が損なわれないんです」と涌井さん。
「それに、そば打ちもしやすい。水回しのときは、かってにそば粉同士がくっついて、ひとりでにまとまっていくような感じだね」。水回しとは、そば打ちの最初の工程。そば粉とつなぎを混ぜたものに水を加えて撹拌し、大きなかたまりにしていく作業です。そば職人ならではの評価に、常陸秋そばが、そば通だけでなく、そば職人からも好まれているという理由の一端を垣間見た気がしました。
〈左〉3本ののし棒を巧みに操り、均一の厚さに伸ばしていく 〈右上〉一度に打つそばは4kg。限定せいろのそばは外一(そば粉10に対してつなぎ1の割合)だが、通常は二八で打つ 〈右下〉そばぜんざい600円などの甘味や、ドリンクも充実
次に向かったのは、SOVA TEA 越路から車で5分ほどの「手打ちそば 赤土」。赤土とは、常陸秋そば発祥の金砂郷地区のなかでも、最もおいしいそばがとれるといわれる土地の名です。
店主の海老根孝さんは、赤土のそば農家の生まれ。両親は、地元でも有名なそば栽培とそば打ちの名人でした。しかし、実家のそば畑はお兄さんが継ぎ、海老名さんは日本料理の道へ。それから23年間、板前として働きましたが、「母が元気なうちに、そば打ちの技術を継ぎたい」と、板前を辞めて、母に師事。そして店を構えたのは、平成13年(2001)のこと。
お店で使うそばは、すべて金砂郷産の常陸秋そば。新そばがでる11月には、赤土の実家の畑でお兄さんが育てた玄そばだけを使った十割そばが登場します。
〈上〉自家製辛み大根そば・そば茶漬けセット1000円(限定20食)。ごはんをそばの実で包んで揚げたそば茶漬けは、カリカリとした食感がたまらない 〈左下〉母親直伝のそばは、少し太めの田舎風 〈右下〉金砂郷産のそばは、市から認定された店だけで使える
冷やしカレーそば(5~9月限定)、そばサラダ、明太子とろろそば、そばプリン……。お店に入ってメニューを開くと、ほかのそば店では見かけない料理の数々に面を食らってしまいました。
そばにうるさいお客さんから「邪道」といわれたこともあるそうですが、「定番だけじゃ飽きられるし、お客さんのニーズもあって」と、徐々に変わりダネメニューが増えていったそうです。そばサラダはピリ辛のツユが後を引くし、そばプリンの独特のねっとりとした食感はこれまでに食べたことのないもの。そばの新境地を開拓したい人は、ぜひ足を運んでほしいお店です。
今回は2軒しか行けませんでしたが、市内にはまだまだたくさんのそば店があります。11月上旬に「常陸秋そばフェスティバル 里山フェア」というそば祭りが開催されると、市内のそば店では、いっせいに新そばの提供が始まるそうです。美しい自然、スリル満点のアクティビティ、そして絶品のそばが待っている町、常陸太田市。一度、訪れてみてはいかがでしょうか。
(2018年8月)
〈上〉そばサラダ800円。ゴマや豆板醤などを加えたオリジナルのツユが味の決め手 〈左下〉そばプリン300円は、炒ったそばの実をトッピングしてある 〈右下〉そば打ちはご主人が、茹でるのは奥さんが担当し、夫婦で店を切り盛りする
2018年5月、竜神大吊橋の下にある竜神ダム付近に「竜神カフェ」がオープンしました。渓谷に突き出すような造りで、ハンモックが吊るされることもあるウッドデッキからの眺望が人気。カプチーノやカフェモカなどのドリンクのほか、常陸秋そばの実と牛乳を使ったフロマージュなどのスイーツも味わえます。
鮮やかなブルーに塗られた鉄骨が印象的
熱々の器で供されるフレンチトーストは880円
竜神大吊橋(りゅうじんおおつりばし)
【電】0294-87-0375【住】茨城県常陸太田市天下野町2133-6【交】JR常陸太田市から茨城交通バス下高倉行きまたは下高倉・大子行きで40分、竜神大吊橋下車すぐ【料】渡橋310円【時】8時30分~17時(受付は~16時40分)【休】無休(荒天による通行制限あり)【P】265台
SOVA TEA 越路(そば てぃー こしじ)
【電】0294-72-2333【住】茨城県常陸太田市稲木町1395-4【交】JR常陸太田益から車で5分【時】11~15時【休】月曜(月曜が祝日の場合は翌日)、毎月4週目の月・火曜【P】15台
手打ちそば 赤土(てうちそば あかつち)
【電】0294-72-2008【住】茨城県常陸太田市金井町1788-2【交】JR常陸太田駅から徒歩15分【時】11~14時、17時~20時30分LO【休】水曜【P】共有20台(満車時は要連絡)
竜神カフェ(りゅうじんかふぇ)
【電】0294-87-0333【住】茨城県常陸太田市下高倉町2153-39【交】JR常陸太田駅から車で30分。または竜神大吊橋を渡ってから徒歩15分【時】11~16時 【休】火・水曜【P】15台